![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/45/ef6f66cfe1907939488dda061a9f7bb4.jpg)
(承前)
すでに会期終了した展覧会ですが、釧路市立美術館で見た「奇跡のシールアート 大村雪乃の世界」について、たいせつなことを書いていませんでした。
それは、このアートの着想を支えている視覚の在り方が「デジタルカメラ以後」のものだ、ということです。
わたしたちは絵画について考えるとき、「現実世界」と「絵画」の二項を設定しがちです。
しかし、わたしたちの視覚はそれほど無垢でナイーブなものではありません。
現代の世の中には、すでに現実世界を描写したり撮影したりしたイメージがあふれかえっています。
絵を描いたり写真を撮ったりする人もそうでない人も、先行するイメージの影響を、強く受けざるを得ないのです。
ここで思い出すのが、漫画によくみられる記号表現について四方田犬彦氏による指摘です。
夏の強い日差しが照り付ける情景で、光を表す線と線の間に、透明な五角形や正方形、ひし形が三つ四つ連なるように描かれることがよくあります。
しかし、これはカメラを光の方に向けた際にレンズ内に発生するゴーストであり、肉眼では見えません(カメラでも見えない設計になっている方が望ましい)。
わたしたちはテレビニュースなどで見られるゴーストを、すっかり自分自身の視覚によるものだと思っているのです。
さて、夜景が、電気が普及して以降の産物であることは言うまでもありません。
作者もそのことに自覚的で、あえて電灯のほとんどない夜景を作品にもしています。
ただ、これらも、やはり写真で見た夜景の記憶が、わたしたちの視覚の認識に侵入し始めていると思われます。
そしてその写真とはデジタル写真です。
デジタルカメラが普及し始めた当時、デジタルとフィルムの違いについて、難しいことを言う評論家もいましたが、いちばんわかりやすい違いはずばり、感度です。
筆者が自分のカメラを初めて所持したのは1980年代ですが、当時、ASA(ISO)400のフィルムは高感度といわれていました。
実際にはISO1600や3200のフィルムも市販されていたのですが、粒状性が粗く、特殊な用途にしか適さないとされていたのです。モノクロフィルムを増感するという手もありますが、やはり粒状性が粗くなりました。
したがって、夜景は三脚を使わないと撮影できないものでした。シャッターをあけている時間が長いので、車のヘッドライトなどは線状に写ったものです。
昨今のデジタルカメラは、ISOで3万とか5万は当たり前で、画質に目をつぶれば10万以上にも設定できます。
しろうとが普通にシャッターを切って、星空や花火大会が撮影できる日が来るとは、ゆめにも思っていませんでした。
大村雪乃さんの世界は、高感度化した写真イメージを反映した、現代ならではのアートになっていると思います。
もちろんフィルム時代に夜景の写真がなかったわけではありません。とはいえ、デジタル以後に一般化し普及したイメージがあってはじめて成立しているのではないでしょうか。もちろん、それは悪いことでもなんでもありません。
鴨居玲の個展は、2015年に道立函館美術館で開かれたものと出品作はかなり異なっています。
今回は、どう見ても未完成としか思えない作品やエスキース類が多く並んでいます。
もちろん、スケッチを見るのは、タブローとは別の楽しみであり、その巧みさにはうならされますが。
珍しいかも、と思ったのは「教会」のシリーズかな。
明暗を際立たせた人物画に才能をみせる画家が、教会を題材にしたのですが、見た目は建物というよりは、石の塊のような不思議な作品になっていました。
とはいえ今回の個展は、熱狂的な彼のファンは別として、2015年の個展を見た人がわざわざ出かけるには及ぶまい、というのが正直なところです。
2024年7月13日(土)~9月29日(日)午前9時半~午後5時(7月26日、8月30日、9月27日=いずれも金曜=は午後7時まで、月曜休み(祝日は開館し翌火曜休み)
北海道立釧路芸術館(釧路市幸町)
一般1000(800)円、高大生600(400)円、小中生300(200)円
※( )内は親子料金、リピーター、10名以上の団体、JAF会員料金。
※釧路芸術館や、他の道立美術館で開催された特別展の半券を提示すれば、釧路芸術館や道立美術館で開催中の特別展をリピーター割引で見られます(半券1枚につき1回限り、当該半券の展覧会会期の最終日から1年間有効)
※鴨居「玲」にちなんでゼロのつく日(10日、20日、30日)は100円引き(他の割引との併用は不可)
※釧路芸術館のSNSのフォロワーは、受付でフォロー画面を提示すれば100円引き(他の割引との併用は不可)
・JR釧路駅から約1.2キロ、徒歩15分
・都市間高速バス、釧路空港連絡バスは「フィッシャーマンズワーフMOO(ムー)」から約360メートル、徒歩5分
(駐車場は8台。満車の場合は「釧路錦町駐車場」へ。2時間無料)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5d/d0/3c3afb01e6aa9ea17fb3382130bca8e7.jpg)
