えぞしらぬ いまこころみよ いのちあらば われやわするる ひとやとはぬと
えぞしらぬ いま心みよ 命あらば 我や忘るる 人やとはぬと
よみ人知らず
私にはまったくわかりませんが、さあ試してみてください。私の命が長らえたならば、私があなたを忘れてしまうのか、それともあなたが私の元に来なくなってしまうのか。
この歌も、詞書と併せて読まないと理解することが難しい歌です。少し長いですが詞書をそのまま引用しますと、「紀むねさだがあづまへまかりける時に、人の家にやどりて、暁出でたつとて、まかり申ししければ、女のよみて出だせりける」とあります。紀むねさだという人物(不詳)が東国に旅立つに際して、想い合っているはずの詠み手の家からではなく、他の家に宿を取り、そこから早朝に旅立つと言った。それを聞いた詠み手が想像するのは「人の家」にいるであろう他の女性のこと。旅立ち前の最後の夜を自分ではなくその人とと過ごすという相手に対する、いわば恨み言の歌ということでしょう。