はるたてど はなもにほはぬ やまざとは ものうかるねに うぐひすぞなく
春立てど 花もにほはぬ 山里は ものうかる音に 鶯ぞ鳴く
在原棟梁
立春になっても花も咲かない山里では、鶯も物憂そうな声で鳴いている。
花も咲かない寂しい風景の山里では、鶯の声までもどこか物憂げに聞こえるというわけですが、もちろん鶯の声が実際に異なるのではなく、物憂いのは詠み人の心の方でしょう。花の咲かない里というのも、作者の思わしくない境遇の象徴として詠み込まれたものでしょうか。
作者の在原棟梁(ありわらのむねやな)は業平の子で、大江千里等と同じく中古三十六歌仙の一人。名は「むねはり」とも。古今和歌集には、この第15番を含めて四首が入集しています。