娘と二人
2011-09-17 | 日記
女房がオークランドへ出張で、今は深雪と二人である。
女房が旅立った日、学校へ迎えに行くと、車に乗った直後に深雪がこう言った。
「お父さん、これから2週間、よろしくお願いします」
いきなりそう言われるとこっちもあわててしまう。
「あ、いえ、こちらこそよろしくお願いします」
そんな感じで二人の暮らしが始まった。
金曜日は学校でいろいろな民族衣装を着る日だったらしい。
深雪はこの時のために、あらかじめ女房から浴衣の着方を習っていた。
そのかいあってか、クラスでベストドレッサーに選ばれたらしい。
さらに夜はディスコ。金曜日はイベントが多い。
学期に1回、学校のホールでディスコの晩がある。
自分でお気に入りの服を用意して、どこにしまってあったのか靴も普段とは違うピカピカの靴を出してきた。
最近は自分のことを自分で出来るようになって、こちらも楽だ。
学校へ送った後は近くのパブでラグビーを見る。日本とオールブラックスの試合がこの日にあった。
「お父さん、お酒飲みすぎないでね。ちゃんと9時に迎えに来てよ」
いい加減な親を持つと、娘もいろいろと心配らしい。
パブでは日本人はボク一人だ。
だが今は日焼けで真っ黒なのでマオリのように見えることだろう。
一人名もないパブで聞く君が代は不思議な感覚である。
日本の国歌はおごそかと言うか、もの静かと言うか、他の国の国歌のように血湧き肉踊るという華々しさはない。
この歌は好きでも嫌いでもないが、さすがにこういう場所で聞くと感慨深いものがある。
前半終了後、娘を迎えに行き、後半は家のテレビで見た。
うちではずっとテレビを物置にしまってあったのだが、数ヶ月前に出してきた。
前回やはり女房が出張の時に、深雪が家事手伝いをするという条件でテレビを出した。
深雪はボクと二人の時はよく働いたが、女房が帰ってくると甘えが出たのか、言わなければやらなくなった。
「お母さんが居ない時はよく家の手伝いをするのに、なんでお母さんがいるとダメになるんだ?」
ボクは自分が30年前に言われた言葉を、そっくりそのまま娘に言った。
あれはボクが今の深雪ぐらいの歳だっただろうか。母親が仕事の研修か何かで数ヶ月家を留守にしたことがあった。
父と兄とボクの3人で役割分担をしながら、数ヶ月を過ごした。
母が帰ってくると、ボクは家の仕事をするのを面倒くさがり、父親によく叱られたものだった。
娘を見ていると、そのまま昔の自分を見ているようだ。
そして今のボクは、甘える子供を叱る昔の父である。
今回もボクと二人になると深雪はすすんで家の仕事をするようになった。
晩御飯の片付けを済ませ、二人で一緒にテレビを見たりするのも悪くはない。
だが女房とも話をしてワールドカップが終わったらテレビは再び物置にしまうことにした。
娘はそのことはまだ知らない。
「ねえねえ、ロットって何?」
今朝、娘が聞いてきた。テレビでコマーシャルか何かを見たのだろう。
「ん、ロットか。ロットは1から40まで六つの数字を選ぶんだ。それが揃うとお金がもらえる宝くじだ。よしこれも経験だ、今日買ってみよう。」
ボクは紙と鉛筆を用意した。
「1から40までの数字で頭に思い浮かぶ数字を6つ書き出せ。それを5セットだ」
ボクと深雪は目を閉じて意識を集中したり、ウンウンうなったりして数字を書き出した。
「これでよし、これを持って今日チケットを買いに行こう」
深雪は上機嫌でミリオネラーの唄なぞ歌ったりしている。
夕方、日本語学校の帰りに僕たちは近所のショッピングモールに立ち寄った。
本屋のロット売り場へ行き、やり方を説明する。
「さあ、こうやって選んだ数字をぬりつぶせ」
ロットなんて買うのは何年ぶりだろう。15年ぶりぐらいか。
昔はチケットを握り締めワクワクしながらテレビを見たが、いつのまにかそれもなくなった。
機械が数字を選ぶオプションもできて、コンボ、パワーボールなど、どんどん複雑化していき、それと共に興味も失った。
たまには昔ながらに自分で数字を選んで買い、テレビでそれをチェックするのもいいだろう。
晩飯の後、土曜八時は全員集合ではなくロットの時間である。
40個のボールがガラガラ回っていて、その中から次々にボールが出てくる。
いつものことながら、自分の数字が選ばれない時には面白くない。
ワクワクする時間もあっという間に過ぎてしまう。
娘が握っていたチケットも、あっという間に紙くずになってしまった。
まあそんな簡単に億万長者にはなれないということだ。
これも経験。
寝る時間になって、深雪が甘えた声で聞いてきた。
「ねえねえ、今日お父さんと一緒に寝ていい?」
「なんだ、寂しくなったのか」
「うん。お願い。」
「しょうがねえな。いいよ。」
普段は一人で寝ているのだが、甘えが出たのだろう。
最近は色気づいてきて、髪を伸ばしたり爪に何やら塗ったりしているが、まだ子供だ。
そのうちにこっちが頼んでも嫌がるようになるだろうから、今のうちに娘と添い寝ができる幸せを味わわせてもらおう。
さて明日は日曜日、天気も良さそうだし、親子でブロークンリバーだ。
