■ラファエロ展以来、また間隔があいてしまった。
3月末の東京行きの記事は、まだ、ベーコン、会田誠、VOCA、知られざる日本写真開拓史、西洋美術館の常設の5本が書きさしのまま残っている。早いとこ、何とかせねば…。
というわけで、エル・グレコ(1541~1614)である。
まず、ラファエロ展と同じ感想になってしまうが、これだけのエル・グレコを日本国内で見ることができるとは思わなかった。「エル・グレコとその時代」展で、本人の作品は数点、あとは同時代のよく知らない画家が大半…というのが、これまでの相場であるくらいの大家であるはずだ。
ラファエロ展は、それでも、周辺の画家の作品が半数ぐらいあったが、今回のエル・グレコ展は、参考出品の1点をのぞき、すべてが本人の真筆である。もちろん、当時のことであるから、弟子の筆はかなり入っているものと見なければなるまいが、高さ3.47メートルの「無原罪のお宿り」、さらに「受胎告知」や肖像画など、代表作や大作がスペインや米国など世界各地から集められており、信じがたい充実ぶりを感じることができた。
(収蔵先は、ほかにオーストラリア、デンマーク、フランス、英国、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、台湾。国内は国立西洋美術館の1点のみ)
よく知られているように「エル・グレコ」とはスペイン語で「ギリシャ人」という意味で、本名はドメニコス・テオトコプーロス。ギリシャのクレタ島生まれだったので、そう呼ばれていたようだ。
最初は故郷でイコン画家として活動していたが、その後、ヴェネツィア、ローマを経て、1574年以降はスペインのトレドを拠点として、死まで活躍する。その当時のトレドを代表する画家だったが、以後は次第に忘れられ、19世紀後半から再評価されるようになった。
今回は、めずらしいことに、初期のイコンも展示されていた。
どうして忘却と再評価の時期があったのか。
それは、彼の画風が、16、17世紀としてはかなり異質であり、それは当時からいろいろ言われていたほどだったからだろう。
「遠くから見ると迫真だが、近づいて見ると筆跡が生々しい」
というのは、ベラスケスやゴヤなどスペインの巨匠に共通する資質なのかもしれないが、それはとりわけエル・グレコにおいて著しい。正直なところ、こんなに雑でいいのかと思うほどである。
印象派以前の欧洲アカデミスムというのは、ごくおおざっぱにいえば、「筆跡がわからないほど滑らかに、本物っぽく仕上げる」のが極意とされていた。その完成者がレオナルドやラファエロだったわけである。その基準を、エル・グレコの絵は相当逸脱しており、教会関係者から文句が出るほどであった(エル・グレコはいちいち反論していたようである)。
筆跡や筆触が絵画の一要素として認知されるようになるのは19世紀も終わり近くなってからであり、とりわけセザンヌの作品では、筆触が生むリズムが、絵を成立させる大きな要因になっている。そういう時代的な背景があってはじめて、エル・グレコはその真価を認められるようになったのだろうと思う。
ところで、エル・グレコの絵で、昔から不思議に感じていることがある。
それは、彼の絵に登場する人物の衣服のほとんどが、模様などがなく、原色など一色だけでデザインされていることである。
どの人物もみな、古代ギリシャ風の布をまとっており、袖がデザインされていたり、縞やチェックが入っていたり、上半身と下半身で色が異なったりといった、普通ならありそうなことが、エル・グレコの絵ではほとんどない。
まあ、イエスや洗礼者ヨハネであれば、さほど不自然ではないのだが、出てくる人物の大半についても同様なのだ。
エル・グレコがファッションに全く興味が無かったのかもしれない。
あるいは、もしミケランジェロであれば、登場人物の多くは裸身なんだろうけど、トレドではカトリック教会の力が強いため裸体を描くことができず、エル・グレコも「まあ、裸体じゃなきゃなんでもオッケーか」と、ちょっと投げやりだったのだろうか。
一番ありそうなのは、衣服は弟子に任せるところだが、弟子の技量に難があったため、単色を指示してぬらせていた、というあたりではないか。
エル・グレコ本人が苦手だったかもしれない。ただ、どの古代ギリシャ風の服でも、ひだは見事に陰影がほどこされて描かれており、やればできたんじゃないかという気がする。また、少ないながら「聖ラウレンティウスの前に現れる聖母」のように複雑な浮き彫り文様のある服をまとった人物の絵もある。
この謎については、展覧会を見ても、部厚い図録を読んでも、わからなかった。
それにしても、エル・グレコの絵の登場人物はよく見ると美男美女が多い。
イエスはジョニー・デップばりのイケメンであるし、聖母マリアは、ううむこれは誰に似ているだろう。
なんだか、頭の悪い人が書いたのがバレバレな文章になってしまった。
多謝。
2012年10月16日~12月24日 国立国際美術館
