9月のアリババのニューヨーク証券取引所におけるIPOが大成功に終わった。一人の男が十数年前、この会社に20億円程投資した。そして9月、その投資が4000倍の8兆円として戻ってきたのである。その男こそ、孫正義氏だ。
■3年ぐらい前の話だったアジア戦略
数年前、それはスプリントを買収する前辺りで「アジアを制するものは世界を制す」と言っていたのである。2011年辺りの決算資料をよく見て欲しい。アリババを中心に、中国の有料動画サイトであるPPLiveに投資したり、タオバオ、アリペイにも既に投資していた。元々アメリカの事情には詳しく、タイミングとしていけるかというのもあったのだと思われる。
その後、御存知の通り売りに出ていたスプリントを買収し一気に改革を進めていった。だが、実際には改革のスピードは日本ほど上手くは行っていない。数字にもそれは現れている。
本質的にはV字回復する予定だったスプリントも思うように回復しない。元々スプリントは官公庁を含めた法人向け需要が他の3社と比較して強い。日本で言えば日本テレコムの買収と似たようなものだった。携帯販売が思うように伸びないのはソフトバンクテレコム単体の財務状況を決算資料から読み解いても明らかである。
また、現地に行った方から聞いた話として、日本で言えば長野や東北の内陸部のような場所であり、のんびりとした田舎町がカンザス・シティという場所である。人間性も同様のようだ。地方で改革が進まないのは、やはり土地柄のせいというのも大いにあるが、シリコンバレー=アメリカと夢見て来た孫正義氏からしたら、絶望以外なかったのではないだろうか。
そういうこともあってか、シリコンバレーの拠点やホームパーティを行えるような豪邸を購入したり、ブライトスターの買収、Googleからニケシュ氏を副会長として三顧の礼にて迎え入れた。そして、ここでひとつの結論が出来たのだと思われた。アメリカを買うにはアメリカを知り尽くした人間が必要だと。
■2014年9月〜10月に掛けての投資一覧
アリババのIPO以後、どのように投資されたのかをニュースリリースから抜粋してみたいと思う。
10月3日
ソフトバンクとレジェンダリー、戦略的パートナーシップを締結 ソフトバンク、レジェンダリーへ2億5,000万米ドルを出資~レジェンダリーの持つ知的財産の価値を最大化、プレミアムコンテンツを世界展開するための合弁会社を設立~(ソフトバンク株式会社 ニュースリリース)
10月14日
ジーニーとソフトバンクグループのインターネット広告事業の提携について(ソフトバンク株式会社 ニュースリリース)
10月22日
SoftBank Internet and Media, Inc.とセコイア・キャピタルなど、インドネシア最大級のEコマースサイトを運営するトコペディアに総額1億米ドルを出資(ソフトバンク株式会社 ニュースリリース)
10月28日
SoftBank Internet and Media, Inc.
SoftBank Internet and Media, Inc.主導によるインド オラへの総額2億1,000万米ドルの出資について(ソフトバンク株式会社 ニュースリリース)
10月28日
SoftBank Internet and Media, Inc.
