うぐひすの たによりいづる こゑなくは はるくることを たれかしらまし
鶯の 谷より出づる 声なくは 春来ることを 誰か知らまし
大江千里
鶯が谷から出てきて鳴く声がなかったなら、春が来たことを誰が知ることができるだろうか。
他の歌にもあるのと同じく、鶯の声こそが春の訪れの知らせであるとの思い。冬の間、鶯は谷にいると信じられていたこともこの歌にも表れています。
作者の大江千里は「おおえのちさと」。まったく同じ字を書いて「おおえせんり」と読む現代のミュージシャンがいますが、本名なのかな? 「ちさと」の方は、中古三十六歌仙の一人。「中古三十六歌仙」とは、三十六歌仙が選ばれた後に、三十六歌仙には選ばれなかった秀でた歌人とそれ以後の時代の歌人から選ばれた和歌の名人36人の総称。六歌仙の一人である文屋康秀も、この中古三十六歌仙の一人でもあり、他にも紫式部、和泉式部など、有名どころも多数含まれていますね。