あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

9月18日 ブロークンリバー

2011-09-19 | 最新雪情報
娘と二人の日曜日、僕らはブロークンリバーへ向かった。
友達のレネ親子も誘ったのだが、娘のリアが熱を出して行けないというメッセージが入った。
まあ行けない時はそういうタイミングなのだろう。
帰りに寄ってくれ、ということなので深雪と二人で山へ向かった。
行きがけにちょっとだけ寄り道をしてアスパラガスを買う。
メインの道からちょっと外れた農家が無人販売をやっている所で、知る人ぞ知るという感じの場所だ。
「アスパラはシーズン出始めが一番おいしい」とは女房の言葉だが、今シーズン初のアスパラガスだ。
あらかじめ、これを見込んで今日はベーコンも用意してある。
ベーコンは近所の肉屋で燻製を作っているもので、とびきり美味い。
スプリングフィールドでブラウニーの家に立ち寄る。
日曜日にBRへ行くと伝えてあったのだが連絡が取れなかったのだ。
ブラウニーはどうやら留守。
まあ、そういうタイミングなのだろう。
最近特にそうなのだが、人と会うべく時は何の連絡をしなくても会う。
会わないべくという時には、どうしても会えない。
過度な期待をせずに、そういうものだと割り切ってひょうひょうと過ごすと、いろいろなことがうまくいく。
今日はどうやら深雪と二人で山へ行け、というお告げなのだろう。

駐車場には車は20台ほど。快晴の日曜日というのにこの少なさ。
この時期になると、もうスキーという雰囲気ではなくなるのだろう。
街にいるとその気持ちも分かる。
グッズリフト(荷物用リフト)に乗り込み上に上がる。これに乗れるようになったのはほんの数年前のこと。このおかげで日帰りスキーがすごく楽になった。
リフトの下を通る道を見ながらボクは言った。
「深雪、ここを歩いていたことを覚えているか?」
「うん」
「今ではこうやって、これに乗れることが当たり前になっただろ?あの時歩いた経験は良かったなあと思うんだ」
「ふーん」
チケットオフィスからは15分ほどの登り。深雪は文句も言わずに登る。
文句を言っても始まらないと悟っているのか、こういうものだと割り切っているのか、文句を言ったら置いていかれると知っているのか、子供の足では階段は楽ではないはずだがとにかく登る。
大人でも、これだけのハイクアップで文句を言う人はいる。
「なぜここにリフトかゴンドラをかけて楽に上がれるようにしないのか」
本気でそういう人もいるのだ。
グッズリフトに乗れることに感謝をして、最後のハイクアップはそういうものだと割り切って歩くか。
グッズリフトを単なる変わった乗り物ぐらいに考え、その先のハイクアップに文句を言うか。
両者の意識の差は大きい。
階段を登りきると深雪が言った。
「わあ、きれい」
振り返ると山はうっすらと雪化粧。大地に低い霧がちぎれるように固まる。空は澄むように青く春の太陽が山を照らす。
「それだっ!今、この瞬間にオマエが感じた『わあ』という感覚。それが人生で一番大切なことだ。覚えておきなさい。」
「は~い」
上機嫌である。

アクセストーは深雪をロープで牽引して上へ。
深雪はメイントーは一人で乗れるようになったが、アクセストーは斜面の変わり目があるのでそれが怖いようだ。
まあ来年にはここも一人で乗れるようになるだろう。
パーマーロッジに荷物を置き、メイントーへ。
前回から一人でこのリフトには乗れる。ボクはすぐ後ろにつき深雪が滑車から外したロープをかけていく。
後ろから見ていると、今にも滑車にぶつかりそうでひやひやするが上手くかわしていく。
これにぶつかって肋骨を折ったエーちゃんとはえらい違いだ。
2、3本、日当たりの良い斜面を滑る。雪は重たくなりかけ、春の雪だ。
パーマーロッジに戻りランチタイム。
今日のメニューはアスパラベーコンと特製ソーセージ。
ベーコンとアスパラはなんでこんなにも合うのだろう。春の味覚だ。
多めに作って、スタッフにもおすそ分け。

昼飯を食べていると、メンバーがレース用のポールを束で出してきた。
聞くと午後は子供用のレースをやるという。
こういうことが突発的に始まる。理由は、今日は子供がたくさんいるから。
こういうノリは大好きだ。
その場で子供達にゼッケンが配られ、あっという間にポールがセットされ準備完了。
深雪はいつものことながら、消極的である。
「ねえ、みーちゃんも出なきゃダメ?」
「何言ってんだオマエは。オマエだってクラブメンバーだろ?こういうのはみんなでやるから楽しんだぞ。つべこべ言ってないでゼッケンをもらってこい」
周りのメンバーも後押しをする。
「Come on Miyuki.Just for fun!」
照れくさそうに深雪がゼッケンを受け取る。始まれば楽しんでやるくせに。
ラグビートーに乗ってコースへ向かう。
このリフトに深雪が一人で乗るのは今日が初めてだが、なんなくクリアー。
今まで出来なかったことが出来るようになるのは、本人にとっても楽しいことだろう。
「よし、じゃあインスペクションをしょう」
「それって何?」
「下見だ。いきなりコースに入って滑ったら、次にどこに行くか分かんなくなっちゃうだろ。だからどういうふうに滑るのか良く見ておくのさ」
ボクはスタートからコースの説明をした。
「ねえねえ、1本滑ってもいい?」
「おう、いいぞ、行って来い」
さっきの消極的な態度はどこへやら。やる気まんまんである。
そしてレース。スタート係が無線で「3,2,1、ゴー」の合図を出し、ゴール係がストップウォッチで計る。2本滑って合計タイムで勝敗を決める。
小さな子供はどこに行っていいか分からなくなるので、親が先導する。
思えば深雪が4歳の時に、こうやってクラブのレースに出てボクが先導して滑り、その年の幼稚園部女子クラスで優勝した。
深雪の名前は小さなカップに彫られ、スキークラブに残っている。
今日の結果は二位。本人も満足そうである。

午後になると雲が出てきた。
最後の1本はアランズベイスンへ行く。
ダブルボールという、わりと雪の良い場所へは尾根を移動していく。雰囲気はバックカントリーだ。
メンバーのファミリーと合流して一緒に滑る。
雪質は春のパウダーといったところか。底は突くが下が柔らかいので滑りやすい。
深雪のパウダーの滑りもかなり安定して、スピードも出せるようになってきた。
パウダー用のファットスキーが欲しいなんて言いだすのもすぐだろう。
ボクは手を合わせ目を閉じ、山の神に感謝の言葉を告げた。
「今日という日を幸せに過ごさせてくれて、ありがとうございます。そしてこれからもよろしくお願いします」
ボクの言葉は風に運ばれて、山の向こうに消えていった。





アスパラの無人販売は古びた冷蔵庫だ。冷蔵庫として使えなくても保冷庫として使う。



深雪が急斜面を滑る。日本なら超上級者コースだろう。



昼飯はアスパラベーコンとソーセージ。



レースのスタート地点。雰囲気はとことんのんびりだ。



なんだかんだ言って、レースになればそれなりに滑るのだ。



双子の親はこうやって子供を運ぶ。通称タクシードライバー。



春のクラブフィールドは人も少ない。思い思いに時を過ごす。



アランズベイスンへの道。



ダブルボールには午後でもパウダーが残っていた。



深雪が新雪を滑る。最近は新雪の滑りも安定してきた。



メンバーの家族と一緒。下の子は3歳だ。



帰る前にパーマーロッジで皿の片付け。こうやって社会の中での役割を学んでいく。


コメント (1)
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