大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 5月15日 和太鼓

2014-05-15 20:12:08 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 5月15日 和太鼓



 8月初旬のことです。
夜中に我が家の次男15歳がリビングでいきなり歌い出し、私も主人も長男17歳もびっくりして飛び起きました。
 主人が、

「コラ!夜中だぞ!!」

と言い、電気を点けました。
 マンション住まいなもので、深夜の騒音は大迷惑になってしまいます。
長男も次男も小学生の頃から和太鼓をやってるのですが、そのとき次男は、舞台で着る藍染の腹掛けと股引き、頭にはちゃんと鉢巻を巻き、ご丁寧に地下足袋まで履いていました。
歌っていたのは、三宅島に伝わる『木遣り歌』です。
 『三宅木遣り太鼓』は三宅島のオリジナルにアレンジが加わった形で、和太鼓の曲として広く伝わるスタンダートです。
次男の所属するチームでは、『三宅』を叩く前に『木遣り』を歌うことがあるのです。
 次男は主人と長男で取り押さえようとしても構わず歌い続け、主人が口をふさいでも、まだもがもがやっています。
寝ぼけてるのかと思い、名前を呼んだり揺すったりしてもダメ。

「 ダメだ、とりあえず外に出そう。」

と、次男にタオルで猿轡をし、主人と長男が引きずってエレベーターに乗り、駐車場に走りました。
 急いで車を出し、次男はまだ歌い続けていましたが、騒音を気にしなくてよくなったことにとりあえずはホッとして、猿轡を解きました。
成り行き上、ハンドルを握っていたのは私でした。
どファミリーなミニバンのセカンドシートに、170、175、178cmの男が3人ぎゅうぎゅうに収まって、あたふたと夜逃げのように飛び出てきてしまったので、私はパジャマ、主人と長男はTシャツにトランクス1丁。

 どこへ行けばいいのか、どうすればいいのか、何が原因なのか、
思いつく限りの意見を出し合った末、主人が言いました。

「 病院だな・・・M(長男)、夜中もいける精神科、検索してくれ。」

『精神科』という言葉に、ちょっとドキッとしました。

「 携帯持ってこなかった・・・。」
「 俺も・・・。」
「 私も・・・。」
「 とりあえず携帯と着替えを取りに帰るぞ。
俺らは下で待ってるから、Mは家へ走って取ってこい。」

主人の言葉に長男もそれしかないと観念し、

「 家まで誰にも会いませんように・・・。」

とつぶやきました。
 その時、主人がぼそっと言いました。

「 こいつ、いつからこんないい声出るようになった?」

私は次男の異常な様子が心配で、ただオロオロしていましたが、主人に言われてよく聞いてみると、本当に心に染み入ってくるような声でした。
確かに次男の声なのですが、何と言うか、伸びだとか節回し?が、急にうまくなっている感じでした。
それからもしばらく歌い続けていましたが、ふいに次男の歌がやみました。

「 R(次男)!?」

名前を呼んでみましたが無反応。
きりっとした顔のまま、正面を見据えています。
かと思ったら、すっと自分の手を見て、握ったり開いたりし始めました。

「 バチ!これから打つんだ!」

長男が叫びました。

「 バチも持ってこよう!」

みんな口には出しませんでしたが、何か科学で説明できない事態が起こってると、このあたりから感じていました。

主人「 M、塩も持ってこい。」
長男「 塩・・・どうするか知ってんの?」
主人「 かけたらいいんじゃないか?」
長男「 まじかよ・・・。」
主人「 コンビニで線香も買おう。」
長男「 コンビニで売ってんの?」

沈黙・・・。
ものすごい不安ではりさけそうでした。
 マンション前に着き、長男が意を決したようにTシャツトランクスで走っていきました。
その後ろ姿に、緊急事態の真っ只中だというのに主人がゲラゲラ笑い出し、私もつられて笑いました。

「 よく考えたらめちゃくちゃ笑えるな、これ。」

Tシャツトランクスの父と長男が、ばっちり衣装の次男に猿轡をかませて引きずり、付き添うパジャマの母。

「 ものすごい怪しい家族だぜ。」

笑いがとまらなくなってしまいました。
すると、それまで険しかった次男の表情が、少し柔らかくなった気がしました。
主人は、

「 大丈夫。とにかく今は深夜だし、朝になったら考えたらいい。」

と、何か達観したような様子でした。
もちろん不安でいっぱいでした。
このまま本来の次男が戻ってこなかったらと思うと、こちらの方がおかしくなりそうでした。
それでも一瞬和ませてくれた主人に、とても感謝しました。
 しばらくして、長男が荷物を持って戻ってきました。

