大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆奇妙な恐怖小説群
☆ghanayama童話
☆写真絵画鑑賞
☆日々の出来事
☆不条理日記

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆分野を選択して、カテゴリーに入って下さい。

A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 5月24日 禍

2014-05-24 18:06:27 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 5月24日 禍



 俺の両親は仕事人間で、あまり家にいなかった。
その代わり母の親友の女性が、住み込みの子守りとして俺達兄弟の面倒を見てくれていた。
そのおばさんが、家事の合間によく童話を語って聞かせてくれたんだが、 話し方とか本当に上手で、まるで役者のようだった。
 さて、俺が小学校の頃は怪談がブームで、怖い話を知ってる奴ほど人気者だった。
だから、おばさんが友達の前で怖い話を披露してくれれば俺は・・・と思いついて、お話し会を開いてと頼み込んだが、頑固に断る。
 考えてみると、頼めば日本昔話から外国民話まで聞かせてくれたおばさんが、ブームである怪談だけは一度もしてくれたことがない。
今思うと自分勝手だが、当時の俺にはそれがひどい不合理に感じられて、執拗に食い下がった。
 あまりのしつこさに参ったのか、おばさんは前置きをしてしぶしぶ一つの話をしてくれた。

「 本当に邪悪なものや禍は、 何をきっかけとして寄ってくるかわかりません。
一度ねらわれたら、来る者を避ける術は無いのです。
これは理不尽にも、狙われてしまった人の悲劇です。」

 今から2、30年前の夜のことです。
その夜、田中さんは熱があり、会社からの帰り道を頼りなく歩いていた。
 途中、お墓の横の道を通り過ぎる時、黒い動物らしきものと目があった。
不審に思って目を凝らすと、それはパッと姿を消した。
田中さんは熱のせいでおかしなものを見たのだろうと思って、それきりそのことは忘れてしまった。
 数日後の夜、田中さんの家に電話が来た。

『 もしもしカヨコさん?そちらにお邪魔してもいいですか?』

田中さんの家にカヨコさんはいない。
間違いですよと答える前に、

『 明日はいらっしゃい。』

と誰かが答えた。
 ぎょっとしたが、その後すぐに電話は切れてしまい、田中さんは混線か何かだと自分を納得させ、そのまま床に就いた。
 数日後の夜、田中さんがテレビを見ていると、また電話が鳴った。

「 田中です。」

と応える声に重なるように、

『 もしもし、カヨコさん?』

と昨日の声がする。

『 先日はお邪魔できずにごめんなさい、そちらにお邪魔していいですか?』

悪戯は止めてください、と田中さんが言う前に、

『 明日はいらっしゃい。』

と誰かが答え、すぐに電話は切れた。
意味不明な電話に不気味さは感じたものの、まだそれほど気に病むことはなかった。
 翌日の帰宅途中、墓地沿いの道に差し掛かると、不思議なことに墓地の中が妙に気になる。
自分でもなぜか理解できないまま、田中さんは当てもなくグルグルと墓地を散策した。
 電話は再び掛かってきた。
またも訪問できなかった事を詫びる誰かに、カヨコさんは『明日はいらっしゃい』と答える。
田中さんは叩きつけるように受話器を置く。
 その頃から田中さんは、電話のベルに異常な恐怖心を覚え始めた。
だが田中さんが家の電話線を引っこ抜くと、電話は職場にかかってくるようになった。
営業先で、

「 田中様、お電話です。」

と不審そうに取り次がれることも、果ては公衆電話が鳴りだすこともあった。
どこへ逃げようともそいつは田中さんを追いかけて、執拗に電話を鳴らし続ける。
 一方で、夜の墓地散策は日課のようになっていった。
電話の回数に比例するように、墓地へ行かなくてはという思いが強まっていく。
彼は毎夜宛てもなく墓地を彷徨い歩き、長い時間、供養塔の前に佇むこともあった。
 ある週末のことだ。
挙動不審の田中さんを心配して、普段から親交のあった隣家の旦那さんが彼を自宅に招いた。
田中さんがこれまでの出来事を隣家の夫婦に話すと、旦那さんは、

「 不思議なことがあり、それが不気味だと感じたら、後は鈍感でいることが一番いいんだよ。」

と変な自論を持ちだし、気分転換にうまいものでも食いに行こうと誘ってくれた。
 では出かけようかという時、電話が鳴った。
旦那さんが応答したが、様子がおかしい。
 奥さんと田中さんが受話器から洩れる声を聞き取ろうと、旦那さんの横に頭を並べた瞬間、 彼らのすぐ後ろから低いはっきりとした言葉が発せられた。

「 今日は、連れて、いらっしゃい」
「 カヨコさんがここにいるんだ!」

逃げるように表へ駆けだす田中さん。
慌てて追いかける夫妻。
 暴れる田中さんと彼を落ち着かせようとする夫婦目がけて、突進してくる車があった。
旦那さんは即死、奥さんは重傷で顔半分に大火傷を負った。
田中さんも全身を強く打って、数日後に死亡した。
身寄りのない彼は、無縁仏として供養塔に合祀されたらしい。
 結局、田中さんと彼の体験を共有した夫婦には禍が寄って来て、何一つ理解できない歳の子供だけが無事だった。

「 人外の悪心とは、ひたすら関係を避けることだけが逃げ道です。
私はあなたが生まれてからは、お宮参りの時も、七五三の時も、あなたがこれから先、おかしなものに気づきませんように、気づかれませんように、とお願いしたものです。
なのに、自分から関わろうなんて、とんでもないことです。」

それで、俺はしばらくの間、怖い話を避けまくることになった。
 話をしてくれたおばさんは、事故で旦那さんを亡くしている。
そして、おばさん自身も顔に薄っすらと傷痕が残っている。
 十年ほど経って、おばさんは亡くなった。
その一人息子は、今も独身で親戚はいない。
死ねば無縁仏の可能性もないとは言えない。










童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。

-------大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ-------