・私は精神科医です。精神科の薬の使用すべてに反対しているわけではありません。ただ、精神科の薬の作用が根本的に誤解されていて、薬の効果が課題に評価されて、薬の害が過小に評価されているのではないか、ということを心配しています。
・ますます多くの人たちが、潜在的に有害な作用について知らされることなく、抗うつ薬を飲み始めたことを意味しています。
・著名な精神科医たちは、抗うつ薬の副作用を軽視するだけでなく、薬の効果を宣伝し、もっと処方されるべきだと主張し続けました。
・精神科の薬が脳に対してどのように作用するのかは、よく知られていません。脳が薬の影響からどのように回復できるのかもわかっていません。精神科の薬は最後の手段であるべきで、本当にその価値がある場合にのみ使用されるべきです。ところが医師たちは、薬の使用に対してより慎重な態度をとるどころか、ますます頻繁に処方し続けているのです。
・オランダのグループは、7年間にわたって患者の追跡調査を行いました。その結果、維持療法を続けるよりも、抗精神病薬の減薬や断薬を支援したほうが、長期的に見れば、社会的機能を改善し、リカバリーを促すことができるということが示されたのです。
・離脱症状は、薬が中止された後、数ヶ月または数年持続する可能性があり、少なくともいくつかの薬が関わっている場合、薬への繰り返し暴露の影響から身体が回復するためには、以前考えられていたよりも、はるかに時間がかかると考えられるようになってきています。
・もう1つの問題は、身体による薬の効果を打ち消そうとする適応が予測不可能であるということです。
・英国で近年行われたランダム化研究(Morrison 2018)では、精神病状態の初回エピソードの75人について、抗精神病薬で治療されたケースと、認知行動療法(CBT)単独、または認知行動療法と抗精神病薬を併用して治療されたケースが比べられています。1年後には、症状や生活の質、回復や個人的社会的機能の程度に関してどのグループにも差はありませんでした。
・結局のところ、ほとんどの人たちにとって抗精神病薬は急性精神病状態のエピソードにおける精神病状態の症状や他の激しい症状を和らげますが、抗精神病薬を使用しなくても回復する人もいれば、抗精神病薬を服用しても改善しない人もいるということです。
・結論として、長期間の抗精神病薬治療は持続している精神病状態の症状の激しさを減らし、再発を防ぐことがあるのかもしれません。しかし、抗精神病薬を長期に服用することが十分な回復の妨げになっている人がいるというエビデンスもあります。
・よくみられる有害作用
①錐体外路症状
②遅発性ジスキネジア
③脳委縮
④代謝異常
⑤心臓への作用
⑥内分泌系の異常
⑦死亡の増加
・抗うつ薬、とくにSSRIは、それまでになかった自殺願望を人に抱かせる可能性があると指摘されており、場合によっては自殺未遂に追い込むこともあると考えられています。
・米国の自殺率は、他の多くの国とは対照的に過去20年間で33%も増加しています。この自殺者の増加は、同国における抗うつ薬使用の継続的な拡大と並行しているのです。
・ベンゾジアゼピン系の薬は、鎮静作用を持つ薬で、アルコールに似ています。それは、快感や多幸感のほか、リラックスや鎮静をもたらします。・・・
1980年代に入ると、ベンゾジアゼピン系の薬を継続的に服用している人の多くが身体的に依存し、服用をやめると離脱症状が現れることが明らかないなりました。1988年、英国政府の医薬品安全性委員会(CSM)は、ベンゾジアゼピン系の薬はせいぜい数週間程度の処方にとどめるべきであると勧告しました。
・抗精神病薬からの急性離脱症状には、吐き気、嘔吐、下痢、インフルエンザ様症状、不安、興奮、落ち着かない感覚、不眠、痛み、しびれ、めまい、震えなどがあります。段階的に止めていくことで、これらの症状のほとんどは軽くすむでしょう。
・精神科の薬を服用し始めるかどうかを決めるには、多くのことを考慮する必要があります。最も重要なことは、薬を服用し始めることを考えている人と、それを処方しようと考えている医師が、薬がもたらす精神的、身体的な変化の範囲について知る必要があるということです。次に、患者と医師は薬物療法の対象として考えている問題の性質と、それに対して薬がどのように有益であると考えているのかを明確にする必要があります。
・オープンダイアローグという治療アプローチは、知己精神保健チームのサポートだけではなく、それぞれの家族とソーシャルネットワークも治療に引き込むことで、いくつかのケースでは抗精神病薬と用いなくても精神病状態の人々が回復していきました。
・精神科の薬を飲む時に主治医に尋ねるべきこと
①その薬を飲むとどんな状態になるのでしょうか?
