あきかぜに かきなすことの こゑにさへ はかなくひとの こひしかるらむ
秋風に かきなす琴の 声にさへ はかなく人の 恋しかるらむ
壬生忠岑
秋風の中でかき鳴らす琴の音を聞くにつけてさえ、むなしいことにあの人が恋しく思われてしまうよ。
琴は、作者自らが奏でているのか、誰か他者が奏でる琴の音が聞こえてきているのか、両方の解釈があるようです。思ってもむなしいだけなのに、琴の音が聞こえてくるとどうしてもあの人のことを思ってしまう、と解釈してみるとそちら(=他者が奏でる琴)の方が自然なようにも思えます。ですが個人的には、むなしくはあるけれどそれでもいとしい人を思って琴をつま弾いてしまうという、恋に悩む作者の矛盾・錯綜した想いを詠んだ歌と考えたいと思います。