ふせちゃんのブログ

布施隆宏 公式ブログ。 鉄道写真 風景写真 ジオラマ制作など 趣味の世界を紹介します。

フォトエッセイ 第22話

2008-11-19 00:10:43 | 伝えたいもの
             一人になるため山に行く! 


 休日に 私が発する言葉は 1つか2つ。
 「 おにぎり あたためて下さい 」 と、「 レギュラー 満タン 」。
夜明け前、おにぎりをかじりながらクルマを運転し、林道へと分け入って行く。 昼食のサンドイッチとペットボトルを持って登山道へ。
 社会のわずらわしさを避け、一人になるため山に行く。 言い替えれば、「 プチ現実逃避 」。

         
  国道254号の コンビニの駐車場から見上げた じじ岩 (中央) と ばば岩 (右)
                       300mm,F8,15min,C4フィルター,1月上旬


 こんなに良く晴れた秋の日、御堂 (みどう) 山に登った人は、わたし以外に誰もいない。
 「 もったいないなー。 紅葉、こんなに綺麗なのに・・・ 」。 そう思いながらも、実はそれを期待していたはず。
 私が西上州の山域をフィールドに選んだ理由の一つは、登山者が多くないという事。 写真を撮り尽くされていないので、ライバルが少ないと考えたから。 そして、人の目を気にせず、心のままに行動できるのが 何より嬉しかった。
 「 写真を撮る 」 という大義名分を傘に着て、人との接触を避け、自分の世界に逃げ込んでいく。 そして、その行動を正当化しようとして、写真集を出そうとか考えてしまったりして・・・。
 百万年もの歳月をかけてかたち造られる自然。 その頂に立ち、峰々を見渡すとき、大きな大きな自然、そしてその中の、ちっぽけな自分に気が付く。
 ちっぽけな自分の悩み事なんて、さらにちっぽけに思えてくる。
 険しい岩場を歩きながら考えごとなんてしていたら、谷底に転落してしまう。 日常のことなんか、雲のはるか下に押しやって、風景とたわむれている自分がいる。


じじ岩は いかにも石のように固い、頑固爺さんという印象。 ばば岩は、近所に一人くらいは必ず居そうな、口うるさい婆さんという感じ。 でも、居てくれるとありがたい存在だったりもする (?)。
                        24mm,F5.6,1/60sec,PLフィルター,11月上旬


 初めて社会に出たころ、自分の非力さを強く感じていた。 学校は勉強を教える前に、生命力を養う場であったら良かったのに・・・。 学校で学んだことなど、何も役に立っていない。 社会で生きていくための処世術の1つでも教えてくれたなら、どんなに役立っていたろうか。
 そうやって、学校の先生や周りの大人たちのせいにばかりしている自分がまた、情けなかった。
 「 真夜中の街を、大声を上げて走り出したい! 」 そんな衝動にかられる事も度々あった。 きっと誰でも、そんな時期を過した経験があるのだと思う。
そんな頃、本屋さんに2~3時間入り浸ることが多くなった。 さまざまな本を読んでみた。 心理学、教育書、小説、短歌。
 「 何か 」 を探していた時代だった。
 小説 『 青春の門 』 (五木寛之著) の中に、主人公の義母が息子に語った言葉がある。
 「 人間、吹っ切れにゃぁ生きて行けん! 」。
 引っ込み思案でいるより、開き直って、挑戦してみる。 案外、やってみると大したこと無かったりするものだし、成長した自分に出会えたりもする。
 「 難しく考える必要はない 」 と、思うようになると、気持ちも楽になっていった。



 この日、じじ岩 ばば岩は、わたしに何も語ってはくれなかった。 夕陽に向かって立ち、その眩しさを 黙って見つめているようだった。
 本当は、答えはすべて出揃っていて、あと自分に必要だったのは 「 勇気 」 なのかも知れない。
 そばに誰かがいてくれて、背中をポンって押してくれたなら、元気で歩いていけるものなのだろう。
 私は今、あざやかな紅葉に包まれて、澄んだ青空の下を一人で歩いている。


 [ 補足 : 学校で学んだ知識は、視野を広げ、人生を豊かにするために役立っていたのだと、今さらにして理解しています。]

                   フォトエッセイ 第22話 ― 一人になるため山に行く!―

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