大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 5月22日 食堂

2014-05-22 19:24:01 | B,日々の恐怖




    日々の恐怖 5月22日 食堂




 去年の秋口、ふとしたことから大学時代の友人Mがサイトを立ち上げていることを知った。
Mとは親友と呼べるほどの仲ではなかったが、バイクという共通の趣味があったので、時々ツーリングに行ったりはしていた。
 そのサイトは自分の趣味の話や日記らしきものがコンテンツのよくあるサイトだったが、未だに楽しそうにバイクに乗っているMの笑顔を見ていうるうちに昔話がしたくなり、挨拶代わりにメールを送ってみた。
 Mからの返信はすぐに届いた。
大学に残ったMは研究を続け、現在は実家のあるN県の別の大学で助手をやっているとのこと。
 研究職をしている私とは、かなり近い分野の仕事をしていたこともあり、10年近く音信不通だったにもかかわらず、すぐにうち解けることができた。
 週末や休日にメールをやり取りをして、3ヶ月ほどした頃、Mからこんなメールが届いた。

「 (前略)・・・ところで、○○食堂を覚えてるか?
実は先週末にS市まで日帰りで遊びに行ってきたんだが、おばさんまだ頑張ってたぞ。
懐かしのカツ丼大盛を食ってきた。
おばさんも味も昔のままで、食ってるうちに涙が出てきた。
おばさんもぽろぽろ涙をこぼして喜んでくれていた。
お前の話もしたんだが、おばさんはお前のことも良く覚えていた。
『今度はKさん(私のこと)も一緒に来てくださいね』とぎゅっと手を握られた。
暖かくなったら一緒にカツ丼を食いに行こう!・・・(後略)」

 ○○食堂は私たちが通っていた大学の近くにあった。
学生御用達の店で、Mと私はそこの常連だった。
私が卒業する少し前に、○○食堂のおじさんが事故で亡くなったのだが、おばさん一人で店を続けていたらしいことは、別の知り合いからも聞いていた。
そんな出来事やMの影響もあって、もう一度バイクに乗りたくなっていた私は、週末に手頃な中古を探しに出かけたりするようになっていた。
 しかし、そのメールを最後にMからの連絡はぷっつり途絶えた。
私も仕事が忙しかったこともあり、Mもそうなのだろうと思った私はバイクのこともおばさんのこともしばらく忘れていた。
 ところが、いつまで経ってもMからの連絡は途絶えたままだった。
3日に1度は更新されていた彼のサイトも更新されていないようだった。
気になった私は、休みの日に彼の家へ電話をかけてみた。
 電話に出たのはMではなく初老の女性だった。
私は大学時代の友人であることを告げ、名前を名乗った。
その女性はMの母親だった。

「 Mは先月亡くなりました。」

低い声でそう告げられた私は、びっくりしながらもお悔やみの言葉を述べ、お線香を上げに行かせてもらえるように申し出た。
 次の休みに私はN県にあるMの実家を訪ねた。
Mの両親は息子を失ったショックからまだ立ち直れない様子だった。
 仏壇に手を合わせた後、私は言葉を選び選びMの両親に彼がなぜ亡くなったのかを尋ねてみた。
母親は黙ってじっと下を向いていたが、しばらくすると隣に座っていた父親が初めて口を開いた。

「 Mは自殺しました。」

母親はハンカチで顔を覆いながら

「 あの子が自殺なんかするはずはないのよ、するはずはない・・・。」

と何度も繰り返していた。
 父親は何か思い当たるようなことはないか、と私に尋ねた。
何も思いつかず黙っていた私に、父親はこう続けた。

「 なんでS市なんかに行ったのか・・・。
最後に昔のことを思い出していたのかなぁ・・・。」

頭がぼーっとしてきた私は、両親にいとまを告げるとMの家を出た。
何かザワザワと引っかかるものを感じていた私は、そのまま車でS市に向かった。
 S市に付いた頃にはもう辺りは暗くなりかけていた。
私は町並みを懐かしむ暇もなく、当時住んでいたアパートに向かった。
アパートも周りの建物も何一つ変わっていなかった。
同じブロックの裏手にあったMのアパートもそのままだった。
 しばらく辺りを歩いた私は、一軒の家の前に立った。
その家は普通の民家の一階部分を改築してお店にしていた。
○○食堂もまったく昔のままだった。
だが、今は人の住んでいるような様子がない。
 私がしばらく食堂の前に立っていると、はす向かいの家から中年の女性が出てきたので、近づいて挨拶をした。
女性は怪訝そうな顔をしていたが、大学時代にこの辺りに住んでいたものだというと、少し安心したようだった。

「 こんな時間にあんなところに突っ立っているから、また野次馬だと思ったわ。」
「 野次馬・・・?」
「 あんた知らないんだね、先月その家で男の人が首を吊ってたんだよ。
なんでまた空き家に入り込んで首を吊ったんだかしらないけど、一年前のちょうど同じ日にあそこのおばさんも首を吊って亡くなってるからね、きっと引っ張られたんだよーって近所で噂してるのよ・・・。」

おばさんは、その後もまだ何か話していたようだった。
しかし、私はなんと言ってその場を離れたのかよく覚えていない。
その後、私は熱を出して2日ほど会社を休んだ。












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