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映画「黄金のアデーレ 名画の帰還」

2016年01月08日 23時10分40秒 | 音楽、舞台、映画、建築など
 きのうちょっと興奮してツイートしたけれど、同じ趣旨のことをもう一度いいます。

 宇宙人も、派手な撃ち合いも、ゾンビや吸血鬼も、ベッドシーンや恋の駆け引きも、ペットも、登場しないのに、どうしてこんなにおもしろいんだろう!


 物語などは、公式サイトや予告編をごらんになればわかりますが、ナチスドイツに追われるようにウイーンから米国に逃げてきたロサンゼルス在住の80代のユダヤ人女性が、ナチスに奪われて現在はオーストリアの至宝とも呼ばれているクリムトの名画の返還を求めて、オーストリア政府を相手取って訴訟を起こす―というもの。
 タッグを組むのは、知人の息子の弁護士。実は、20世紀音楽を代表するシェーンベルクの子孫です。ようやく大手弁護士事務所に務めるようになったばかり。最初は、気乗りがしなかったのですが、くだんの絵が1億円以上もすると知って、ウィーンに二人で乗り込みます。そのうち、この案件に没頭し、事務所もやめてしまいますが、その甲斐あって連邦最高裁まで持ち込むことに成功します。

 主人公女性はウィーンでは豊かな家に生まれました。クリムトの名画のモデルは彼女の伯母でした。
 しかし、伯母は若くして亡くなります。結婚式の直後、ナチスドイツがオーストリアを併合し、ユダヤ人は自由を奪われ、自宅の美術品は将校が持ち去っていきます。
 伯母の豪華な首飾りは、ゲーリンク夫人のものになったり、絵はウィーンの美術館に移されました。

 これらの話が、すべて史実だというからおどろきです。
 おそらく、映画のシナリオに仕立てるなら、もうすこしうまいやり方があるような気がしますが、事実ということの重みが、見る者を圧倒します。

 ですから、年に100本映画を見ているような評論家からすれば、この作品は「映画ならではの驚き」に乏しく、普通の撮り方に過ぎるように感じられるかもしれません。でも、筆者のようなふつうの人からすれば、登場人物が少なく、複雑でないシナリオや撮り方のほうがありがたいのです。



 ただし、過去の場面への転換は、じつに鮮やかでかつ自然です。
 とくに、主人公がウィーンの薬局で、ナチスの監視下から間一髪で逃亡を遂げた過去を想起する場面は、劇的としかいいようがありません。

 
 美術、絵画が好きな人には、絶対におすすめします。
 2015年の私のベストワンです。

□公式サイト http://golden.gaga.ne.jp/


 追記1

 ウィーンでふたりに協力を申し出る雑誌記者の存在は重要だと思います。
 自国の過去の暗い歴史から顔を背けず、それを明らかにすることで、正義を実現する。それこそがほんとうの「愛国者」なのだということが、あらためてわかります。


 追記2

 この雑誌記者を交えて3人が、調停の合間に休む遊園地って、あの「第三の男」でオーソン・ウェルズが登場するところですかね。


 追記3

 日本語字幕ではわかりませんが、主人公女性が、オーストリア政府が絵画を返還するかもしれないというニュースを最初につかんだのは、ニューヨークタイムスでした。
 同紙は、米国を代表する新聞として知られますが、カリフォルニアでも印刷、配布しています。主人公は、小さなブティックの店主ですが、実は情報に敏感なインテリだったのかもしれません。


 まとめ

 やっぱり全体主義や戦争や人種差別はまっぴらですね。

(追記) ヒトラーが受験に失敗したことで有名なウィーンの美術アカデミーが画面に映り、「ヒトラーが合格していれば」という冗談めかしたせりふがあったけど、いや、冗談抜きで、合格していればよかったのにと思うよね。


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