かりそめの ゆきかひぢとぞ おもひこし いまはかぎりの かどでなりけり
かりそめの ゆきかひぢとぞ 思ひこし 今は限りの 門出なりけり
在原滋春
この旅はほんの一時行き来するだけと思っていたけれど、この世の最後の門でだったのだなあ。
詞書には「甲斐国にあひしりてはべりける人とぶらむとてまかりけるを、道中にてにはかに病をして、今々となりにければ、よみて、京にもてまかりて母に見せよといひて、人につけはべりける歌」とあります。知り合いに会うための旅が、その途中で病に襲われ、思いかけず死出の旅となったことを詠んだ歌ですね。第二句の「ゆきかひ」には、「行き交ひ」に加えて「甲斐」が掛けられています。
業平の子、滋春の辞世の歌で巻第十六「哀傷歌」も読み切り。明日からは巻第十七「雑歌上」のご紹介が始まります。どうぞ引き続きお付き合いください。