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■北村哲朗彫刻展―地平と辺縁Ⅱ― (2018年7月10~15日、札幌)

2018年07月15日 08時39分29秒 | 展覧会の紹介-彫刻、立体
 毎年札幌で彫刻の個展を開いている数少ない作家である、登別の北村哲朗さん。
 ことしは病気で入院したため「実質3カ月ぐらいで準備した」というからすごいエネルギーです。
 入院中、あらためて自分や世界に思いをいたしたことと関係があるのかどうかわかりませんが、チェーンソーの荒々しい痕が残っていた表面は、のみ痕に変わりました。ただ、表面を磨き上げた作品は1点しかなく、依然として、木という素材の質感を存分に生かしていることは変わっていないようです。


 会場に入って右手に並んでいるのが「ELEMENT」の5部作。
 右から「火」「風」「地」「水」です。
 世界は何からできているか―という、古代ギリシャからあった哲学的な問いに対するひとつの答えといえるでしょう。
 ただし「火」以外はそのまま形にするのは難しく、北村さんの苦労がうかがえます。

 「火」は、表面にざらざらした抵抗感のようなものがあります。
 「風」は一見モニュメンタルな塔のようにも見えますが、いろんな方向から集まった気流が上昇していくような場面を作者は想定して形作ったとのことです。

 「地」は、もともと別々に作っていた作品を組み合わせてつなげたもの。
 植物の根元にある大地―という要素を重視したつくりになっているようです。
 「水」は流れに石のようなものを投げ入れた瞬間を造形化したようにも見えます。


 「ELEMENT」のうち1点だけ、「くう」が入り口付近のちょっと離れた場所にありました。
 しかも北村さんには珍しい、具象的な作品で、ふくろうのようにも見えます。
 「自分で自分を見ている視線」というイメージから鳥を造形したとのこと。
 鳥は、何かをもたらしてくれるものの暗喩でもあります。

 他の4元素に加えて、「空」を設定するあたりが東洋的です。
 西洋では絶対的な「虚無」を意味する「空」ですが、東洋思想、とりわけ禅の思想では「空」を積極的なものとして評価するといわれます。

 この鳥は実物そっくりというより、北村さんが想像力を駆使して作り上げた空想の鳥なのです。


 冒頭画像の中央は、左が「無窮 ETERNITY I」、右が「無窮 ETERNITY II」。

 北村さんは伊達市大滝村も制作拠点にしていますが、そこに北米の先住民族から船便でおくられてきたトーテムポールが20基ほどもあるそう。
 それに刺戟を受け「自分のトーテムを作りたかった」と、作り上げたのがこの大作2点です。「II」の木が北米材であったことも、創作のきっかけになったとのこと。

 果てしなく天空を志向する姿は、抽象彫刻のパイオニアであるブランクーシの「無限柱」を想起させます。

 一方、左の「I」は、河川敷などによく生えているドロノキ。
 今回の個展で使用されている木材は、ニセアカシアやクルミ、ヤチダモなどをふくめ11種類もあります。素材の好き嫌いが少なく、どんな木でもその木の性質に応じて作り上げるのも、北村さんの柔軟な姿勢をあらわしています。



 左から
「受容 ACCEPTABLE」
「呼応 CALL AND RESPONCE」
「残心 REMAIN」

 「残心」は居合道などの用語とか。
 前述のとおり、この作品だけは表面が平滑にみがいてあります。
 

 「開闢かいびゃく BIG BANG」。

 恩師である理科の教師から、ビッグバンのような彫刻を作っては―と促されて制作したそうです。宇宙空間の始原を表現したような大作です。


 他に、壁掛けの「転生 TRANSMISSION」や「流動 FLOW」(DMの作品ですが、さらに手をいれています)、まるいかたちが人の手を思わせる「たなごころ」、ブロンズ鋳造に挑戦した「凹と凸」、連作「気 I~V」など。

「世界は人間だけではないこと、「いま・ここ」の世界は「いまではなく、ここではない」世界によって成り立っていることなどをあらためて考える機会になればと思います」
と、北村さんのステートメントにありました。
 しかし、かたちの世界に自由に目をさまよわせながら見るのもよいでしょう。
 いろいろな見方ができるのが抽象彫刻の良いところですし、見る人のイマジネーションを解き放つ力を、北村さんのエネルギッシュな仕事は、持っていると思うのです。


2018年7月10日(火)~15日(日)午前10時~午後7時(最終日~午後5時)
ギャラリーエッセ(札幌市北区北9西3)


北村哲朗 彫刻展―境界の構図 (2015)
首展 (2015)
北村哲朗彫刻展 (2010、画像なし)





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