娘の寝顔を見ながら寝るとしよう。
女房が旅立った日、学校へ迎えに行くと、車に乗った直後に深雪がこう言った。
「お父さん、これから2週間、よろしくお願いします」
いきなりそう言われるとこっちもあわててしまう。
「あ、いえ、こちらこそよろしくお願いします」
そんな感じで二人の暮らしが始まった。
金曜日は学校でいろいろな民族衣装を着る日だったらしい。
深雪はこの時のために、あらかじめ女房から浴衣の着方を習っていた。
そのかいあってか、クラスでベストドレッサーに選ばれたらしい。
さらに夜はディスコ。金曜日はイベントが多い。
学期に1回、学校のホールでディスコの晩がある。
自分でお気に入りの服を用意して、どこにしまってあったのか靴も普段とは違うピカピカの靴を出してきた。
最近は自分のことを自分で出来るようになって、こちらも楽だ。
学校へ送った後は近くのパブでラグビーを見る。日本とオールブラックスの試合がこの日にあった。
「お父さん、お酒飲みすぎないでね。ちゃんと9時に迎えに来てよ」
いい加減な親を持つと、娘もいろいろと心配らしい。
パブでは日本人はボク一人だ。
だが今は日焼けで真っ黒なのでマオリのように見えることだろう。
一人名もないパブで聞く君が代は不思議な感覚である。
日本の国歌はおごそかと言うか、もの静かと言うか、他の国の国歌のように血湧き肉踊るという華々しさはない。
この歌は好きでも嫌いでもないが、さすがにこういう場所で聞くと感慨深いものがある。
前半終了後、娘を迎えに行き、後半は家のテレビで見た。
うちではずっとテレビを物置にしまってあったのだが、数ヶ月前に出してきた。
前回やはり女房が出張の時に、深雪が家事手伝いをするという条件でテレビを出した。
深雪はボクと二人の時はよく働いたが、女房が帰ってくると甘えが出たのか、言わなければやらなくなった。
「お母さんが居ない時はよく家の手伝いをするのに、なんでお母さんがいるとダメになるんだ?」
ボクは自分が30年前に言われた言葉を、そっくりそのまま娘に言った。
あれはボクが今の深雪ぐらいの歳だっただろうか。母親が仕事の研修か何かで数ヶ月家を留守にしたことがあった。
父と兄とボクの3人で役割分担をしながら、数ヶ月を過ごした。
母が帰ってくると、ボクは家の仕事をするのを面倒くさがり、父親によく叱られたものだった。
娘を見ていると、そのまま昔の自分を見ているようだ。
そして今のボクは、甘える子供を叱る昔の父である。
今回もボクと二人になると深雪はすすんで家の仕事をするようになった。
晩御飯の片付けを済ませ、二人で一緒にテレビを見たりするのも悪くはない。
だが女房とも話をしてワールドカップが終わったらテレビは再び物置にしまうことにした。
娘はそのことはまだ知らない。
「ねえねえ、ロットって何?」
今朝、娘が聞いてきた。テレビでコマーシャルか何かを見たのだろう。
「ん、ロットか。ロットは1から40まで六つの数字を選ぶんだ。それが揃うとお金がもらえる宝くじだ。よしこれも経験だ、今日買ってみよう。」
ボクは紙と鉛筆を用意した。
「1から40までの数字で頭に思い浮かぶ数字を6つ書き出せ。それを5セットだ」
ボクと深雪は目を閉じて意識を集中したり、ウンウンうなったりして数字を書き出した。
「これでよし、これを持って今日チケットを買いに行こう」
深雪は上機嫌でミリオネラーの唄なぞ歌ったりしている。
夕方、日本語学校の帰りに僕たちは近所のショッピングモールに立ち寄った。
本屋のロット売り場へ行き、やり方を説明する。
「さあ、こうやって選んだ数字をぬりつぶせ」
ロットなんて買うのは何年ぶりだろう。15年ぶりぐらいか。
昔はチケットを握り締めワクワクしながらテレビを見たが、いつのまにかそれもなくなった。
機械が数字を選ぶオプションもできて、コンボ、パワーボールなど、どんどん複雑化していき、それと共に興味も失った。
たまには昔ながらに自分で数字を選んで買い、テレビでそれをチェックするのもいいだろう。
晩飯の後、土曜八時は全員集合ではなくロットの時間である。
40個のボールがガラガラ回っていて、その中から次々にボールが出てくる。
いつものことながら、自分の数字が選ばれない時には面白くない。
ワクワクする時間もあっという間に過ぎてしまう。
娘が握っていたチケットも、あっという間に紙くずになってしまった。
まあそんな簡単に億万長者にはなれないということだ。
これも経験。
寝る時間になって、深雪が甘えた声で聞いてきた。
「ねえねえ、今日お父さんと一緒に寝ていい?」
「なんだ、寂しくなったのか」
「うん。お願い。」
「しょうがねえな。いいよ。」
普段は一人で寝ているのだが、甘えが出たのだろう。
最近は色気づいてきて、髪を伸ばしたり爪に何やら塗ったりしているが、まだ子供だ。
そのうちにこっちが頼んでも嫌がるようになるだろうから、今のうちに娘と添い寝ができる幸せを味わわせてもらおう。
さて明日は日曜日、天気も良さそうだし、親子でブロークンリバーだ。
娘の寝顔を見ながら寝るとしよう。