日々の恐怖 11月5日 付き添い
入院していた大学生Nさんの話です。
夜中、トイレに行こうとして廊下を歩いていたら、個室の扉が開いていて中から声がした。
「 看護婦さん呼んで~。」
中を覗き込むと、ベッドで寝ているお婆さんが、付き添いで隣に座っている別のお婆さんに言っているようだった。
付き添いのお婆さんは、うなずくだけで動こうとしない。
なんで呼んでやらないのか、わからない。
始め囁くような声だったが、だんだん大きくなった。
ナースコールを押せばいいのに、と思いながら部屋から離れようとすると、
「 にいちゃん、助けて~!」
と大声で言った。
それで気づいた。
「 看護婦さん呼んで。」
は俺に言っていたようだった。
俺が、
「 今、呼んでくるから。」
って言っても、今度は助けてばっかり言いだした。
その声もだんだん大きくなって、廊下に響き渡るくらいになって来る。
俺は廊下をナースステーションへ向かって走り出した。
後ろから、
「 ギャー!」
って叫び声がした。
その声は異常に大きく、ナースステーションの近くまで来ていても十分聞こえた。
中にいた看護師に、
「 ○○号室の患者さんが叫んでるよ。」
って言ったら、看護師は疲れたような表情で、うなずいてそのまま別の仕事をしている。
「 叫び声 聞こえないの?」
「 ごめんなさいね、後でいきます。」
「 でも、すごい声がしてたけど・・・。」
すると、ようやく立ち上がって、
「 誰が扉を開けたのかしら・・・。」
って言いながら部屋へ向かった。
看護師は俺に、
「 もういいから寝てください。」
と言い、お婆さんの部屋へ向かった。
俺の部屋も同じ方向なので、一緒に行った。
部屋に着いて、気になったので中を覗こうとしたけど、付き添いのお婆さんがチラッと見えただけで、看護師が扉を閉めてしまった。
次の日の夕方、昨日の看護師が俺の体温を測りに来た。
「 あのお婆さん、いつも大声で叫ぶので個室にしてもらってるんです。
だから扉は必ず閉めるようにしてるんです。
お婆さんも、今は歩けないので扉を開けれないはずなんだけど・・・・。
昨日、あの部屋の扉を開けませんでしたか?」
「 いいえ、知らない人の部屋なんか開けませんよ。
たぶん、付き添いの人が開けたんじゃないですか。」
「 あの人は付き添いの人はいませんよ。」
「 いや、昨日、部屋の中に入るときにも、付き添いのお婆さんがいましたよ。」
看護師が嫌そうな顔で、
「 うそだ~、患者さん一人でしたよ~。」
と、俺のことを気味悪そうに見たので、俺は適当に、
「 見間違いだったかな・・・。」
とか言って誤魔化した。
でも、絶対、あそこにもう一人、お婆さんがいた。
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