あさなけに みべききみとし たのまねば おもひたちぬる くさまくらなり
あさなけに 見べき君とし たのまねば 思ひたちぬる 草枕なり
寵
朝でも昼でもいつでも会えるとあてにできるあなたではないので、思い立って常陸への旅に出たのです。
詞書には「常陸へまかりける時に、藤原のきみとしによみてつかはしける」とあることから、この歌の「君とし」には歌を贈る相手である藤原公利が、また「思ひたちぬる」には旅の行き先である「常陸」が詠み込まれていることがわかります。離別歌であると同時に、いわゆる「物名歌」でもある作ということですね。「あさなけに」は「あさにけに」が変化したもので、「け」は漢字で書けば「日」。
作者の「寵(うつく)」は大納言源定(みなもとのさだむ)の孫とされる女性ですが、詳細は不明。古今集には三首が入集しています。