大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 5月14日 仮住まいのアパート

2014-05-14 19:11:07 | B,日々の恐怖




    日々の恐怖 5月14日 仮住まいのアパート




 もう7年前、まだ俺が学生だった頃の話です。
入学した時から半年近く住んでいたアパートが、どうも不動産屋のミスで二重契約状態だったらしく、裁判になって俺は期限内に出て行かないといけなくなってしまった。
不動産屋が菓子折りもって謝りに来て、期限内には必ず条件に合う空き部屋を探すと言っていたのだが、タイミングが悪かったのか運がなかったのか、どうしても条件に合う場所が見付からず立ち退き期限が来てしまった。
 不動産屋も相当焦っていたんだと思う。
ほんとにギリギリになって、

「 とりあえず1ヶ月以内に見つけるからひとまずここに臨時で住んでほしい。」

と、とても俺の家賃じゃ住めないような賃貸マンションを紹介された。
つくりは少し古くて恐らく築20~30年くらいは経っていそうだが、部屋は2つあるし風呂とトイレも別でかなりいい場所だった。
 俺はあまりにも都合のいい話で当初事故物件を疑ったのだが、不動産屋が言うにはそういう事もなさそうだ。
ただ、夜中は少し治安が悪いので外出はなるべく控えてほしい、と念を押された。
俺は、

“ 近くにヤクザでも住んでるのかな?”

と考えたが、まあ1ヶ月程度の事だし、ほんとにヤバければ友達の所に居候でもすればいいだろうくらいに軽く考えていた。
 が、入居してすぐにここがヤクザがいるとかDQNがいるとか、そういう“ヤバさ”の場所ではないことに気が付いた。
 色々あったので箇条書きにすると、

・入居して2日目くらいに気が付いたのだが、他のフロアには人が住んでいるのに、俺が入居したフロアにはどうも俺以外に住人がいない。

・ある日エレベータで自分の部屋にあるフロアについたらネコの鳴き声がする、どうも非常ベルのついた消火器とかの入っているスペースからするようなので、閉じ込められているのかと中を見たが何もいない。

・2~3日に1回、深夜天井から何かをズリズリと引き摺るような音がする、最初上の階の住人の生活音か何かだと思っていたが、どうも天井裏からしているらしい。

・エレベーターから俺の部屋のあるフロアに降りると、突然強烈な視線を感じる事がある。もちろん周囲を見回しても誰もいない。

・朝目を覚ますとベランダにスーツ姿の男の人が立っているのがカーテンの隙間から見える。何事かと思ってカーテンを開けると誰もいない、ベランダに出てみると革靴が揃えておいてあり、“おいマジかよ”と下を覗きこんでも人が落ちた痕跡は無く、目線を足元に戻すと革靴も消えている。

・これは何度も目撃したのだが、ハイヒールが靴だけでフロアを歩き回っている、しかも昼夜を問わず。

・出かけて帰ってくるとバスルームに水が溜まっていたり、強烈に香水の臭いが残っていたりする。

・時々エレベーター横の階段から女の人の笑い声が聞こえる、しかも普通の笑い声じゃなくてなんか狂ってるような。

・週末の夜中の3時頃になると必ず外からベチャ…ベチャ…となんか変な足音?が聞こえる。

・部屋で電話をしていると、混線してなんかうめき声のようなものが聞こえてくる事がある。


 そんな状態が続くので、流石に1週間目に不動産屋に苦情の電話を入れたら、

「 ほんとうに申し訳ない、深夜に外に出なければ実害は無いはずだからもう暫らく我慢してほしい」

とお茶を濁された。
 まあ俺も実害はなさそうなのは解っていたし、あと2~3週間の辛抱と考えていたし、元々こういう事には楽観的なほうなのでとくに気にしていなかったが、ただ、2回だけガチでビビった出来事があった。


 夜中にトイレに行ったら玄関におばあさんが座っている。

“ カギはオートロックのはずだが・・・。”

ビビりまくった俺が、

「 あのー。」

と声をかけるとお婆さんが、

「 お爺さんを待ってるんです、ここにいますよね。」

と聞いてくる。
 いないと答えても、ニコニコしながら頑なにここで待つといって聞かないので、埒があかないしとしょうがないから110番通報して連れて行ってもらう事にした。
 暫らくしたら警察が来てお婆さんを説得して外に連れ出してくれたのだが、ドアを閉めたとたんにドアが物凄い勢いで何度も叩かれ、

「 お爺さんをかえせーーーーー!」

と絶叫された。
 びっくりしてドアを開けたら白目剥いたおばあさんが警官3人に取り押さえられていた。
あのときのお婆さんの物凄い形相は今でも忘れられない。


 もう一つはようやく入居できるアパートが見付かったと不動産屋から連絡があった日の事だ。
日曜で学校もなく、不動産屋から連絡がきたあと何となく荷造りをしていたら、玄関からガサガサと音がする。

“ なんだ?”

