漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 158

2023-09-21 05:05:49 | 貫之集

十月、菊の花

うすくこく いろもみえける きくのはな つゆやこころを わきておくらむ

薄く濃く 色も見えける 菊の花 露や心を わきておくらむ

 

十月、菊の花

菊の花の色が薄く濃くさまざまに見えるのは、露が心を分け隔てして置くからであろうか。

 

 この歌は後拾遺和歌集(巻第五「秋下」 第353番)に入集していますが、015 と同じく、そちらでは清原元輔作とされています。追ってご紹介する 337 も同様ですね。 そうなっている事情は、015 にも記載した通り「元輔が屏風歌の作例として手元においていた貫之歌を後人が誤って元輔の家集に加え、後拾遺集はそれをそのまま元輔作として採録したとの説が有力で、実際は貫之作と考えられている」ということのようです。


貫之集 157

2023-09-20 04:34:13 | 貫之集

川の渡りに舟あるところ

やまぢにも ひとやまどはむ かはぎりの たちこぬさきに いざわたりなむ

山路にも 人やまどはむ 川霧の 立ちこぬさきに いざ渡りなむ

 

川の渡りに舟があるところ

山路でも人は迷うであろうが、川霧も舟を妨げるので、霧が立ち込めてこないうちに、さあ、川を渡ってしまおう。

 

 156 の山の霧に続いてこちらは川霧。霧に霞んだ情景は画中のものといえども歌人の歌心を刺激するのでしょう。


貫之集 156

2023-09-19 04:27:53 | 貫之集

九月、霧山をこめたり

ちりぬべき やまのもみぢを あきぎりの やすくもみせず たちかくすらむ

散りぬべき 山の紅葉を 秋霧の やすくも見せず 立ちかくすらむ

 

九月、霧が山を覆う

いずれは散ってしまう山の紅葉に秋霧がかかっている。どうして霧がこうして美しい紅葉をたやすくは見せずに、隠してしまうのだろう。

 

 せっかくの美しい紅葉を霧が立ち込めてかくしてしまっているという歌ですが、それを嘆いて見せつつ、その実は霧を通して紅葉がほのかに(おそらくは薄紅色に)見える情景の風情を愛でてもいるのでしょう。
 この歌は拾遺和歌集(巻第三「秋」 第206番)に入集しています。


貫之集 155

2023-09-18 04:31:40 | 貫之集

さをじかや いかがいひけむ あきはぎの にほふときしも つまをこふらむ

さを鹿や いかがいひけむ 秋萩の にほふときしも 妻を恋ふらむ

 

牡鹿は、どんなことを言ったのだろうか。秋萩が美しく咲き誇る時期に牝鹿を恋慕って。

 

 鹿と萩を合わせるのも、定番と言って良い組み合わせですね。手元の書籍では詞書がありませんが、写本によっては「鹿鳴花」あるいは「はぎのはな」との題がつけられているようです。