地元札幌はもちろん東京や名古屋での個展、Hokkaido Photo Festa のポートフォリオレビュー・グランプリ、第4回屋久島国際写真祭への参加など、この5年間ほどめざましい活躍を見せている桑迫伽奈さん。
今年3月、マレーシアにアーティスト・イン・レジデンスで滞在した際の体験をもとに、6~7月に名古屋で開いた個展を再構成しています。
タイトルになっている「masa hadapan」はマレー語です。
シンガポール(マレーシアから独立した都市国家)に拠点を置く現代アート作家ホー・ツーニェンの映像インスタレーション作品「時間のT」にもとづいています。
(ことし東京都現代美術館で開いた個展の図録から引用)
そこで桑迫さんは日本だけでなくさまざまな人に「未来とは?」を聞いてまわりました。
その回答の抜粋が、日本語・英語のテキストとして、壁に並んでいます。
テキストを印字した紙にも刺繍が施され、さらに同じ大きさの紙にドローイングや版画が描かれています。
回答のなかには
今という時間の積み重なり
unknown stories
といったものや
気がついたときにはもう流氷の音が消えていた
などというしゃれたものもありました。
The only time we have is now
は潔いなあ。見習いたいと思いました。
さて、桑迫さんといえば、樹木などを撮った写真のプリントに刺繡を施した作品で知られます。
以前ご本人に
「風景に介入する」
といわれ、なるほどと思いました。
どんな外界も、常に同じように、客観的に存在しているだけではないからです。
ただ、多少意地悪な言い方をすれば、このままいけば「方法論のための方法論」に陥る危険もあったようにと思いました。
今回は、名古屋での個展期間中に刺繍を施した波(あるいは砂の風紋)の写真プリントに、あらためて刺繍しています。
同一の写真の線をなぞっているはずなのに、浮かびあがる糸の線、つまり時を隔てて作者が選んだ線は異なっています。
私たちを取り巻く現実・外界の不確定性があらためて明らかになってくる、すぐれた試みだと思います。
さらに、これまで市販のものを買っていた糸についても、呼びかけて集めたものにしています。
そのことにより、イメージを横断する色とりどりの糸が、さまざまな物語性を帯びることになったのではないでしょうか。
刺繍という方法が、風景への介入という狙いを超えて、そして、単なる方法を越えて、多義的な意味合いを持ち始めている…。そんな印象を受けました。
今後は12月に奈良、来年2月に札幌で個展を開くそうです。
2024年10月5日(土)~20日(日)午前11時~午後6時(最終日~5時)、火曜休み
GALLERY 創(札幌市中央区南9西6)
https://kanakuwasako.com/
Twitter(X) : @kanakuwasako
過去の関連記事へのリンク
■桑迫伽奈 個展 "seeing the invisible" (2022)
参考 Outermost NAGOYAの記事
今年3月、マレーシアにアーティスト・イン・レジデンスで滞在した際の体験をもとに、6~7月に名古屋で開いた個展を再構成しています。
タイトルになっている「masa hadapan」はマレー語です。
シンガポール(マレーシアから独立した都市国家)に拠点を置く現代アート作家ホー・ツーニェンの映像インスタレーション作品「時間のT」にもとづいています。
マレー語には「未来」という語がありません。「マサ デパン」という句があって、「時間的に先」のような意味ですが、「先」というのは少し不正確です。時間的に「先」というときに思い浮かべる直線性とは違うからです。「デパン」は「ハダパン」の短縮形で、私たちが「直面する」であろうものを意味します。
未来とは時間ではなく、私たちが直面するものなのです。
(ことし東京都現代美術館で開いた個展の図録から引用)
そこで桑迫さんは日本だけでなくさまざまな人に「未来とは?」を聞いてまわりました。
その回答の抜粋が、日本語・英語のテキストとして、壁に並んでいます。
テキストを印字した紙にも刺繍が施され、さらに同じ大きさの紙にドローイングや版画が描かれています。
回答のなかには
今という時間の積み重なり
unknown stories
といったものや
気がついたときにはもう流氷の音が消えていた
などというしゃれたものもありました。
The only time we have is now
は潔いなあ。見習いたいと思いました。
さて、桑迫さんといえば、樹木などを撮った写真のプリントに刺繡を施した作品で知られます。
以前ご本人に
「風景に介入する」
といわれ、なるほどと思いました。
どんな外界も、常に同じように、客観的に存在しているだけではないからです。
ただ、多少意地悪な言い方をすれば、このままいけば「方法論のための方法論」に陥る危険もあったようにと思いました。
今回は、名古屋での個展期間中に刺繍を施した波(あるいは砂の風紋)の写真プリントに、あらためて刺繍しています。
同一の写真の線をなぞっているはずなのに、浮かびあがる糸の線、つまり時を隔てて作者が選んだ線は異なっています。
私たちを取り巻く現実・外界の不確定性があらためて明らかになってくる、すぐれた試みだと思います。
さらに、これまで市販のものを買っていた糸についても、呼びかけて集めたものにしています。
そのことにより、イメージを横断する色とりどりの糸が、さまざまな物語性を帯びることになったのではないでしょうか。
刺繍という方法が、風景への介入という狙いを超えて、そして、単なる方法を越えて、多義的な意味合いを持ち始めている…。そんな印象を受けました。
今後は12月に奈良、来年2月に札幌で個展を開くそうです。
2024年10月5日(土)~20日(日)午前11時~午後6時(最終日~5時)、火曜休み
GALLERY 創(札幌市中央区南9西6)
https://kanakuwasako.com/
Twitter(X) : @kanakuwasako
過去の関連記事へのリンク
■桑迫伽奈 個展 "seeing the invisible" (2022)
参考 Outermost NAGOYAの記事