若月賞に稲葉剛さんら3人 佐久総合病院で受賞者講演
天の海に雲の波立ち月船(つきのふね)星の林に漕ぎ隠る見ゆ
万葉集
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若月賞に稲葉剛さんら3人 佐久総合病院で受賞者講演
朝日新聞 2023年7月27日 遠藤和希
保健、医療、福祉の分野で功績のあった人に贈られる第31回若月賞(農村保健振興基金主催)に、困窮する人たちの支援活動を続ける一般社団法人「つくろい東京ファンド」代表理事の稲葉剛さん(54)ら3人が選ばれた。長野県佐久市の佐久総合病院で21日に授賞式が開かれ、3人に賞状が手渡された。
受賞したのは稲葉さんのほか、地域の精神科医療の変革に取り組んだ愛媛県愛南町の御荘診療所長の長野敏宏さん(52)と、水俣病患者の生活実態を伝えた報道写真集「MINAMATA」をまとめたアイリーン・美緒子・スミスさん(73)。
稲葉さんは、東京・新宿の路上生活者支援に取り組み、2001年に「自立生活サポートセンター・もやい」を設立。14年まで理事長を務め、現在は空き家を活用した低所得者向けの住宅支援事業も続けている。
同病院で21、22日にあった受賞講演で稲葉さんは「セーフティーネットも徐々に整ってきてはいるが、路上生活で精神疾患を抱える方や外国人支援など、まだほころびもある」と話した。
長野さんも精神医療や保健福祉のあり方、支援する側とされる側の垣根をなくす共生社会への取り組みを紹介。アイリーンさんは水俣病や原発を巡るこれまでの取り組みを振り返った。
若月賞は、佐久総合病院の院長として長く地域医療に尽くした
故・若月俊一氏の功績をたたえ、1992年に制定された。(遠藤和希) https://www.asahi.com/articles/ASR7V7TS4R7PUOOB005.html ==
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「命は大切」の欺瞞
矛盾に満ちたこの社会には、死に場所として知られる崖や森があった。あったと言いたいが、今もある。そんな場所の近くを訪れ、さまよう見知らぬ人を見つけると、そっと声をかける僧がいた。死のうと決めた人を前にして、直截の自殺予防と言えるものは、これくらいであろう。生から死へ、川の流れに譬えるなら、これは川下での自殺予防である。
その前、川の中ほどの予防とは、人が絶望して死にたくなる誘因を無くする活動である。病気で生計が行き詰まる。住宅ローンや消費者金融からの債務に苦しむ。連帯保証の債務に追い立てられる。使い捨ての派遣雇用しかなく希望がない。これらは医療費、雇用、債務にかかわる相談支援によって、自殺予防するしかない。経済的問題で苦しむ人は、「命ほど尊いものはない、命を大切に」と説く講演会に足を運ぶ余裕はない。同種の新聞広告、公共広告を見て、ハッと気を取り直す人がいるだろうか。
これまで川中での自殺対策はほとんどされてこなかった。ようやく2000年代になって消費者金融のグレーゾーン高金利が禁止され、司法書士・弁護士による整理が多くの多重債務者を救った。また09年12月から13年3月まで施行された中小企業金融円滑化法(いわゆるモラトリアム法)が、少なからぬ中小企業経営者とその職員を救ったと考えられる。
川上における自殺予防とは、人と人との交流の豊かな社会、全ての人びとが生きていて楽しいと思えるような社会を創ることである。老、病、死、いずれも避けがたい。
だが生に必ず伴うこれらの不幸を、生の断念という絶望に変えるのは社会のあり方である。適応ばかりが強いられる楽しくない学校(中学、高等学校)をそのままにしておいて、命の大切さを教えると称する自殺予防教育の提案は、欺瞞に欺瞞を重ねるものである。
https://www.chugainippoh.co.jp/article/ron-kikou/ron/20151106-001.html ==
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遅いのに速い 田中優子
気になっていることがある。政府がことを進める速度とタイミングだ。
教育費の無償化や外国人の受け入れを含めた少子化対策は遅れに遅れ、取り返しがつかないところまで来ている。
再エネ開発も進まず、原発再稼働に追い込まれた。農業振興も遅れ、食料の安全保障は危うい。
