ささのくま ひのくまがはに こまとめて しばしみずかへ かげをだにみむ
ささのくま 檜隈川に 駒とめて しばし水かへ 影をだに見む
よみ人知らず
檜隈川に馬をとめて、しばらく水を与えてください。その間に、せめてお姿を拝見することだけでもいたしましょう。
詞書には「ひるめの歌」とあります。「ひるめ」とは天照大神のことで、別名に「天照大日孁尊(あまてらすおおひるめのみこと)」などとも呼ばれることから来ています。この歌は万葉集の歌の異伝とされ、初句の「ささのくま」は「さひのくま(接頭語「さ」+地名「ひのくま」)」が誤り伝えられたものと考えられています。「檜隈にある檜隈川」ということですね。第四句「かへ」は「かふ(飼ふ)」の連用形で与える意。もともとは愛しい人の姿を陰から見つめる女性の歌だったようですが、古今集ではアマテラスの姿を見たいという歌としています。
さひのくま ひのくまかはに うまとどめ うまにみづかへ われよそにみむ
さ檜隈 檜隈川に 馬とどめ 馬に水かへ われ外に見む
よみ人知らず
(万葉集 巻十二 第3097番)