日々の恐怖 6月26日 お盆(2)
母を見ると、みるみる表情が変わっていく。
そしてボロボロと大粒の涙を流し泣き始めた。
「 じいちゃんがそう言ったの?」
母が尋ねると長男はコクリと頷き、テレビに視線を戻した。
母は30分近く泣き続け、意味の分からない俺達に事情を話し始めた。
父と母は大の旅行好きで、小さい頃は家族でよく旅行に出掛けた。
俺を始め子供達が大きくなって部活などで忙しくなっても、夫婦二人でよく旅行に行っていた。
質素な生活の中でそんなちょっとした旅行が両親の趣味だった。
父が亡くなる前の晩、母は父に何気なく尋ねたそうだ。
「 今まで行った所で、どこが一番楽しかった?」
父は、
「 いろいろ行ったし、どこも楽しかったからなぁ・・・。」
と明確に答えなかったらしい。
そして翌日の夕方、事故で亡くなった。
父はずっと保留していた返事を、初孫である長男に伝言を頼んだのだろうか。
母は、
「 どうして私に直接言ってくれないんだろうねぇ。」
と泣き笑いだった。
祖母はニコニコしているだけだった。
しかし父が出てきたのはその時だけで、見たのは長男だけだ。
後日、長男に父の事を聞いてもいまいち要領を得ないし、中学生となった今ではその時の事は全く覚えていない。
それから毎年お盆の期間には俺達夫婦を始め俺の弟達も帰省して、みんなで両親のアルバムを見るのが恒例となった。
長崎のどこが楽しかったのかと母に聞いた事がある。
母は、秘密とニコニコして答えるだけだ。
新婚旅行で訪れた長崎でどんな思い出があったんだろうか。
今年もお盆が近づいてきた。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