あふさかの せきしまさしき ものならば あかずわかるる きみをとどめよ
逢坂の 関しまさしき ものならば あかず別るる 君をとどめよ
難波万雄
逢坂の関よ、「逢ふ」という名にふさわしい関所であるならば、いつまでも開くことなく、名残り惜しいままに別れてゆくあの人をとどめておくれ。
「逢坂の関」は京都と滋賀の境にあった関所で、その名から、関所自体が廃止された後も歌枕として歌に詠まれ続けました。「あかず」は「開かず」と「飽かず」の掛詞。「逢ふ」の名を持つまさにそこが別れの場所となる皮肉、ならばそこさえ開かなければ別れずに済むというかなわぬ思いを吐露した切ない歌ですね。
作者の難波万雄(なにわのよろずを)は不詳の人物。古今集には本歌が唯一の入集です。
作者は違いますが、つとに知られた百人一首(第10番)の歌を載せておきましょう。
これやこの ゆくもかへるも わかれては しるもしらぬも あふさかのせき
これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関
蝉丸