日々の恐怖 5月2日 思い出話
もう暑くなってきたので、思い出話いいでしょうか?
たしか二十歳の時だったと思うんだけど、大工をしてる先輩と当時よく2人で渓流釣りに出かけてたんです。
渓流といってもかなり源流の奥深くまで釣り入るから、テントを持って山中で一泊することもあります。
ちょうど今くらい、梅雨が開けたくらいの季節のことです、
その時は北山の奥に入って、廃村八丁で釣った魚を焼いてプチ宴会をする予定でした。
廃村八丁というのは北山の山奥、上弓削と佐々里の間くらいにある結構有名な廃村なんです。
明治時代には分教場まであって子供も10人くらい居たって記録も残ってます、
だけど昭和8年に3メートルを超すような大雪に見舞われて陸の孤島になってしまい、食料の欠乏、病人や死者が続出する悲惨な被害がでたそうです。
それで3年後には集団で離村され、以来何十年も人が住むこともなく今に至っています。
ここ数年は家屋の荒廃も激しくて、住居が有ったとはわからないくらいの平地になってたり、唯一残ってる2つの廃屋が巡回員の詰め所になってたりしてるそうなんですけど、その頃はまだ、いくつかの建物は残っているけれども管理はされてないような状況でした。
その日は早朝から一日釣りをして、2人で食べる分のサイズが良いイワナやアマゴをキープして、日が暮れる前には廃村八丁に入り野営の準備を始めました。
いつものように先輩が魚の処理や、米を炊く準備をしてる間にテントを貼ったり、一晩分の火種になる枯れ木を集めに行ったんですけど、その日に限ってなぜか手頃な枯れ木がみつからないんです。
日が暮れないうちに焚き火を始めたかったので、しかたなく足りない分を、廃屋の中に積んであった板きれの山から少し頂戴しました。
焚き火にあたりながら、塩焼きにした魚をつまみに、お酒を呑みながら今日一日の釣りの話をしてると、あっという間に時間が過ぎて行きます。
日付が変わりそうな時間になったので、そろそろ寝ようかということになりました、
そしてこれが燃えつきたら寝ようと、最後に焚き火にくべる木を選ぶのに薪のほうを見ると、集めた時はわからなかったんですが、枯れ木や板にまじって竹の棒が二本あったんです。
手にとってよく見ると先のほうに三角形の穴が開いてたりして、何かに使っていた物みたいなんです。
「 なんだろ、見覚えのある形の穴だな?」
と思いながら火の中に入れようとしたんですけど、突然何かに袖をひっぱられて竹を落としちゃったんです、
「 おいおい酔い過ぎじゃないか。」
と先輩は笑ってましたが、何か妙な気がして燃やすのを止めておきました。
そしてそれぞれテントに入り眠りについたんですけど、しばらくしてふと目を覚がさめたんです。
すると、テントの入り口あたりで人の足音が聞こえるんです。
先輩がおしっこにいくのかなとぼんやり思っていると、どうも何か違うんです。
大人のザッザッっていう重い音じゃなく、もっと小さな子供が歩くようなチャッチャッていう軽い音です。
それがテントの入り口を行ったり来たりしてるんです。
なぜか不思議と怖くなくって、
「 誰?
どうしたの?」
って聞いてみたんです。
そしたらテントの外から、確かに聞こえてきたんです。
子供の声で、
「 返して・・・。」
って。
その瞬間に、
「 あっ!」
と自分の中で理解できたんです。
そして、
「 大丈夫、ごめんね。」
って言うと、それっきり足音は聞こえなくなりました。
翌日焚き火の所に行き、燃やそうとした竹をもう一度よく見ると、やっぱりそうでした。これ竹馬に使った竹だったんです。
見覚えのある開いていた穴は、足を乗せる部分をつけるとこなんです。
朝食を食べながらその話を先輩にすると、
「 そっか悪いことしたな、じゃあ直して返そうか。」
といって、竹を探して切り出して、足を乗せをつけて乗れるようにしてくれたので、元あった場所に返し、2人で手を合わせて八丁を後にしました。
酔っぱらって見た夢かもしれませんが、少しもの悲しい思い出です。
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