ソフトバンクグループ、6億2,700万米ドルをインド最大級のEコマースサイトを運営するスナップディールに出資(ソフトバンク株式会社 ニュースリリース)
10月28日
ソフトバンクがインドで1兆円投資へ、ネット通販などに出資(ロイター)
この1ヶ月で見えているだけで5社へ投資している。合計投資額は1300億円近く行っており内60%がインドネシアとインドである。アメリカで1社、日本で1社。こんなことができるのも、アリババの転換される優先株で5000億円ほどのキャッシュが手に入るからに他ならない。
そして、トドメの1兆円投資発言である。国内にあるモバイル設備への投資はほぼ終わったという判断だろう。スプリント側の設備投資も借り入れなどでまかなえるという判断なのだろう。
今、重要なのは東南アジア〜南アジアに掛けての新興国IT投資に乗り遅れないことである。
■東南アジア及び南アジアへの投資がこそ鍵
私も東南アジアや南アジアでのビジネス展開が鍵だと思っている一人である。その理由は、単純に総人口と、若年層人口比率が圧倒的に良いという部分にある。インドネシアを例に取ってみると、人口2億5000万人、60歳以上の老人人口が9%と極端に低い。34%以上の日本と比較すれば、どれほどかお分かりだろう。また、我々IT業界の人間にとって重要なインターネット人口比率が50%に届きそうなのである。
更に、教育に力を入れているという点も見逃せない。インドネシアの出版社1200社のうち教科書を作っているのは全体の31%、400社にも上る。それだけ学生の数が多いのだ。識字率の向上はインターネット人口を増やす手段として非常に重要だ。同様にバングラディシュという国も次のインドネシアとして注目されている。
ベトナムやタイと言った自動車メーカーや商事会社が投資してきた先もあるが、ITという点においてはシンガポールを中心とした経済圏およびインドを中心とした経済圏が今まさに活況なのだ。また、インドという国ではまだタイムマシン経営が通用するということもあり、日本のビジネスモデルを持ち込むこともできると、以前ベンチャーキャピタルから聞いたこともある。
■アジアを制するには一朝一夕では難しい
先日の孫正義氏が言い放った1兆円投資だけが先行しがちだ。しかし、そこに行き着くまでには、当然社員の力が必要だったと思う。現に私のソフトバンクグループ時代の知り合いが数年前からインドに赴任し現地を掘り起こしていた。そういう現場の力があってこその発言だと私は思っている。
急に見つかったから即投資というのは会って即断するという話であって、その前段階で見ているところは見ているのだ。ビジョンと結果を両方兼ね備えた人間への投資と考えたほうが良いだろう。ユン・マーしかり、ジェリー・ヤンしかり、今回のトコペディアのウィリアムしかりである。
社員だった頃、こんな冗談を言っていた時がある。
「アカデミアでなんか結局決まらなくって、きっとインドあたりで21歳ぐらいの若いやつ見つけてきて、そいつに社長やらせんじゃないの?」
本当にそんな未来がすぐそばに迫っていると思うと、経営者となった今ではワクワク感でいっぱいである。
次週11月4日(火)はFY14 Q2の決算発表だ。決算値よりも次の一手をどう説明するのか見ものである。
川合雅寛
■3年ぐらい前の話だったアジア戦略
数年前、それはスプリントを買収する前辺りで「アジアを制するものは世界を制す」と言っていたのである。2011年辺りの決算資料をよく見て欲しい。アリババを中心に、中国の有料動画サイトであるPPLiveに投資したり、タオバオ、アリペイにも既に投資していた。元々アメリカの事情には詳しく、タイミングとしていけるかというのもあったのだと思われる。
その後、御存知の通り売りに出ていたスプリントを買収し一気に改革を進めていった。だが、実際には改革のスピードは日本ほど上手くは行っていない。数字にもそれは現れている。
本質的にはV字回復する予定だったスプリントも思うように回復しない。元々スプリントは官公庁を含めた法人向け需要が他の3社と比較して強い。日本で言えば日本テレコムの買収と似たようなものだった。携帯販売が思うように伸びないのはソフトバンクテレコム単体の財務状況を決算資料から読み解いても明らかである。
また、現地に行った方から聞いた話として、日本で言えば長野や東北の内陸部のような場所であり、のんびりとした田舎町がカンザス・シティという場所である。人間性も同様のようだ。地方で改革が進まないのは、やはり土地柄のせいというのも大いにあるが、シリコンバレー=アメリカと夢見て来た孫正義氏からしたら、絶望以外なかったのではないだろうか。
そういうこともあってか、シリコンバレーの拠点やホームパーティを行えるような豪邸を購入したり、ブライトスターの買収、Googleからニケシュ氏を副会長として三顧の礼にて迎え入れた。そして、ここでひとつの結論が出来たのだと思われた。アメリカを買うにはアメリカを知り尽くした人間が必要だと。
■2014年9月〜10月に掛けての投資一覧
アリババのIPO以後、どのように投資されたのかをニュースリリースから抜粋してみたいと思う。
10月3日
ソフトバンクとレジェンダリー、戦略的パートナーシップを締結 ソフトバンク、レジェンダリーへ2億5,000万米ドルを出資~レジェンダリーの持つ知的財産の価値を最大化、プレミアムコンテンツを世界展開するための合弁会社を設立~(ソフトバンク株式会社 ニュースリリース)
10月14日
ジーニーとソフトバンクグループのインターネット広告事業の提携について(ソフトバンク株式会社 ニュースリリース)
10月22日
SoftBank Internet and Media, Inc.とセコイア・キャピタルなど、インドネシア最大級のEコマースサイトを運営するトコペディアに総額1億米ドルを出資(ソフトバンク株式会社 ニュースリリース)
10月28日
SoftBank Internet and Media, Inc.