と玄関へ行ってドアを開けてみると、30cmくらいのダンボール箱が置いてある。
 不審に思いながらも中に入れて箱を開けてみると、かなり汚い木彫りの人形ぽいものが入っていて、裏にサインペンか何かで、

『幸せになれる人形』

と殴り書きされている。
 気味が悪いので人形を箱に戻して玄関の外に出し荷造りを再開していると、また外からガサガサと音がする。

“ 今度はなんだよ・・・。”

と思いながらまたドアを開けると、さっきの箱の上に紙が置いてあり、

『幸せになれましたか?』

と書かれている。
辺りを見回しエレベータや階段のほうも見てみたのだが、誰もいる気配が無い。
 この頃になるとこのマンションの異様な出来事にもそこそこ慣れてきていた俺は、

“ ああ、またか・・・。”

と思いながら特に気にせず荷造りに戻ったのだが、今度はトントンとドアをノックする音が聞こえて来た。
 最初無視していたが、何度もしつこいので玄関をあけて怒鳴ってやろうとしたが、ドアノブに手をかけたところでやめた。
なぜかというと、上手く説明できないのだがドアをはさんで何かすごく嫌な気配がする。ほんと上手く説明できないのだが、全身がざわざわすると言えば良いのか、なんかそんな感覚。
 それでも外は気になるし、恐る恐るドアスコープから外を覗いてみたら、20代前半~中盤くらいの女の人が立っている。
ただし、全身ガリガリに痩せていて髪の毛はボサボサ、両手に包帯巻いていた。

“ うわッ!?”

とドアスコープから目を離そうとしたら、そいつがドアスコープに顔を近づけくっきりとクマのある血走った眼で覗き込み、

「 幸せになれたよね?なれたよね?」

と聞いてきた。
 その行動にフイを突かれた俺はびっくりして後ろへ倒れ、暫らく放心していたんだが、そいつは多分それから1時間くらいずっとドアに張り付いて、

「 幸せになれたよね?」

と質問し続けていた。
 声が聞こえなくなってから更に1時間くらい様子をみて、ドアスコープから様子を見てみたのだが、女の人はいなくなり人形の入った箱も消えていた。


 その後俺はこの事件から2日後にこのマンションを引き払い、ちゃんとしたところに住む事ができるようになった。
ちなみに、不動産屋にはこの事を全部話してどういう事なのか聞いてみたのだが、不動産屋も詳細は知らないという。
 そもそも、おかしな出来事が頻発するようになったのもつい2年ほど前からで、元々は変な噂も自殺者が出たとか殺人事件があったとかそういう曰くのある場所でもないらしい。
 ただ、ある日を境に突然あまりにも異様な出来事が頻発するようになり、あのマンションのあのフロアに入居していた人達は半年もたずに皆逃げ出し、新しく入った人達もすぐに次々と出て行ってしまって今にいたるとの事だった。
だから俺のようなよほど切羽詰ったケースでも無い限り、現在は入居の募集すらしていないのだそうな。
 ちなみに夜中に外に出るなと警告したのは、俺の前にあそこに入居した人が深夜“何か”に追い掛け回され階段から転落し、結構な重症を負ったからだと言っていた。
“何か”と抽象的なのは、怪我した本人の証言があまりにも支離滅裂で意味不明だったので、結局正体がわからなかったかららしい。

以上で俺の話は終わりです。


 ちなみに、不動産屋から紹介されたアパートは特に何も無い普通のアパートで、色々迷惑かけたからと家賃も少し安くしてもらえたし、卒業まで普通に快適に過ごす事ができた。
それと例のマンションなのだが、2年前に近場を通る事があったので寄り道して行ってみたら、完全に取り壊され駐車場になっていました。












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