「 まだバチ出すなよ。ここでやられたら殴られる。」

主人がジーンズを穿きながら言いました。
私は助手席に移動し、主人の運転で再び走りだしました。

「 Rの部屋に入ったら、Tシャツキレイにたたんで置いてあったよ、有り得ねぇ。」

長男はそう言いながら、携帯で塩の使い方を調べていた。
 思いがけず、久しぶりに家族(+1?)でドライブとなりましたが、ある国立公園にたどり着きました。
我が家からは30分ほど山に登ったところにあり、ちょっと名の知れた滝や、秋は紅葉目当てで、観光客がやってくる自然の中です。
 もちろん、そんな深夜ですから、駐車場に他の車はありません。
まずは主人と私が車を降り、次男も長男が促すと降りてきました。
長男が次男に持ってきたバチを渡し、自分もバチを持ち、滝の音がゴウゴウと遠くから聞こえる方を向いて立ちました。
 まず長男が歌い出しました。それに次男がかぶせるように追いかけます。
歌い終わると長男はすっと座り、次男は腰を低くして構えます。
『三宅』は太鼓を真横に置いて、両側から低い姿勢で打つのです。
長男の地打ち(ベース)が始まり、次男がゆっくりと振りかぶり打ち下ろす。
 もちろん太鼓はありませんが、ドーンという響きを感じたような気がしました。
だんだんとペースが上がり、お互いに掛け声をかけながらエア太鼓は続きます。
長男と次男の『三宅』を初めて見たわけではないし、
 ところ構わず始める次男の素振りは、それこそしょっちゅう見ているのに、なぜか涙がとまりませんでした。
たぶん、次男の中の人にとっては、最後の『三宅』だと感じていたからだと思います。
 ようやく打ち終わり、2人が立ち上がりました。
次男はまず長男に、そしてこちらを向いて深々と頭を下げました。
顔には涙がぽろぽろと落ちていました。
しばらく泣いて、やがて、

「 兄ちゃん。」

と言いました。

「 Rか?」

と聞くと、泣きながらも頷きます。
心底ほっとしました。
塩も線香(売ってた)も出番はありませんでした。
 次男は部屋で着替え始めたことも、リビングで歌い出したことも、その後のことも全部覚えていました。

「 でも、俺がやったんじゃない。」

それはそうでしょう・・・次男もそこそこ打てるようになったとは言え、あの美しいフォームは、次男のそれとはあまりに違いましたから。
どこの誰だったのかは分からないらしいです。
ただ、

「 最初は悲しかった。
でも、打ち出したら嬉しかった・・・と思う。
怖かったけど、嫌な感じはしなかった。」

だそうです。
 念のため、翌日私の実家に連れて行き、近所のオガミさんに見てもらいました。

「何もない。キレイなもんよ」

と言ってもらい、やっと本当に安心しました。

「 満足して行ってるはずや。無念が晴れたんじゃろ。
ただし、まだR坊に大きな疲れが残っとる。
命が疲れとる。
ゆっくり精神を休ませなあかんよ。」

と、お守りをいただきました。
 それはオガミさん特製のちりめんで出来た小さな袋に、勾玉のような綺麗な色の石が入れられた物でした。
長男は、

「 なんでRより打てる俺じゃなかったんだろ?」

と言ってましたが、オガミさんは、

「 相性もあるし、M坊よりR坊の方が単純やしのぉ。」

と笑ってました。
 次男は、

「 達人に貸してから体の使い方がちょっと分かった。」

と言い、日々素振りに余念がありません。
何かコツをつかんだのかもしれません。
 終始慌てふためいていたため、後から思うと何やらおかしいことになってますが、その時は次男を失うのではと、この上ない恐怖でした、当の本人は今日もノンキに登校しましたが。












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しづめばこ 5月15日 P297

2014-05-15 20:11:34 | C,しづめばこ
しづめばこ 5月15日 P297  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


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