すでに会期終了した展覧会ですが、釧路市立美術館で見た「奇跡のシールアート 大村雪乃の世界」について、たいせつなことを書いていませんでした。
それは、このアートの着想を支えている視覚の在り方が「デジタルカメラ以後」のものだ、ということです。
わたしたちは絵画について考えるとき、「現実世界」と「絵画」の二項を設定しがちです。
しかし、わたしたちの視覚はそれほど無垢でナイーブなものではありません。
現代の世の中には、すでに現実世界を描写したり撮影したりしたイメージがあふれかえっています。
絵を描いたり写真を撮ったりする人もそうでない人も、先行するイメージの影響を、強く受けざるを得ないのです。
ここで思い出すのが、漫画によくみられる記号表現について四方田犬彦氏による指摘です。
夏の強い日差しが照り付ける情景で、光を表す線と線の間に、透明な五角形や正方形、ひし形が三つ四つ連なるように描かれることがよくあります。
しかし、これはカメラを光の方に向けた際にレンズ内に発生するゴーストであり、肉眼では見えません(カメラでも見えない設計になっている方が望ましい)。
わたしたちはテレビニュースなどで見られるゴーストを、すっかり自分自身の視覚によるものだと思っているのです。
さて、夜景が、電気が普及して以降の産物であることは言うまでもありません。
作者もそのことに自覚的で、あえて電灯のほとんどない夜景を作品にもしています。
ただ、これらも、やはり写真で見た夜景の記憶が、わたしたちの視覚の認識に侵入し始めていると思われます。
そしてその写真とはデジタル写真です。
デジタルカメラが普及し始めた当時、デジタルとフィルムの違いについて、難しいことを言う評論家もいましたが、いちばんわかりやすい違いはずばり、感度です。
筆者が自分のカメラを初めて所持したのは1980年代ですが、当時、ASA(ISO)400のフィルムは高感度といわれていました。
実際にはISO1600や3200のフィルムも市販されていたのですが、粒状性が粗く、特殊な用途にしか適さないとされていたのです。モノクロフィルムを増感するという手もありますが、やはり粒状性が粗くなりました。
したがって、夜景は三脚を使わないと撮影できないものでした。シャッターをあけている時間が長いので、車のヘッドライトなどは線状に写ったものです。
昨今のデジタルカメラは、ISOで3万とか5万は当たり前で、画質に目をつぶれば10万以上にも設定できます。
しろうとが普通にシャッターを切って、星空や花火大会が撮影できる日が来るとは、ゆめにも思っていませんでした。
大村雪乃さんの世界は、高感度化した写真イメージを反映した、現代ならではのアートになっていると思います。
もちろんフィルム時代に夜景の写真がなかったわけではありません。とはいえ、デジタル以後に一般化し普及したイメージがあってはじめて成立しているのではないでしょうか。もちろん、それは悪いことでもなんでもありません。
鴨居玲の個展は、2015年に道立函館美術館で開かれたものと出品作はかなり異なっています。
今回は、どう見ても未完成としか思えない作品やエスキース類が多く並んでいます。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/d0/edc6fff4190a65963b4d1b4c21f7f257.jpg)
もちろん、スケッチを見るのは、タブローとは別の楽しみであり、その巧みさにはうならされますが。
珍しいかも、と思ったのは「教会」のシリーズかな。
明暗を際立たせた人物画に才能をみせる画家が、教会を題材にしたのですが、見た目は建物というよりは、石の塊のような不思議な作品になっていました。
とはいえ今回の個展は、熱狂的な彼のファンは別として、2015年の個展を見た人がわざわざ出かけるには及ぶまい、というのが正直なところです。
2024年7月13日(土)~9月29日(日)午前9時半~午後5時(7月26日、8月30日、9月27日=いずれも金曜=は午後7時まで、月曜休み(祝日は開館し翌火曜休み)
北海道立釧路芸術館(釧路市幸町)
一般1000(800)円、高大生600(400)円、小中生300(200)円
※( )内は親子料金、リピーター、10名以上の団体、JAF会員料金。
※釧路芸術館や、他の道立美術館で開催された特別展の半券を提示すれば、釧路芸術館や道立美術館で開催中の特別展をリピーター割引で見られます(半券1枚につき1回限り、当該半券の展覧会会期の最終日から1年間有効)
※鴨居「玲」にちなんでゼロのつく日(10日、20日、30日)は100円引き(他の割引との併用は不可)
※釧路芸術館のSNSのフォロワーは、受付でフォロー画面を提示すれば100円引き(他の割引との併用は不可)
・JR釧路駅から約1.2キロ、徒歩15分
・都市間高速バス、釧路空港連絡バスは「フィッシャーマンズワーフMOO(ムー)」から約360メートル、徒歩5分
(駐車場は8台。満車の場合は「釧路錦町駐車場」へ。2時間無料)
(この項続く)