一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

ライブドアのリーマンに対するMSCBについて(フジテレビvsライブドア その6)

2005-03-08 | M&A
* 2回ほど再考して修正・補足しています。

個人的には新株予約権発行差止請求は認められるんじゃないかと思うけど、
だからといってライブドアの株でも買おうか、という気にもならない。

そこでホリエモンは今回の買収は本当に勝ち目があるのか?について考えてみた。
まずはリーマンへの転換社債の意味について。

<前提>
発行済み株式総数 618,938千株
ホリエモン保有 220,975千株 36.4%
リーマンへの転換社債発行額800億円、転換価額は時価の10%安で変動

ここで転換価額@350円で全額転換すると228,571千株が新たに発行されることになり、ホリエモンの持株比率は26.07%になってしまう。
(リーマンが転換した株式を全部持ち続けたとするなら26.96%、258円以下なら1/3超になる)
つまり、このCB発行により、ホリエモンは株主総会の特別決議を阻止する1/3の持分を放棄することになる。場合によってはリーマンに拒否権を握られることになる。
* リーマンはホリエモンに貸株を返すとしても、新株は発行されるので、ホリエモンのシェアが減ることは同じ。

じゃあ、転換価額が十分高かったらいいか、というと
80,000,000(円)÷X(千株)+618,938(千株)<220,975(千株)÷0.3334となるようなX(転換価額)は
X>1,637(円)
と、てんで現実的でない。

今回の「転換社債型新株予約権付社債(MSCB:Moving Strike Convertible Bond)」は、一言で言えば利息が0の分有利な転換価額で転換できる社債。
つまり利息がつかないので、社債権者には長期保有のインセンティブがなく、
空売りを仕掛けて株価を下落させて、サヤ取りをする行動に出やすい。
*詳しい仕組みはこちら最近の事例はこちらを参照
最近の事例はこちらを参照

ところが、サヤ取りをするには株式を転換しなければならないので、ホリエモンのシェア減少は起きる。
一度交換されてしまうと、ホリエモンが株を買おうとすると、例のTOB規制にかかってしまうので、TOBか市場で買うしかない。これでは自分がフジテレビになってしまう。

これを防ぐには、期限前の買入償還条項かなにかでcashで(当然プレミアムをつけて)社債を買い戻すようなメカ二ズムが必要。
しかし、今回のMSCBの社債発行の公告を見たかぎりではなさそう。
(もしその条項があったとしても、買戻しの原資はどこにあるのだろうか?)

ひょっとすると、ホリエモンは捨て身の買収合戦を仕掛けたのだろうか?
それは資本の論理について原理主義者であるホリエモンのスタイルに反するし、得意のスタイルを捨ててしまった場合、大体負け戦になるのが世の常。

と考えると、ライブドアの株を買うのは躊躇せざるを得ないのです。


一方でリーマンが得をするか?ということも疑問。

上記の買入消却条項がなかった場合、リーマンは転換権を行使してライブドア株式を手に入れる。そのうち貸株4,672万株を返したとしても、@350円としても181,851千株を保有することになる。
リーマンが大株主としてライブドアの経営に参画しようというなら別だが、これを値崩れせずに市場で売却するのは至難の業ではないか。
徐々に転換しながら売却すればいいかもしれないが、転換価額の下限は157円であり、現在の株価から徐々に売って2億株近く(転換価額も徐々に下がるはずだから)を売り切れるのだろうか?
*僕は株式市場には詳しくないので、実は簡単に売れちゃったりするのかもしれませんが。
(注)この部分については、再考して補足しています。

「当面社債で持ち続ける」という判断は、リーマンの資金調達コストとか期待利益率を考えると取りにくいだろう。
「株式転換してライブドアの大株主となる」というのは、ニッポン放送買収が成功した場合は「外資規制」論が再燃することになるだろうし、失敗したライブドアの株式を保有する意味はあまりなさそう。
「社債のまま第三者に転売」というのもあるかもしれないが、ここまでの巨額な債権の買い手は(複数にしても)いるのだろうか?

結局ライブドアがニッポン放送の買収に失敗したら、リーマンも一蓮托生、
成功したならば、(多分)株価は上昇して、リーマンも(保有株式を売り切れれば)利食えるだろうけど、カッコ内の条件付。

そもそもリーマンはMSCB引き受けと時間外でのニッポン放送株取得でのときに大きな手数料を取っているのかもしれないが、このようなリスクを考えると、今回の社債引き受けはかなりのギャンブルなのではなかろうか?