世界がどんどん変わっているのに、夫婦別姓も同性婚も実現できていない。
女性活躍と言いながら、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位だ。
では何でも遅いのかというと、軍拡は突然ドカンと予算をつけ、マイナンバーカードの完全導入は超スピードで進めている。
「いったん立ち止まって、システムを整えてから再出発したらどうか」と言っても止まらない。
健康保険証廃止に至っては、マイナンバーカードの取得がうまくできない人は健康保険証が使えなくなる、という当たり前の現実を無視して走り続けている。
なぜ適切な速度でないのか、と不思議に思っていたところ「堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法」(幻冬社新書)が出た。
「今だけ金だけ自分だけ」と堤未果が言ってのけたその言葉で、政府と企業の間の回転ドアを行ったり来たりする岸田文雄首相以下、政治家と忖度(そんたく)官僚の慌ただしい動きが見えてきた。
速度が遅い事柄は、国民にとって必要なこと。
速度が速い事柄は、国民には必要ないが、大企業と政治家が欲しいこと、と整理してみると、「遅い」と「速い」の理由がわかってきた。
改憲して日本が軍隊を持つことは2012年ぐらいから準備してきたようだが、「ウクライナ侵攻」のショックを利用して一気に動き始めた。国民番号制度はずいぶん前から提案されていたが、そこにコロナショックである。「給付金」と「健康保険証」を利用しているのは、コロナを連想させるためであろう。ちなみに軍拡とマイナンバー制度が同じタイミングで動いているのは、明治時代、戸籍制度の制定直後に徴兵令が出されたことを思い起こさせる。
マイナンバー制度そのものについては、個人単位の身分証明書という点で「戸籍をなくす」方向なのであれば歓迎だ。
選択的夫婦別姓制度の発足と戸籍制度の撤廃を同時におこなうのであれば賛成、と声を上げたい。
今の世界で戸籍制度があるのは、中国と台湾と日本だけなのである。
「風速計」 週刊金曜日 2023年7月21日
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天の海に雲の波立ち月船(つきのふね)星の林に漕ぎ隠る見ゆ
万葉集
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若月賞に稲葉剛さんら3人 佐久総合病院で受賞者講演
朝日新聞 2023年7月27日 遠藤和希
保健、医療、福祉の分野で功績のあった人に贈られる第31回若月賞(農村保健振興基金主催)に、困窮する人たちの支援活動を続ける一般社団法人「つくろい東京ファンド」代表理事の稲葉剛さん(54)ら3人が選ばれた。長野県佐久市の佐久総合病院で21日に授賞式が開かれ、3人に賞状が手渡された。
受賞したのは稲葉さんのほか、地域の精神科医療の変革に取り組んだ愛媛県愛南町の御荘診療所長の長野敏宏さん(52)と、水俣病患者の生活実態を伝えた報道写真集「MINAMATA」をまとめたアイリーン・美緒子・スミスさん(73)。
稲葉さんは、東京・新宿の路上生活者支援に取り組み、2001年に「自立生活サポートセンター・もやい」を設立。14年まで理事長を務め、現在は空き家を活用した低所得者向けの住宅支援事業も続けている。
同病院で21、22日にあった受賞講演で稲葉さんは「セーフティーネットも徐々に整ってきてはいるが、路上生活で精神疾患を抱える方や外国人支援など、まだほころびもある」と話した。
長野さんも精神医療や保健福祉のあり方、支援する側とされる側の垣根をなくす共生社会への取り組みを紹介。アイリーンさんは水俣病や原発を巡るこれまでの取り組みを振り返った。
若月賞は、佐久総合病院の院長として長く地域医療に尽くした
故・若月俊一氏の功績をたたえ、1992年に制定された。(遠藤和希) https://www.asahi.com/articles/ASR7V7TS4R7PUOOB005.html ==
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「命は大切」の欺瞞
矛盾に満ちたこの社会には、死に場所として知られる崖や森があった。あったと言いたいが、今もある。そんな場所の近くを訪れ、さまよう見知らぬ人を見つけると、そっと声をかける僧がいた。死のうと決めた人を前にして、直截の自殺予防と言えるものは、これくらいであろう。生から死へ、川の流れに譬えるなら、これは川下での自殺予防である。
