大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 1月2日 山蛭と従兄弟

2015-01-02 18:14:54 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 1月2日 山蛭と従兄弟


 もう20年以上昔になる。
当時小学校低学年だった俺は、家族で緑豊かな田舎に盆帰りしていた。
久しぶりに会う同い年の従兄弟と虫網片手に、そこら中の虫を捕って楽しんでいた。
 都会では感じられない開放感があった。
いつしか二人で、じいちゃん家の裏にある山に足を向けた。

「 大物がいるかも知れないね。」
「 網に入りきらなかったらどうしよう。」

突然変異でもない限り、そんな虫はなかなかあり得ないが、山の中はそんな期待をも抱いてしまうほど、豊穣な命が溢れていた。
 しばらく二人で駆け回っていたが、急に従兄弟が立ち止まった。

「 ごめん、うんこしたい。」

何故謝るのか分からないが、従兄弟は申し訳なさそうだ。

「 家に帰る?」
「 ううん、我慢出来ない。」

従兄弟は少し離れた草藪にしゃがみ込んでズボンを下ろし始めた。
 響きだけで水分量を想像出来る音に背を向け、俺は半ズボンのポケットをまさぐった。
育ちの良い俺はきちんとポケットティッシュを持っていたが、それだけで足りるかどうか。
そんな事を考えていたら、いきなり背後でこの世の物とは思えない絶叫が上がった。

「 ぎゃお~~~~~!」
「 どうした!?」

草をかき分けると、ズボンを下ろしたまま、中腰の従兄弟がすさまじい表情で俺を見ている。
その従兄弟の手足に何かブヨブヨした赤っぽい物がいくつも貼り付いている。
 その正体は山蛭だ。
田舎では珍しくもない、だが、都会者には未知の小生物である。
もちろん、小学生の俺や従兄弟にそんな知識はなかったし、どうすればいいか分からない。

「 は、早く拭けよ!」

 俺はこわごわとポケットティッシュを従兄弟に差し出すと、従兄弟はそれをまとめて引っ張り出し、山蛭ではなく、自分の尻の割れ目を一拭き二拭きすると、慌てて半ズボンとパンツを脱いだ。
 赤黒い山蛭は従兄弟の足首から腰の辺りまで、まだら模様であちこちに貼り付いている。
従兄弟は無我夢中で山蛭を払おうとしたが、意外に貼り付く力が強く、なかなか落ちない。
 そしていくつもの血の筋が従兄弟の下半身を染め、従兄弟そのものが未知の怪生物に見えた。

「 た、助けてよ~!」

パニックになって泣き叫び、下半身丸出しでこっちに向かってくる従兄弟を見て、すさまじい恐怖を覚えた。
 俺は悲鳴を上げながら、怪物と化した従兄弟から逃れるように山道を下り、じいちゃんの家へ向かった。
途中、何度か背後を振り返ったら、山蛭をブラブラさせながら下半身丸出しで従兄弟は追いかけてくる。
 その時、頭の中にあったのは、山蛭と一体化した従兄弟が俺を山蛭人間に変える妄想だった。

「 ママー! パパー!」

俺は半泣きになりながら玄関に飛び込み、親を呼びながら、サンダルを脱ごうとして気付いた。
俺の足にもたくさんの山蛭が貼り付いている。

“ 俺も従兄弟みたいに山蛭人間にされてしまうのか!?”

 俺は泣きじゃくった。
泣きじゃくりながらサンダルを脱ぎ捨て、大人を捜して廊下を駆けた。
 後ろの方で女性の悲鳴が聞こえた。
俺の母親の声だ。
 俺はUターンし、母親に合流しようとして助けの悲鳴を上げた。
廊下には点々と、小さな足跡が続いている。
ただの足跡ではない。
血の色をした足跡だ。

“ 何かの怪物に追いかけられている!” 
“ 俺の背後に姿の見えない何物かが血の足跡を残しながら迫ってくる!”

