くれなゐの ふりいでつつなく なみだには たもとのみこそ いろまさりけれ
紅の ふり出でつつ泣く 涙には 袂のみこそ 色まさりけれ
紀貫之
衣を振って紅を色濃く染めるように、声を振り絞って泣く血の涙で、袂だけが色濃く染まっていることよ。
「紅の振り出でつつ」とは、衣を紅に染色するとき、よく染まるように水の中で衣を振ることをさしています。また「振り出づ」には、「声を振り絞って(泣く)」という意味も掛けられていることが、第三句以降を読むとわかります。本当の染色であれば衣全体が染まりますが、「血の涙」によるものなので、「袂のみこそ」が染まってしまったということですね。含意に富んでいて、さらっと一読しただけでは歌意を理解するのが難しいですが、その分味わい深い歌のように感じられます。