その前、川の中ほどの予防とは、人が絶望して死にたくなる誘因を無くする活動である。病気で生計が行き詰まる。住宅ローンや消費者金融からの債務に苦しむ。連帯保証の債務に追い立てられる。使い捨ての派遣雇用しかなく希望がない。これらは医療費、雇用、債務にかかわる相談支援によって、自殺予防するしかない。経済的問題で苦しむ人は、「命ほど尊いものはない、命を大切に」と説く講演会に足を運ぶ余裕はない。同種の新聞広告、公共広告を見て、ハッと気を取り直す人がいるだろうか。
これまで川中での自殺対策はほとんどされてこなかった。ようやく2000年代になって消費者金融のグレーゾーン高金利が禁止され、司法書士・弁護士による整理が多くの多重債務者を救った。また09年12月から13年3月まで施行された中小企業金融円滑化法(いわゆるモラトリアム法)が、少なからぬ中小企業経営者とその職員を救ったと考えられる。
川上における自殺予防とは、人と人との交流の豊かな社会、全ての人びとが生きていて楽しいと思えるような社会を創ることである。老、病、死、いずれも避けがたい。
だが生に必ず伴うこれらの不幸を、生の断念という絶望に変えるのは社会のあり方である。適応ばかりが強いられる楽しくない学校(中学、高等学校)をそのままにしておいて、命の大切さを教えると称する自殺予防教育の提案は、欺瞞に欺瞞を重ねるものである。
https://www.chugainippoh.co.jp/article/ron-kikou/ron/20151106-001.html ==
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遅いのに速い 田中優子
気になっていることがある。政府がことを進める速度とタイミングだ。
教育費の無償化や外国人の受け入れを含めた少子化対策は遅れに遅れ、取り返しがつかないところまで来ている。
再エネ開発も進まず、原発再稼働に追い込まれた。農業振興も遅れ、食料の安全保障は危うい。
世界がどんどん変わっているのに、夫婦別姓も同性婚も実現できていない。
女性活躍と言いながら、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位だ。
では何でも遅いのかというと、軍拡は突然ドカンと予算をつけ、マイナンバーカードの完全導入は超スピードで進めている。
「いったん立ち止まって、システムを整えてから再出発したらどうか」と言っても止まらない。
健康保険証廃止に至っては、マイナンバーカードの取得がうまくできない人は健康保険証が使えなくなる、という当たり前の現実を無視して走り続けている。
なぜ適切な速度でないのか、と不思議に思っていたところ「堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法」(幻冬社新書)が出た。
「今だけ金だけ自分だけ」と堤未果が言ってのけたその言葉で、政府と企業の間の回転ドアを行ったり来たりする岸田文雄首相以下、政治家と忖度(そんたく)官僚の慌ただしい動きが見えてきた。
速度が遅い事柄は、国民にとって必要なこと。
速度が速い事柄は、国民には必要ないが、大企業と政治家が欲しいこと、と整理してみると、「遅い」と「速い」の理由がわかってきた。
改憲して日本が軍隊を持つことは2012年ぐらいから準備してきたようだが、「ウクライナ侵攻」のショックを利用して一気に動き始めた。国民番号制度はずいぶん前から提案されていたが、そこにコロナショックである。「給付金」と「健康保険証」を利用しているのは、コロナを連想させるためであろう。ちなみに軍拡とマイナンバー制度が同じタイミングで動いているのは、明治時代、戸籍制度の制定直後に徴兵令が出されたことを思い起こさせる。
マイナンバー制度そのものについては、個人単位の身分証明書という点で「戸籍をなくす」方向なのであれば歓迎だ。
選択的夫婦別姓制度の発足と戸籍制度の撤廃を同時におこなうのであれば賛成、と声を上げたい。
今の世界で戸籍制度があるのは、中国と台湾と日本だけなのである。
「風速計」 週刊金曜日 2023年7月21日
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