俺は客間や和室を横切りながら、大人達の姿を求めつつ見えない怪物から逃げ続けた。
 もちろん自分の足跡であることは自明なのだが、なぜかその時の俺はそれに気付かず、パニックを加速させた。
ペタペタと小さな血の足跡をあちこちに残しながら家中を走り回った。
 じいちゃんの家は広い。
だが、流石に騒ぎを聞きつけ、親戚のおじさんおばさんが姿を見せた。
親戚のおばさんにしがみつき、おじさんが、

「 ライター、ライター!!」

と叫んでいると、玄関辺りで母親が二度目の悲鳴を上げた。
 騒然とする親戚に囲まれながら、血で汚れた廊下を抜けると、おろおろする俺の母親と玄関で泣き叫ぶ従兄弟がいた。
血まみれで山蛭を体中にたくさんぶら下げた従兄弟の姿に、地元在住の親戚も流石にどよめいた。
 おじさん達とじいちゃんがライターで山蛭を炙ると、あれほどしがみついていた山蛭が面白いように落ちる。
従兄弟はシャツを脱がされ、全裸で玄関前に立ち、大人達によって全身の山蛭を徹底的に駆除された。
 山蛭は一匹残らず落とされた。
落ちた山蛭は大人達に踏みつぶされ、沸騰したお湯で洗い流された。
 だが、俺の足も従兄弟の身体からもじわじわと出血は続いている。
薬を塗ってもなかなか血は止まらない。
すぐに救急車が呼ばれ、俺と従兄弟、そしてそれぞれの父親が付き添って病院へ向かった。
 山蛭に噛まれると、痛みはないが、血液の凝固作用を弱くする物質が分泌され、血が止まりにくくなる。
その後、うんざりするような痒みがしばらく続くのだ。
 これは薬を塗ってもらったらすぐに収まった。
俺は大したことなかったが、従兄弟は噛まれた箇所が多く、小さい体から大量に吸い取られたことも考慮して、点滴をしながら一晩様子見で入院することとなった。
従兄弟の父親も付き添うことになった。
 病室の従兄弟はなぜか包帯まみれで、顔色も心なしか青白かった。

「 ごめんな・・・。」

俺はその理由もはっきりしないまま頭を下げた。

「 紙、ありがとうな。」

あのポケットティッシュのことだろう。
 病室を出たら、なぜか警官が二人立っていた。
誰が呼んだのかは知らない。
 そして俺は虫を捕りに山に入ったこと、従兄弟が野グソをしたこと、従兄弟が山蛭まみれになったこと、家に帰ったら謎の存在に追いかけられたこと(これは警官が興味を持ったが、俺の父親が即座に否定した)、大人達が従兄弟を裸にして山蛭を駆除したことまで、それを子ども目線で詳しく話した。

 次の日、じいちゃんや近所の人らが草刈り機片手に集まって、裏山の草を一斉に刈っていた。
その後、農薬みたいなのを撒いていた。
変な匂いがじいちゃんの家まで届いていた。
 結局、従兄弟は二週間ほど入院したそうだ。
血が止まらないのもあるが、感染とか色々検査したようだ。
 田舎から都会に戻った俺も母親に連れて行かれて病院で検査した。
その時は感染よりも注射がイヤだった。
翌年、従兄弟と再会しても、さすがに虫取りをする気にはならず、当然、裏山にも近づかなかった。

 その後、じいちゃんは亡くなり、誰も住まなくなった家をその従兄弟が引き継いだ。
それで、仕事の傍ら、なんと山蛭の研究などをしていると聞いた。

“ あの経験を生かして、山蛭の害から人々を守ろうとしているのだろうな。”

と思ったら、父親曰く、その辺りで山蛭の被害が急増しているという。
 正確な数なぞ分からないが、実感として、従兄弟が移り住んでから山蛭が増え始めたらしい。

“ あいつ、何の研究をしているのだろうか・・・・?”








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