②数週間・数ヶ月間続けて薬を服用するとどうなりますか?
③薬が私の問題に役立つという根拠はありますか?
④薬を飲まないで回復したり、改善したりする可能性はどのくらいありますか?
⑤薬物療法以外の方法とsて、他にどんな方法があるのでしょうか?
⑥薬を服用してから何か変化が起こるまで早くてどのくらいかかりますか?
⑦薬をやめたらどうなりますか?
⑧薬が脳や体のシステムに長期的・永続的なダメージを与えるかどうかについて、研究はどんなことがわかっていますか?
⑨薬を使用しないことを決めた場合、一時的に使用して薬を止めた場合、そうしたことが保健サービスにおいて推奨されていないくても、私は支援を受けっれるでしょうか?
・精神科の薬について、最後の一言
この本で推奨している薬物作用モデルは、薬が生物学的および心理的状態を変化させることで、精神医学的問題を抱える人の役に立つ場合があることを示しています。薬物作用モデルは、薬は確かに人に何らかの作用を及ぼし、薬は、単に、通常の感情や精神状態を再現するものではないということです。薬は身体的変化とともに、思考、感情、行動に独特なな変化をもたらします。この変化はすべて、薬ごとの薬理学的特性によって異なっています。薬は、正常な機能を回復させたり、強化させたりするような洗練された方法ではありません。薬は単に薬なのです。一時的には、人をスピードアップさせたりスローダウンさせたりはできます。機敏に感じさせたり、ふらふらに感じさせたりすることもあります。薬によっては奇妙で、普通ではない感覚が生み出される場合もあります。そういった感覚は、心地よいものであったり不快なものであったりします。
しかし、薬は、問題を抱えた人の人生を幸せにしたり、充実させたりはしません。それどころか、薬は、多くの場合、通常の精神的反応と精神的な力を弱めます。時には、苦悩状態や精神病状態よりも、薬がもたらす様態の方が望ましい場合があり、薬が有用となることもあります。ピーター・ブレギンハはこう指摘しています。「生物学的精神医学の治療が効果的だと判断されるのは、医師と患者双方、もしくは医師か患者のどちらかが、精神的能力や情緒的表現の範囲が狭まる脳機能低下状態をよしとする場合である」・・・
薬が病気そのものに効くのだという見方だけを伝えられていた多くの人にとって、薬物作用中心に精神科の薬を考えることは、目新しいことです。そういった人たちは、薬が通常の感情や考え方を変えるかもしれないと言うことは、これまで、考えてみなかったかもしれません。頭の働きを鈍らせることで効果を発揮する薬を内服していることを知るのは苦痛かもしれません。薬の利益のエビデンスはほとんどなく、内服している薬がうまく働いていないことが予想される場合、さらに辛い気持ちになる可能性があります。・・・
長期治療を拒否したり、薬を止めようと決心したりする人は、これまでの想定とは異なり、必ずしも非合理的に行動しているわけではありません。薬を止めたいということは、完全に合理的で正当な決断であり得るのです。その薬がどれほど不快で衰弱させる有害なものであるのかがすでにわかっていることを考えると、薬なしでやっていこうとする人が利用できる、より多くのサポートが必要です。・・・
精神科の薬を服用している多くの人は、その有害な影響に耐えながら、ほとんどもしくは、まったく利益を得ていない可能性があります。この本に書かれている情報が、精神科の薬の良い面と悪い面のすべてについて、より現実的な評価を下すための手助けになることを願っています。
感想;
元製薬企業に勤めていた者が言うのもおかしいかもしれませんが、薬はできれば飲まない方が良いと思います。
先ずは日常生活での改善。
食事、睡眠、運動、快便だと思います。
そして改善されない場合はお薬の力を借りることです。
ただ、急病や薬が第一選択肢の場合は薬に頼ることだと思います。
言えていることは薬のことについて知っておくことが大切だと思います。
知るのは恐い面もありますが、まずは知ることなのでしょう。