SoftBank Internet and Media, Inc.主導によるインド オラへの総額2億1,000万米ドルの出資について(ソフトバンク株式会社 ニュースリリース)
10月28日
SoftBank Internet and Media, Inc.
ソフトバンクグループ、6億2,700万米ドルをインド最大級のEコマースサイトを運営するスナップディールに出資(ソフトバンク株式会社 ニュースリリース)
10月28日
ソフトバンクがインドで1兆円投資へ、ネット通販などに出資(ロイター)
この1ヶ月で見えているだけで5社へ投資している。合計投資額は1300億円近く行っており内60%がインドネシアとインドである。アメリカで1社、日本で1社。こんなことができるのも、アリババの転換される優先株で5000億円ほどのキャッシュが手に入るからに他ならない。
そして、トドメの1兆円投資発言である。国内にあるモバイル設備への投資はほぼ終わったという判断だろう。スプリント側の設備投資も借り入れなどでまかなえるという判断なのだろう。
今、重要なのは東南アジア〜南アジアに掛けての新興国IT投資に乗り遅れないことである。
■東南アジア及び南アジアへの投資がこそ鍵
私も東南アジアや南アジアでのビジネス展開が鍵だと思っている一人である。その理由は、単純に総人口と、若年層人口比率が圧倒的に良いという部分にある。インドネシアを例に取ってみると、人口2億5000万人、60歳以上の老人人口が9%と極端に低い。34%以上の日本と比較すれば、どれほどかお分かりだろう。また、我々IT業界の人間にとって重要なインターネット人口比率が50%に届きそうなのである。
更に、教育に力を入れているという点も見逃せない。インドネシアの出版社1200社のうち教科書を作っているのは全体の31%、400社にも上る。それだけ学生の数が多いのだ。識字率の向上はインターネット人口を増やす手段として非常に重要だ。同様にバングラディシュという国も次のインドネシアとして注目されている。
ベトナムやタイと言った自動車メーカーや商事会社が投資してきた先もあるが、ITという点においてはシンガポールを中心とした経済圏およびインドを中心とした経済圏が今まさに活況なのだ。また、インドという国ではまだタイムマシン経営が通用するということもあり、日本のビジネスモデルを持ち込むこともできると、以前ベンチャーキャピタルから聞いたこともある。
■アジアを制するには一朝一夕では難しい
先日の孫正義氏が言い放った1兆円投資だけが先行しがちだ。しかし、そこに行き着くまでには、当然社員の力が必要だったと思う。現に私のソフトバンクグループ時代の知り合いが数年前からインドに赴任し現地を掘り起こしていた。そういう現場の力があってこその発言だと私は思っている。
急に見つかったから即投資というのは会って即断するという話であって、その前段階で見ているところは見ているのだ。ビジョンと結果を両方兼ね備えた人間への投資と考えたほうが良いだろう。ユン・マーしかり、ジェリー・ヤンしかり、今回のトコペディアのウィリアムしかりである。
社員だった頃、こんな冗談を言っていた時がある。
「アカデミアでなんか結局決まらなくって、きっとインドあたりで21歳ぐらいの若いやつ見つけてきて、そいつに社長やらせんじゃないの?」
本当にそんな未来がすぐそばに迫っていると思うと、経営者となった今ではワクワク感でいっぱいである。
次週11月4日(火)はFY14 Q2の決算発表だ。決算値よりも次の一手をどう説明するのか見ものである。
川合雅寛