ぬしなくて さらせるぬのを たなばたに わがこころとや けふはかさまし
主なくて さらせる布を たなばたに わが心とや 今日はかさまし
橘長盛
持ち主がなくて晒してある布を、私の心として今日は織姫にお供えしましょうか。
詞書には「朱雀院の帝、布引の滝御覧ぜむとて、文月の七日の日おはしましてありける時に、さぶらふ人々の歌よませたまひけるによめる」とあります。「朱雀院の帝」は第59代天皇であった宇多上皇のこと。第三句の「たなばた」は、ここでは織姫を指します。
作者の橘長盛(たちばな の ながもり)は平安時代前期の貴族にして歌人。古今集への入集はこの一首のみです。