この本で知ったのは、薬を止めると再発したり、辛くなったりしますが、それは精神病薬を止めたときの離脱症状が出ている可能性が大きいとのことでした。
薬のことを知り、うまく活用することなのでしょう。
医者に任せきりにして医者が処方する薬を何の疑いもなく飲むことは良くないようです。なかなか日本の医療制度ではそうなってしまいがちですが。
精神科のお薬が増えているのは、製薬会社のPRというか、お薬の良い面だけを伝え、それに協力してくれる医師とともに処方を推奨しているようにも思えてなりません。
極論すると、精神病のお薬は一番効果のあるのは製薬会社の経営に一番貢献しているとの見方もできます。
精神科の薬の明と暗の両方を知ることの大切さをこの本は伝えているように思いました。
今統合失調症についてはオープンダイアローグにより、回復する人が8割ほどとの報告もあり、従来の治療を根本から変えようとしています。
精神疾患でも一番難しいと言われている統合失調症、治らないとも言われていましたが、それが薬に頼らずに良くなっていっているのです。
オープンダイアローグの本を読んでいると、薬をほとんど使わない、使う量が通常より少なくても効果があるとのことでした。
斎藤環先生は精神科医としても多くの患者さんを診て来られましたが、オープンダイアローグはこれまでの考えを根底から変えるようだと、とても熱心にオープンダイアローグに取り組まれています。
ベテルの家での取り組みも、オープンダイアローグに似ているように思います。
精神病の薬を飲むと、自分が自分でなくなっていくのではないかと思っていました。
まさにこの本は前から疑問に思っていたことを支持してくれる本でした。
精神科医で薬を処方され、だんだん薬が増え、薬漬けで苦しんでいる人も多いのではないでしょうか?
中には10種類以上のお薬を飲まれている方もおられます。
確かに興奮を抑えるとか、恐怖を和らげるなどの効果はあります。
でもそれは頭をぼんやりさせたことによる結果の場合もあります。
頭がぼーっとすれば考えることが出来なくなります。
その興奮を、恐怖を薬ではなく別の方法で和らげることが出来るのではないでしょうか。
北條時宗が執権時、元寇がありました。
時宗は怯えます。そのとき、禅の師無学祖元が時宗に言ったそうです。
「その不安は時宗の心から生み出されている」
「煩悩するなかれ」(悩むな!)
つまり時宗が恐れているだけのことであると。
時宗はこれで戦う決意をしたと言われています。
今なら時宗は精神科医に診てもらって安定剤のベンゾジアゼピン系の薬をもらっていたかもしれません。
でもこれでは何の解決にもなりません。
心を病む場合には病む原因、不安事などがあります。
時宗の場合は元寇でした。
不安を薬で和らげることではなく、不安な事象を取り除けば不安がなくなるのです。
精神科ではその不安を除くことは出来ません。不安に耐えるためのお薬は出ます。
学校でいじめがあると子どものメンタルも大切ですが、いじめをなくすことが先決ではないでしょうか。
多くの精神科医が自分のうつ病を薬で治せなくて四苦八苦して治った経験を本に書かれています。
そこからの学びも大きいように思います。
自分の状態を離れて観察できる自分がいれば、どうすればよいかの手段も浮かぶかもしれません。
お薬にはお薬の良さがありますが、お薬には副作用(有害事象)もあると知ったうえで服用することだと思います。
眠れないからすぐに睡眠薬という選択肢もあります。
寝られなくても大丈夫。徹夜しても良いと思えば知らない内に寝ていることがよくあります。
人間の心は不思議です。
寝よう寝よう、寝なければいけないと思えば思うほど寝られなくなります。
寝られなくても良いと思うと寝てしまいます。
心は自分のものなのにコントロールがとても難しいです。
日本の医療制度では、精神科医にこの本で書いてあることを尋ねる時間はないでしょう。
メンタルの病は医者任せだけでなく、自分でも取り組んだ方が良くなるように思います。
