漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0598

2021-06-19 19:13:07 | 古今和歌集

くれなゐの ふりいでつつなく なみだには たもとのみこそ いろまさりけれ

紅の ふり出でつつ泣く 涙には 袂のみこそ 色まさりけれ

 

紀貫之

 

 衣を振って紅を色濃く染めるように、声を振り絞って泣く血の涙で、袂だけが色濃く染まっていることよ。

 「紅の振り出でつつ」とは、衣を紅に染色するとき、よく染まるように水の中で衣を振ることをさしています。また「振り出づ」には、「声を振り絞って(泣く)」という意味も掛けられていることが、第三句以降を読むとわかります。本当の染色であれば衣全体が染まりますが、「血の涙」によるものなので、「袂のみこそ」が染まってしまったということですね。含意に富んでいて、さらっと一読しただけでは歌意を理解するのが難しいですが、その分味わい深い歌のように感じられます。