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起業成功から一文無し「マネーの虎」どん底からの教訓

2016年08月23日 07時41分27秒 | 経済
年商100億円から一転、25億円の負債を抱え「どん底」生活に墜ちた「マネーの虎」。借金返済からV字回復を成し遂げた起業家が「どん底」で見たものとは?



ポケットに残ったのは5万6800円


『¥マネーの虎』(※)に出演していた頃は、会社の売り上げも100億円に届こうという時期で、株式上場も目前に控えていました。ところが2005年の春、英国MGローバーが経営破たんして、同社の輸入代理店だった弊社も25億円の特別損失を抱えることになったのです。

当時、会社の純資産は45億円ぐらいあったので、債務超過にはまだ20億円ほど余裕がありました。でも一方で銀行からの借り入れが35億円あり、その返済を迫られることになりました。


純資産といってもショールームや在庫のクルマの価値で、目の前に現金があるわけではありません。それらの資産が額面通りに売却できるはずもなく、資産を全部処分しても返済できるわけがない、再起なんて絶対無理だというのが大方の見方でした。なかには、処分できるものをさっさと現金化して、海外にトンズラしてしまえばいいと言う人もいましたよ。

僕自身、倒産や自己破産も考えましたが、結果的にはきちんと借金を返済して再起を図るという道を選びました。今考えると、根拠のない過剰な自信に満ちあふれていたとしか思えませんが、再起のためには銀行の債務から逃げ出すわけにはいかなかったのです。

それから借金返済の日々が始まるのですが、ローバーの破たん後も最初の半年ぐらいは何とかお金はまわっていました。全国のショールームや在庫のクルマを売却して返済にまわし、ほんとうにキャッシュアウトしたのが半年過ぎた頃のことでした。

もともと貯金も数十万円しかなく、その個人資産も会社の返済に全部当ててしまっていましたからね。今でも覚えているけれど、ATMに残っていた全額、5万6800円を引き出してポケットに入れて、それが無くなったら一文無しという状況でした。ほんの一瞬ですが、短期的には住むところもありませんでした。渋谷のカプセルホテルに泊まったり、公園で寝たりしたこともありました。


「どん底」が鍛えた精神力と決断力


はたから見たら「どん底」生活でしょうが、僕は鈍感なんですよ。すごい喪失感もあったと思うけれど、あまり記憶に残っていません。まあ、仕方ないよね、というぐらいの話だし、会社が破たんする前から、そんなに極端に華美な生活はしていませんでした。

上場準備に入ってからは、主幹事証券会社の勧めで月給250万円まで引き上げましたが、それまではずっと月給25万円でやってきていたのです。会社経費で落とせるものもありましたが、中の上ぐらいの生活です。クルマは3000万円ぐらいのメルセデス・ベンツでしたが、型落ちの在庫品を会社から引き取ったもの。六本木ヒルズに住んだ時期もありましたが、東京で家賃100万円のマンションなんて珍しくないでしょう。利便性などを考えたら、決して無駄な投資ではない。

成功した経営者のなかには、こういう状況に陥ったとき、生活レベルを落とすことに強い抵抗感がある人も多いと思います。ひとことで言えば見栄っぱりなのですが、僕にはそういうところがまったくありません。金持ちになると牛丼チェーン店に行かない人もいるけれど、僕は今でも平気。牛丼を前にして涙を流すのではなく、卵を1個付けて「今日は贅沢だなあ」とか思うタイプですから、当時もさして不満はありませんでした。

ただ、2年弱ぐらいかかって借金を返し終わったとき、サラリーマンになろうと思い、実際、バスの運転手の求人に応募したこともありました。疲れたんですよね。毎日すごく頭を使ってお金のやり繰りをして、月末には何度も胃が縮む思いをする。そんな時期を切り抜けたとき、一瞬、ストレスがないところに行きたいと思ったんです。

その半面、精神力が鍛えられましたね。石炭が熱と圧力をかけられてダイヤモンドになるように、短い期間だけれどギューッと圧縮されるような心のありようを経験したことで、物事に動じなくなりました。

その分、他人に対する許容範囲も広くなりましたし、勝負に出るときの度胸も決断力もつきました。


不足がなければ十分、必要なら稼げばいい


経営者にとってのお金には、個人のお金と会社のお金があります。僕は個人のお金には興味がない。部屋が余るような豪邸に住むのは無駄だと思うし、ダイヤモンドが欲しい、フェラーリが欲しいという贅沢にも興味がない。仕事で料亭や高級フレンチを使うこともあるけれど、自分1人で行く気はありません。それは以前もそうだし、今もそうです。

一方、会社のお金はビジネスを大きくしていくために、使えるだけ使う。最近も10億円ほど調達しましたが、それは必要なお金なんです。その代わりオフィスの調度類はタダでもらってきた中古品ですが、「節約」ではなく適切に配分しているだけ。動かせるお金をどこにどう使うかということが大事なんですね。

借金を返し終わって再スタートしたときも、最初はお金がなくてもできる商売から、知人の会社の一角を借りて人材派遣業を始めました。それからM&Aの仲介で1億円稼ぎ、そのお金を元手にレンタカー会社の買収、メディカルケア会社の買収と事業を拡大して一気にV字回復をしたわけです。

僕が思うに、お金は不足がなければそれでいい。何かやりたいことがあって、そのためにお金が不足しているなら、その分を稼げばいいんです。部屋の電気をこまめに消して節約しても年間たかだか数千円でしょう。それよりも僕ならば、所得を伸ばすことを考えます。

今のご時世、企業の中で仕事のスキルがきちんと評価される時代だから、仕事ができる人は今よりも給料が高い会社に転職すればいい。自分で事業を始めてもいいですね。僕の知り合いに、副業で観賞用のエビを増やしてネットで販売している商社マンがいます。年収2000万円ぐらいもらっている人ですが、副業のエビの売り上げが年収を超えたそうです。

僕が起業した30年前、事業を始めようと思ったら、まず電話番の事務員を雇わなければなりませんでした。FAXも1台200万円もした。その時代に比べたら今はめちゃくちゃ起業しやすい環境です。ネットと携帯電話があれば、すぐにでもビジネスが始められますし、創業資金融資制度もある。稼ぐ方法はいろいろあるんですよ。

※2001年10月~04年3月まで日本テレビで放送された番組。志願者の事業プレゼンを「マネーの虎」と呼ばれる起業家たちが判定。自腹での出資の可否を決定した。


プレジデントオンライン

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