薬が効果ない場合は薬を減らしてまたは止めて違う方法を取り組んでみるのも選択肢だと思いました。ただ減薬などには専門家と相談しながら、また一人でなく支援してくれる人と一緒だと心強いですね。
なかなか見つからないようにも思いますが・・・。
Author: J.モンクリフ 著、石原孝二 訳、松本葉子 訳、村上純一 訳、高木俊介 訳、岡田愛 訳
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【書誌情報】
J.モンクリフ 著、石原孝二 訳、松本葉子 訳、村上純一 訳、高木俊介 訳、岡田愛 訳
『精神科の薬について知っておいてほしいこと—作用の仕方と離脱症状—』2022年、日本評論社
ISBN:978-4-535-98508-7
【目次】
推薦のことば――カリ・ヴァルタネン
第1章 精神医学における薬物治療の位置付け
精神疾患の本質/医療化/製薬企業とその他の関係者
第2章 精神科の薬の働き
精神科の薬は疾患を治すのか/
精神疾患は〔脳内の〕化学的不均衡によって引き起こされるのか/
統合失調症、精神病状態のドーパミン仮説/
薬の作用を理解するもう一つの方法:薬物作用モデル/
精神科の薬のおまじない効果/長期使用の影響/薬の作用の理解の歴史/
薬の作用に関するエビデンス/比較研究/動物実験/治療への影響
第3章 研究の重要性
精神科の薬に関する研究をどのように解釈するべきか/
ランダム化比較試験(RCT)の重要性/ランダム化比較試験のデザイン/
精神科の薬のランダム化比較試験に関する問題/薬物作用モデルによる薬の評価
第4章 抗精神病薬
抗精神病薬はどのように作用するのか/症状への効果/
抗精神病薬はほんとうに必要なのか/抗精神病薬の長期間使用/
症状のパターン/他の状態に対する抗精神病薬の使用/
よくみられる有害作用/抗精神病薬処方の潮流/
いつ抗精神病薬を使うのか
第5章 抗うつ薬
抗うつ薬にはどのような効果があるのか/抗うつ薬の短期的効果/
抗うつ薬の短期効果に関するエビデンスの問題点/抗うつ薬の長期使用/
重度のうつにおける抗うつ薬/
不安障害、強迫性障害に対する抗うつ薬の使用について/
よくみられる副作用/離脱症状/抗うつ薬と自殺/
持続的な有害作用/抗うつ薬は有用か
第6章 躁うつ病や双極性障害に使用されるリチウムなどの薬
リチウムの歴史/リチウムおよび他の「気分安定薬」が誘発する効果/
リチウムの特異性/リチウムの長期効果に関するエビデンス/
他の「気分安定薬」の長期効果に関するエビデンス/
リチウムと自殺/有害作用/
躁うつ病や双極Ⅰ型障害における薬物治療の長所と短所/
他の〔Ⅰ型以外の〕双極性障害の薬物治療
第7章 刺激薬〔とくに子どもに関わる人たちへ〕
刺激薬はどのような効果があるのか/
ADHDの刺激薬による治療/刺激薬の有害性/
離脱と「リバウンド」について/処方される刺激薬と薬物乱用/
刺激薬を使用するかどうかの判断
第8章 ベンゾジアゼピン系の薬
作用機序/不安・不眠への使用に関するエビデンス/
緊急時の鎮静剤としての使用に関するエビデンス/
精神病状態・躁状態(mania)での使用に関するエビデンス/
有害作用/ベンゾジアゼピン系の薬の使用
第9章 精神科の薬からの離脱
離脱症状の生物学的基礎/精神科の薬をやめることが及ぼす心への影響/
各種の薬からの離脱/離脱の実際
第10章 精神科の薬が役に立つのはどんなとき?
科学的な研究の役割/薬がもたらす作用/薬物治療以外の選択肢について/
統合失調症あるいは精神病状態のある人々への〔薬物療法以外の〕選択肢について/精神科の薬を飲む時に主治医に尋ねるべきこと
第11章 精神科薬物療法の未来に向けて
私たちはどうやってここにたどり着いたのか/精神疾患の本質とは/
精神科の薬について、最後の一言
訳者あとがき
(石原孝二・高木俊介・松本葉子・村上純一)
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