漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 162

2023-09-25 04:16:37 | 貫之集

田子の浦

ふくかぜに あかずおもひて うらなみの かずにぞきみが としをよせける

吹く風に あかず思ひて 浦波の 数にぞ君が 年を寄せける

 

田子の浦

吹く風につれて立つ田子の浦の波を飽きることなく思い眺めて、その波の数にも及ぶあなた様のご長寿に思いを寄せておりました。

 

 絶えることなく、数限りなく寄せ続ける波に寄せて、「それにも匹敵する」と長寿を寿ぐ詠歌ですね。

 


貫之集 161

2023-09-24 05:20:10 | 貫之集

延長二年左大臣の北の方の御屏風の歌、十二首

かひがねの やまざとみれば あしたづの いのちをもたる ひとぞすみける

甲斐が嶺の 山里見れば 葦田鶴の 命をもたる 人ぞ住みける

 

延長二年(924年)左大臣の北の方に奉呈した屏風歌、十二首

甲斐国の山里を見ると、まるで鶴のように長命の人が住んでいた。

 

 「左大臣」は藤原忠平(ふじわら の ただひら)、その「北の方」は源能有(みなもと の よしあり)の娘昭子のこと。「葦田鶴の命をもつ」のはすなわち昭子のことで、その長寿を願い、寿ぐ歌ですね。


貫之集 160

2023-09-23 05:22:05 | 貫之集

十二月、人行きて梅を見る

ふるゆきに いろはまがへば うちつけに むめをみるさへ さむくざりける

降る雪に 色はまがへば うちつけに 梅を見るさへ 寒くざりける

 

十二月、人が行き交って梅を見る

降る雪と色がまぎらわしいので、ふと梅を見ても寒さを感じることよ。

 

 「うちつけに」は唐突なさま。最後の「ざりける」は「ぞありける」が縮まった形なので否定・打消しの意味はまったくないのですが、この語を見るといつも第一感として「あらざる」「見ざる」と言った語が頭に浮かんで、否定の意味かと思ってしまいます ^^;;



貫之集 159

2023-09-22 05:21:31 | 貫之集

十一月、葦刈りつみたるところ

なにはめの ころもほすとて かりてたく あしびのけぶり たたぬひぞなき

難波女の 衣ほすとて 刈りてたく 葦火の煙 立たぬ日ぞなき

 

十一月、葦を刈って集めているところ

難波の女性が濡れた衣を干すために、葦を刈って焚く火の煙が立たない日はない。

 

 「難波女」は、難波の海の海女を指す言葉。その仕事には一日の暇もないありさまを詠んだ歌です。
 この歌は、新古今和歌集(巻第十七「雑歌中」 第1593番)に入集しています。