あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

さらば たっちゃん 1

2011-09-11 | 
TATOO屋たっちゃん

序章

この冬になって、社長(?)のヒッジは引っ越しをした。
ハグレーパークにほど近いその場所を説明するには、
建物ごと真っ赤にペイントされたタトゥーショップが便利だった。
煉瓦造りの壁。2階建分ぐらいの高さを無造作に塗りたくってある。
目印になるぐらいだから、目立つわけであって、目立つ、ということは、つまり
・・・
見苦しい。こう言っては失礼かもしれないが、悪趣味だ。
おまけにでかでかと人間の絵が描かれている。
若い男の絵だ。
坊主頭に白いTシャツ。ジーンズにトライアンフのバックルが付いたベルトをしている。
大きく広げた両手には無数の入れ墨がしてあり、右手にはタトゥーガンが握られている。
車に乗っていて、始めて見たとしたら、正直ドキリとしてしまいそうだ。
でも、オイラは別段そうは思わなかった。
なぜか?
そう、オイラは奴を知っているのだ。
いや、これから知っていくことになるのだ・・・

このバックカントリートラバースに携わる人間は持ち物に名前を与え、
たとえその寿命がつきようとも愛し続ける、といった性癖がある。
たとえば、スキー板に、車に、自転車、ギター・・・
JCは昔、「シンディ」という名前を与えられたボードをもっていたが、
NZに渡る際に飛行機でエッジをやられてしまい、保険会社送りになってしまった。
が、その後なんとか手中に取り戻し、現在も大切に保管されている。
ヒッジなどは、スキーをスキーと思わぬ扱いをしているが、
彼は、別の意味で自分の所有物をあいしているのだ。
WAXもかけない、エッジは研ぐどころか、剥離し、
ところどころ亀裂がはいり、アウト側は飛び出ている物もある。
ソールはヘタクソなリペアで波打っているが、
雪が降れば嬉々としてそれを持ち出し、シュートに身を投じてゆく。
そして、滑るたびにスキーに語りかける。
(いままで、いろいろな所にいったな・・・)
そして、
(次はどこにいこうか・・・?)
と。
チューンナップ業を日本で営むオイラとしては嘆かわしい限りだが、
奴の考え方は分からなくもない。

ああ、話しを元にもどそう。

こんなメンツが集まって、引っ越し祝いにビールを空ければ、
自然と話題も盛り上がってくるものだ。
会社設立時に購入したハイエースに名前を付けよう、と息巻いたが、
結局、ボンベイ・サファイアのオーガニックレモン割に脳をやられてしまい、
その夜はお流れになってしまった。
翌日、すこしアルコールが残る頭を抱えながら外にでると、
「奴」と目があった。そして、だれからともなく、
「ねぇ、あいつの名前は?」
誰が口にしたかは覚えていないのだが、きっと全員、同じことを思ったのだろう。
しかし、昨日の夜はあれだけ頭を回転させてもハイエースの名前は出てこなかったのに、
今回は・きた。きっと名前が付くタイミングだったんだと思う。
「・・・たっちゃん。」
暫くの失笑の後、
「えー・・・なに?奴は日本人?なの???」
タトゥー屋だからたっちゃん、という、ものすごおおい安直な理由で口走ってしまったが、
意外にも話はそこで終わらなかった。
オイラはみんなに向かって、勢い、話しはじめたんだ。
「そうなんだよ、あいつは日本人なんだ。岐阜の美濃の出身でさ、云々」
話し始めると、まるで、もう一つの自分を生きているようになってきた。
昭和から平成へ、バブル経済、少雪、恋愛、旅。
街角に描かれたサインはいつの間にか人格を持ち、輝きを放ち始めた。






Backcountry Traverse ホームページ コラム Tatoo屋たっちゃん 序章 by RYU
http://www.backcountrytraverse.co.nz/tatoo.htm


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