「外資は何かすごいことをたくらんでいる」という敗北主義ならともかく、僕の素人考えとしてはリーマンもけっこうなリスクを負っているような感じがするのだが・・・

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<blackfieldsさんのコメントを受けての再考>

それでもリーマンは株価を下げて売り抜けられるのでは?というご指摘があり、「2億株」というのがどれくらいのものなのかを調べてみました。

同じバレバレの状況でニッポン放送株を買い集めたライブドアについてみると
2/7に時間外取引等で35%を取得して以降、3週間で45%まで市場で買い増したとされています。
この10%は約300万株ですが、この間の出来高は約1,200万株です。
この間株価は最初の週は6,000円から8,800円の最高値(46%高)をつけ、7,840円(30%高)で終わり、3週目の終値は6,400円(7%高)でした(この間フジテレビへの新株予約権発行の発表がありました)

一方、ライブドア株ですが、今回のTOB騒動以降は、出来高は週に2億株を越えています。
昨年下期は週に2千万株から5千万株、何か材料があったらしい週が8千万株くらいという状態です。
とすると、このままの出来高が続けば、プロのトレーダーなら4,5週間くらいあれば売り抜けられるのでしょう。
株価については昨日の終値300円から46%(=ニッポン放送株の最大上昇率まで)下がったとしても、205円なので、転換価額の下限には届きません。

僕としてはリーマンの潜在的な売りポジションがばれている、ということや、(調べてないのですが)転換社債の転換請求と株券の受け渡しのタイムラグと大量保有報告書の開示のタイミングによっては、手口がバレバレになってしまうのでは?という疑問があったのですが、リーマンとしては(プロが考えたのだから当然そうなんでしょうが)かなり自身のある勝負なのかもしれませんね。

すると外資憎しと尊皇攘夷論で日本人が団結してリーマンに損をさせるとしたら、ライブドア株を一切買わない、ということが対抗策でしょうか。
でも、株価が動くと皆チャンス到来と参加するんだろうな・・・・

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<もじゃもじゃほうりつじむしょさんの「ライブドアMSCBは実は悪くない?」を読んで再々考>

今回の転換価額には上方修正にも上限がなく、しかも転換価額の見直しが1週間毎に行われる、という条件はリーマン側にとって決して有利なものではない、という指摘です。

私が理解したところでは、転換価額が固定していないから、①下落曲面では転換した株式は売却前に相場が10%以上下がると損をしてしまうので、保有リスクを伴う(買ったらとっとと売却して利ざやを確保しなければいけない)。②継続して「売り崩しのスパイラル」を(相場操縦の禁止はさておき)発生させたとしても、値崩れのスピードが予想以上に速い場合は、転換した株式を売り損ねるリスクもある。③一方で上昇局面では転換価額も毎週上昇してしまうので、結局10%程度しか利ざやは稼げない。④こう考えるとリーマンはリスクの割に儲けの少ない社債を引き受けたのではないか、ということだと思います。

となると、最初に書いた「リーマンは本当に売り抜けられるのか?」という疑問もあながち的外れではないのかもしれません(ちょっと安心)。

同時に書かれている、(以下引用)「時価発行による新株発行かつその手取金がきちんと使用される場合には株式価値の希釈化は起きない、という前提の場合には、MSCBの発行の場合に起きる株式価値の希釈化は限定的ですし、いや、そもそも株式数が増えれば株価は下がるのだ、という前提であれば、MSCBの発行の場合にも株式価値は下がりますが、それはMSCBが悪いのではなく、それは、株価が安い時(中略)に新株を発行することはすべからくけしからん、という理屈につながるような気がします。」
については、正しい指摘のように思えますがまだ消化不良なので、じっくり考えてみます。

そうだとすると、ホリエモンは、ライブドアの株主を犠牲にした(=自分勝手)わけでも、リーマンに食い物にされた(=愚か)わけでもなく、自分の持ち株比率減少を掛け金にして勝負した(=これをどう評価するかは人それぞれでしょう)、というのが正しい理解なのかもしれませんね。

* 過去の記事はこちら  その1 その2 その3 その4 番外編 その5
コメント (4)
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