28日の金融市場は、外国為替市場のドル高・円安が加速し、円相場は約12年半ぶりの水準となる1ドル=124円30銭台まで下落、日経平均株価は10営業日続伸した。外為市場はドル独歩高の側面が強く、当面は米利上げ観測を背景に現状程度の水準で推移するとの見方が強い。日本の輸出企業には追い風で、株価上昇の原動力になっているが、さらなるドル高は、世界経済のけん引役である米国の景気に冷水を浴びせることにもなりかねず、市場は先行きを注視している。
今回の円安を加速させたのは、いったんは遠ざかったとみられた米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ観測だ。FRBのイエレン議長が先週末、雇用関係の経済指標の改善などを受け、「年内の利上げが適切」と発言。4月の消費者物価指数が約2年ぶりに高い伸びを示すなど、経済指標も好調に推移しており、「FRBは9月にも利上げを行う」との観測が市場で広がった。
景気回復に向かう米国が金融緩和の「出口」を模索するのに対し、日本や欧州はいまだ足踏み状態だ。日本は消費者物価指数の上昇率が0%近傍にとどまり、超低金利が続く。欧州はギリシャ債務問題も抱える。このため、金利上昇が見込まれるドルを買い、超低金利の円やユーロを売る動きが強まった。米国の利上げ観測が背景にある以上、外為市場では当面、ドル高基調が続くとの見方が強い。
ただ、金融市場には、過度なドル高への警戒感も強い。米国ではドル高が輸出産業の業績を圧迫、製造業の雇用者数は伸び悩んでいる。ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストは「ドル高がさらに進展すれば、議会を中心にドル高是正を求める声が強まり、ドル高の流れは止まる」と指摘、米議会などの動向がドルの上値を抑えると見る。三井住友アセットマネジメントの石山仁チーフストラテジストも「1ドル=130円台に近づけばドルの割高感が強まり、円を買い戻す動きが出てくるだろう」と述べた。
過度なドル高が進めば、新興国などでドル建ての輸入価格が上昇して消費を下押ししたり、ドル建て債務の返済負担が重くなったりして、世界経済を減速させかねない。野村証券の桑原真樹シニアエコノミストは「今のドル高は米国の景気が堅調だからこそ。ドル高が行き過ぎると、その米国の景気を下押ししかねない」と指摘する。世界経済の減速懸念が強まるなどすれば、再びドルが弱含む局面も予想される。【中井正裕】
◇
米連邦準備制度理事会(FRB)による年内利上げ観測を背景にした今回のドル高。ドルの独歩高は米経済の回復には足かせになるが、自らの政策運営に伴うものだけに、米政府は対応に苦慮しそうだ。
FRBのイエレン議長は、世界経済の弱さやそれに伴うドル高を、米経済の「逆風の一つ」として警戒する考えを示すが、為替政策を所管するルー財務長官は沈黙を守っている。仮に、ルー長官がドル高をけん制する発言をすれば、結局はその起点となるFRBの利上げをけん制したとして、「米当局の足並みが乱れた」と受け止められかねない。市場でも「米財務省は急速な為替変動をけん制することはできても、為替水準そのものは問題視しにくい」(邦銀)との見方が強く、ドル高を是正したくてもできない“自縄自縛”の状態にある。
ただ、ドル高による雇用減少を懸念する米議会は、いらだちを強めそうだ。休会が明ける6月には、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉合意に不可欠な大統領貿易促進権限(TPA)法案の下院審議が始まる見通しだ。労働組合を支持基盤とする民主党内には、為替操作に対する対抗措置を法案に盛り込み、交渉参加国を警戒させることで、交渉を失敗に導くことを目指す勢力もある。審議の遅れが続くTPA法案には、一層の逆風になる可能性がある。【ワシントン清水憲司】
今回の円安を加速させたのは、いったんは遠ざかったとみられた米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ観測だ。FRBのイエレン議長が先週末、雇用関係の経済指標の改善などを受け、「年内の利上げが適切」と発言。4月の消費者物価指数が約2年ぶりに高い伸びを示すなど、経済指標も好調に推移しており、「FRBは9月にも利上げを行う」との観測が市場で広がった。
景気回復に向かう米国が金融緩和の「出口」を模索するのに対し、日本や欧州はいまだ足踏み状態だ。日本は消費者物価指数の上昇率が0%近傍にとどまり、超低金利が続く。欧州はギリシャ債務問題も抱える。このため、金利上昇が見込まれるドルを買い、超低金利の円やユーロを売る動きが強まった。米国の利上げ観測が背景にある以上、外為市場では当面、ドル高基調が続くとの見方が強い。
ただ、金融市場には、過度なドル高への警戒感も強い。米国ではドル高が輸出産業の業績を圧迫、製造業の雇用者数は伸び悩んでいる。ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストは「ドル高がさらに進展すれば、議会を中心にドル高是正を求める声が強まり、ドル高の流れは止まる」と指摘、米議会などの動向がドルの上値を抑えると見る。三井住友アセットマネジメントの石山仁チーフストラテジストも「1ドル=130円台に近づけばドルの割高感が強まり、円を買い戻す動きが出てくるだろう」と述べた。
過度なドル高が進めば、新興国などでドル建ての輸入価格が上昇して消費を下押ししたり、ドル建て債務の返済負担が重くなったりして、世界経済を減速させかねない。野村証券の桑原真樹シニアエコノミストは「今のドル高は米国の景気が堅調だからこそ。ドル高が行き過ぎると、その米国の景気を下押ししかねない」と指摘する。世界経済の減速懸念が強まるなどすれば、再びドルが弱含む局面も予想される。【中井正裕】
◇
米連邦準備制度理事会(FRB)による年内利上げ観測を背景にした今回のドル高。ドルの独歩高は米経済の回復には足かせになるが、自らの政策運営に伴うものだけに、米政府は対応に苦慮しそうだ。
FRBのイエレン議長は、世界経済の弱さやそれに伴うドル高を、米経済の「逆風の一つ」として警戒する考えを示すが、為替政策を所管するルー財務長官は沈黙を守っている。仮に、ルー長官がドル高をけん制する発言をすれば、結局はその起点となるFRBの利上げをけん制したとして、「米当局の足並みが乱れた」と受け止められかねない。市場でも「米財務省は急速な為替変動をけん制することはできても、為替水準そのものは問題視しにくい」(邦銀)との見方が強く、ドル高を是正したくてもできない“自縄自縛”の状態にある。
ただ、ドル高による雇用減少を懸念する米議会は、いらだちを強めそうだ。休会が明ける6月には、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉合意に不可欠な大統領貿易促進権限(TPA)法案の下院審議が始まる見通しだ。労働組合を支持基盤とする民主党内には、為替操作に対する対抗措置を法案に盛り込み、交渉参加国を警戒させることで、交渉を失敗に導くことを目指す勢力もある。審議の遅れが続くTPA法案には、一層の逆風になる可能性がある。【ワシントン清水憲司】