2013年1月19日~4月7日 東京都美術館
3月末の東京行きの記事は、まだ、ベーコン、会田誠、VOCA、知られざる日本写真開拓史、西洋美術館の常設の5本が書きさしのまま残っている。早いとこ、何とかせねば…。
というわけで、エル・グレコ(1541~1614)である。
まず、ラファエロ展と同じ感想になってしまうが、これだけのエル・グレコを日本国内で見ることができるとは思わなかった。「エル・グレコとその時代」展で、本人の作品は数点、あとは同時代のよく知らない画家が大半…というのが、これまでの相場であるくらいの大家であるはずだ。
ラファエロ展は、それでも、周辺の画家の作品が半数ぐらいあったが、今回のエル・グレコ展は、参考出品の1点をのぞき、すべてが本人の真筆である。もちろん、当時のことであるから、弟子の筆はかなり入っているものと見なければなるまいが、高さ3.47メートルの「無原罪のお宿り」、さらに「受胎告知」や肖像画など、代表作や大作がスペインや米国など世界各地から集められており、信じがたい充実ぶりを感じることができた。
(収蔵先は、ほかにオーストラリア、デンマーク、フランス、英国、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、台湾。国内は国立西洋美術館の1点のみ)
よく知られているように「エル・グレコ」とはスペイン語で「ギリシャ人」という意味で、本名はドメニコス・テオトコプーロス。ギリシャのクレタ島生まれだったので、そう呼ばれていたようだ。
最初は故郷でイコン画家として活動していたが、その後、ヴェネツィア、ローマを経て、1574年以降はスペインのトレドを拠点として、死まで活躍する。その当時のトレドを代表する画家だったが、以後は次第に忘れられ、19世紀後半から再評価されるようになった。
今回は、めずらしいことに、初期のイコンも展示されていた。
どうして忘却と再評価の時期があったのか。
それは、彼の画風が、16、17世紀としてはかなり異質であり、それは当時からいろいろ言われていたほどだったからだろう。
「遠くから見ると迫真だが、近づいて見ると筆跡が生々しい」
というのは、ベラスケスやゴヤなどスペインの巨匠に共通する資質なのかもしれないが、それはとりわけエル・グレコにおいて著しい。正直なところ、こんなに雑でいいのかと思うほどである。
印象派以前の欧洲アカデミスムというのは、ごくおおざっぱにいえば、「筆跡がわからないほど滑らかに、本物っぽく仕上げる」のが極意とされていた。その完成者がレオナルドやラファエロだったわけである。その基準を、エル・グレコの絵は相当逸脱しており、教会関係者から文句が出るほどであった(エル・グレコはいちいち反論していたようである)。
筆跡や筆触が絵画の一要素として認知されるようになるのは19世紀も終わり近くなってからであり、とりわけセザンヌの作品では、筆触が生むリズムが、絵を成立させる大きな要因になっている。そういう時代的な背景があってはじめて、エル・グレコはその真価を認められるようになったのだろうと思う。
ところで、エル・グレコの絵で、昔から不思議に感じていることがある。
それは、彼の絵に登場する人物の衣服のほとんどが、模様などがなく、原色など一色だけでデザインされていることである。
どの人物もみな、古代ギリシャ風の布をまとっており、袖がデザインされていたり、縞やチェックが入っていたり、上半身と下半身で色が異なったりといった、普通ならありそうなことが、エル・グレコの絵ではほとんどない。
まあ、イエスや洗礼者ヨハネであれば、さほど不自然ではないのだが、出てくる人物の大半についても同様なのだ。
エル・グレコがファッションに全く興味が無かったのかもしれない。
あるいは、もしミケランジェロであれば、登場人物の多くは裸身なんだろうけど、トレドではカトリック教会の力が強いため裸体を描くことができず、エル・グレコも「まあ、裸体じゃなきゃなんでもオッケーか」と、ちょっと投げやりだったのだろうか。
一番ありそうなのは、衣服は弟子に任せるところだが、弟子の技量に難があったため、単色を指示してぬらせていた、というあたりではないか。
エル・グレコ本人が苦手だったかもしれない。ただ、どの古代ギリシャ風の服でも、ひだは見事に陰影がほどこされて描かれており、やればできたんじゃないかという気がする。また、少ないながら「聖ラウレンティウスの前に現れる聖母」のように複雑な浮き彫り文様のある服をまとった人物の絵もある。
この謎については、展覧会を見ても、部厚い図録を読んでも、わからなかった。
それにしても、エル・グレコの絵の登場人物はよく見ると美男美女が多い。
イエスはジョニー・デップばりのイケメンであるし、聖母マリアは、ううむこれは誰に似ているだろう。
なんだか、頭の悪い人が書いたのがバレバレな文章になってしまった。
多謝。
2012年10月16日~12月24日 国立国際美術館
2013年1月19日~4月7日 東京都美術館