・以前の上司とは違い、私の研究テーマと研究の進め方には寛大であった。お蔭で、コレステロール合成阻害物質の探索研究が認めてもらえそうな雰囲気がでてきた。
・米国留学中から「コレステロールの吸収阻害剤よりも合成阻害剤のほうがはるかに優れたコレステロール低下剤になる」「カビとキノコの中には他の微生物との生存競争に打ち勝つための武器として、コレステロール合成阻害物質をつくるものがいる」と考えていたので、発酵研に移ったのを機に実践計画の構築に取り組んだ。
・カビとキノコから目的の物質が必ず発見できるという保証はない、賭けのような研究になるので、二年間に数千株の微生物を調べても感触が掴めなかったら研究を打ち切る考えであった。当時発酵研では約2,000株のカビとキノコを保存していた。微生物学の専門家たちが微生物の収集を続けていたので、数千株のカビとキノコを集めることには問題がなかった。必要な研究設備もほぼ整備されていた。
問題は少ない人数でこれを実行できるかどうかであった。その鍵を握るのが一度に100以上の検体(微生物培養液、活性成分の抽出・精製工程から出る検体など)を検定(コレステロール合成霜害活性を測定)する実験方法の構築とそれに用いる高価な放射性物質(放射性酢酸など)の使用量を極力減らすことであった。この二つの問題はラットの肝酵素を用いる既存の検定法を1/15から1/25にスケールダウンした方法を構築し、さらに二日かあkった検定作業を一日で終えるように改良したことで解決できた。人では私を含めて最低4名を必要としたので、当時(1970年)私と一緒に働いていた二名の研究補助員(高卒)だけでは人でが不十分だった。
1971年4月に、大学新卒の新入社員一名が加わるのを待って、研究補助員に名と筆者の四名で、培養液からコレステロール合成阻害剤を探す「スクリーニング」を開始した。
この方法で、72年1月までに2,600株の微生物を調べたが、新薬の種にはなりそうもない既知の有機酸(リンゴ酸とシュウ酸など)が活性物質として抽出された。次に、培養液ではなく、培養液を有機溶媒で抽出して有機酸を除去した抽出法を用いる方法に切り替えた。この改良法で1,200株を調べたところ、72年4月に、イネとキュウリに寄生する植物病原菌と青かびの二株が残った。
1972年9月から、青かびP-51株の培養液(250リットル)を用いて活性物質の抽出精製に入った。溶媒抽出、シリカゲルとフロリジルを担体とするくろまとグラフィーなどを組み合わせた結果、8mgの活性物質(ML-236と仮称)が得られた。ML-236は機器分析から新物質であることが確認された。コレステロール合成阻害活性は非常に強く、・・・。
フラスコでの生産性が一挙に40倍に跳ね上がった。飛躍の最大の原因は麦芽エキスにあった。
・1974年3月から75年暮れまでの二年近くかけた不慣れな動物実験で、ラットに効かない原因をほぼ解明できた。この間の実験を通して、私は血中コレステロールが過剰な動物モデルがあれば、それにはコンパクチンが効くだろうとした当初の考えに自身が湧いてきた。
・ニワトリとイヌに劇的な効果!
・開発プロジェクトの最初の仕事はコンパクチンおよび化学者たちが合成したコンパクチン誘導体(10種余)の中から候補物質一つを選抜する作業であった。
・観毒性の疑いで再度の危機
・1979年1月4日に農工大に着任。同11日、村川と一緒に紅麹菌10株をにシュルの培地で培養した。・・・10株中の一株で10種以上の紅色系色素に加え、三種のコンパクチン同族体をつくることがわかった。・・・三個の同族体には極性の高いものから「モナコリンJ」「モナコリンK」「モナコリンL」と命名した。
・モナコリンKの特許は日本の他に、・・・30か国に出願されたので、メルクは三共から実施権を得ない限り、これらの国では目日のリンの開発ができなくなった。しかし、メルクは三共にモナコリンKの実施権んを要請せず、米国、カナダなど一部の国でメビノリンを商業化した。・・・
メルクは三共と秘密保持契約を交わして、二年以上もの間、三共からコンパクチンの秘密情報・資料と結晶を再三入手しただけでなく、私たちの指導も受けていた。その一方で、彼らは勝手にメビノリンを発見し、権利を独り占めにしてしまった。「プロポーズを信じて二年以上つきあったのに、裏切られた」のである。我が国の常識ではあり得ないことであろうが、契約違反にはならないのだから、文句をつけられないであろう。それにしても、海外との付き合い方に慣れていればこうはならなかったに違いない。
私がモナコリンKを発見していたので、メルクはメビノリン(ロバスタチン)を米国とごくごく一部の国でしか開発できなかった。
・79年に、私はモナコリンK、LとともにモナコリンJを発見し、国内特許を出願していたが、私自身の不注意が原因で、海外特許が残念ながら取得できなかった。国内での出願から一年以内に外国出願手続きをしなければならないのに、気がついたときには期限がすでに過ぎていたのである。この結果、万有製薬が日本国内でモナコリンJからシンバスタチンを製造すれば、(モナコリンJの)特許に抵触するので、私に特許料を支払う義務が生ずる。しかし、メルクが海外で合成したシンバスタチンの原体を輸入し、それを製品にして売るなどしていれば、モナコリンJの特許には抵触しないkとになる。シンバスタチンの全世界での年間売り上げが数千億円に達するので、海外特許を取得していれば、莫大な特許使用料(売り上げの1%でも年間数十億円になる)が入っていたであろう。
三共の「プラバスタチン」は微生物を使ってコンパクタチンからつくった版合成スタチンである。コンパクタチンとの違いは胴部に水酸基が一個余分についただけである。
感想;
新しい画期的な発明には、情熱を持った人がいますね。
そしてその人が研究することができる周りの理解が必要なようです。
小林製薬の紅麹サプリはまさに医薬品のコレステロール削減なので、コレステロール低下に効果があります。
なぜ医薬品成分が食品だったら、何の規制もないのでしょうか?