日々の恐怖 11月15日 自動証明写真撮影機(2)
証明写真撮影機の機械は、中に入るところにカーテンがついている。
それが閉まっているのは普通だと思うのだが、中に誰かいる。
撮影機のカーテンは、中に誰かがいたら分かるように、足元の方が見えるぐらいの長さしかないが、そこから足が見える。
隣の飲料用自販機の明かりに照らされて、間違いなく男性のがっしりとした足が見える、それも裸足。
“ ・・・・・・・・・。”
Sさんは、誰かが入っている証明写真撮影機の方を見ながら、車の方に後退りする。
自販機前のスペースは砂利が敷いてあって、一歩後退りをするごとに立てなくてもいい音を立てる。
しかし、写真撮影機の中の足は微動だにしない。
“ 何で裸足なんだ・・・?”
そして、周囲を窺う。
“ ここには俺の車しか止まってない・・・。”
次々と湧き上がる違和感と膨れ上がる恐怖を抑えながら、なるべく音を立てないよう慎重かつ素早く、無神経にアイドリング音を上げている車に向かって後退りを続ける。
何とか車まで近づき、運転席のドアを開けようとした時、証明写真撮影機の中ほどにあるランプが稼動して、
“ カタン!”
という音がした。
“ ・・・・・・!!!”
声にならない悲鳴を上げて、エンジンの掛かった車に飛び乗る。
そして、思いっきりアクセルを踏み込み、自販機前の駐車スペースから道路に向かって車を急発進した。
事故らないように全力でハンドル操作をする。
チラッとバックミラーで後方を伺うと、自販機の光が遠ざかっているのが見える。
何かが追いかけてくる様子もない。
それでも安心する事が出来ずに、自販機の光が完全に消え去るまで、スピードを緩めずに、ハンドルにかじりつくようにして車を走らせ続けた。
人心地ついたのは周囲に民家の明かりが見え始めてからだった。
安心したSさんは、ふと、
“ あの音、証明写真が出てきた音だよなぁ・・・・。”
と気が付いた。
Sさんは、
“ 何が写っていたんだろうか・・・?”
と思わない訳でもなかったが、立ち寄ったコンビニで、まだ封を開けていない先ほどの缶コーヒーと共にその思いを投げ捨て、店内で新たに缶コーヒーを買い直しホテルに向かって車を走らせた。
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