お役立ち情報ブログ

日々の生活やビジネスにおいて役に立ちそうな情報を収集、公開しています。

池上彰 バブルの崩壊で格差は拡大した。「一億総中流」が過去のものとなった日本は世界で唯一、成功した「社会主義国」だったのか?

2023年09月14日 06時33分42秒 | 行政
「第二次世界大戦後の現代史は歴史的価値が定まっていないことが多いためか、学校で学ぶ機会が少ない」と話すのがジャーナリストの池上彰さん。その池上さんいわく「バブル崩壊後に格差が拡大し、『一億総中流』の意識も過去のものとなった」そうで――。政治、経済、外交、安全保障、エネルギー……。授業では教えてくれない現代史を池上さんが解説します。

日本は「世界で唯一、成功した社会主義国」?

高度経済成長で豊かになった日本は「世界で唯一、成功した社会主義国」と皮肉をこめて呼ばれることがあります。

これはもともと旧ソ連のゴルバチョフ書記長の言葉です。大統領制を作って自ら大統領になったので、ゴルバチョフ大統領とも呼ばれます。そのままソ連が崩壊してしまったので、最初にして最後のソ連大統領でした。

ゴルバチョフはソ連共産党のトップとしてソ連の停滞に危機感を抱いていました。

1917年にロシア革命が起こり、5年後にソ連が成立しました。70年近く社会主義を続けてきたものの経済は停滞するばかり。

そこで、1986年に立て直し(ペレストロイカ)を掲げ、その柱として情報公開(グラスノスチ)を進めました。ゴルバチョフは国民にソ連の実態を知らせることで奮起を促そうとしたのでしょう。

ソ連の崩壊

しかしソ連国民は「こんなにひどかったのか。我々は騙されていた!」とやる気を失い、働かずにウォッカを飲んでばかり。それでも全員公務員ですからクビになることはありません。

ウォッカの値段を上げたり、販売を制限したりしたことでゴルバチョフの人気は地に落ち、結果としてソ連は崩壊します。

 
 

ゴルバチョフは東西冷戦を終わらせた立役者として西側では高く評価され、ノーベル平和賞を受賞していますが、ロシア人にとっては国を崩壊させた張本人であり、国内での評判はよくありません。

2022年にゴルバチョフが死去した時、日本を含む西側では大きなニュースになりましたが、ロシア国内ではきわめて冷ややかに扱われていました。

「ノルマ」という言葉はロシア語

ゴルバチョフが変えようとしたかつてのソ連は社会主義国を標榜していました。社会主義では国が経済の計画を立て、コントロールします。

たとえば5カ年計画を立て、1年間に全国で生産すべき自動車の台数を決め、それぞれの労働者にノルマを割り当てます。ちなみに現在も使われている「ノルマ」という言葉はロシア語です。労働者は決められた自動車だけを作っていれば給料が保証されました。

国がすべて決めるので、自動車の性能を上げようとか、作業を効率化しようとか考える必要はありません。サボってもクビになるわけではありませんが、頑張っても頑張らなくても給料は変わりません。みんなが平等に働いて、平等に給料をもらえるのです。

みんなが平等というと一見、美しい社会に思えますが、こうした環境では働くモチベーションが上がらず、経済は発展しません。

実際、社会主義計画経済で発展した国は人類史上ひとつもありません。

「一億総中流」の意識はもはや過去のもの

平等になるどころか、権力が集中する共産党幹部がぜいたくな暮らしをするようになり、格差が固定化。労働者は同一賃金であるためやる気をなくし、経済は低迷しました。

一方、日本は資本主義国なのに、社会主義国のように5カ年計画を立てて経済活動を行なってきました。国の規制が強く、自由競争とは言えないという意味でも多分に社会主義的です。

こうした状態でも労働者は夜遅くまで喜んで働き、経済発展を実現することができました。そして、ほとんどの人が「自分は中流」だと意識できるような平等で豊かな社会を作り上げることができたのです。

ソ連が失敗した社会主義が日本で成功をおさめている。この状態をゴルバチョフは「成功した社会主義国」と皮肉ったのです。

もっとも、日本経済もバブル崩壊後はふるいません。格差が拡大し、「一億総中流」の意識も過去のものとなりました。

一時的には「成功した社会主義国」に思えましたが、最終的にはこちらも崩壊したと言えるかもしれません。

※本稿は、『池上彰の日本現代史集中講義』(祥伝社)の一部を再編集したものです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

史上最高の71兆円税収も庶民の税負担増加 余剰金は防衛費に回す理不尽な現実に気づくべき 古賀茂明

2023年07月04日 07時46分54秒 | 行政
古賀茂明氏
古賀茂明氏© AERA dot. 提供

 2022年度の税収が史上最高を更新し、71兆円台に達した。このニュースを誰よりも喜んでいるのは、自民党の保守派議員だ。

 税収が増えることは、日本の財政にとって好ましい。しかし、仮に税収が71兆円に達したとしても、一般会計の予算額は139兆円。大赤字であることに変わりはない。

 ところが、自民党の中には、税収が予想以上に増えた分は余り金だと勘違いしている愚かな議員がかなりいるようだ。ふざけるなという気持ちになる。

 本来は、税収が増えたら、将来に備えて少しでも借金を減らそうと考えるのが普通だ。しかし、この国の権力者たちは、これを自分たちの好きなことに使ってしまおうと考える。ここでいう「好きなこと」とは、戦争の準備だ。そのために、財政上の剰余金が出たら、どれだけ赤字が嵩んでいようとも、何よりも優先して軍拡予算に充当できるという法律を先の国会で通した。

 一方、税収がなぜ増えたのかを見ると理不尽なことが起きていることに気づく。

 まず、私たち労働者が汗水垂らして受け取る給料などにかかる所得税が21年度の21兆円台から22兆円台に増えるというが、我々がよく目にする報道では、実質賃金はずっとマイナス傾向で、昨年度は1.8%減ったのではなかったのか。資源高とアベノミクスがもたらした異常な円安による物価高のせいで生活は確実に苦しくなっている。それなのに、所得税は増えているのだ。

 これは、賃金が名目で増えているためだが、ここにはからくりがある。それは所得が増えた以上に所得税が増えるという仕組みだ。所得税の税率は一律ではない。所得が増えると税率が上がる累進性をとっている。そこで、名目賃金が上がると所得別の税率の区分が上がって、全体として今まで以上の高い税率で税金を取られるのだ。これを「インフレ税」と呼ぶこともある。昔はそういう議論がよくなされていたが、デフレが長く続いたため、忘れられていた。

 実質賃金が下がっているのに税率が上がるのはどう考えてもおかしい。本来は、物価上昇したのに合わせて、税率区分の境界となる金額をその分引き上げて、実質賃金が増えない限り税率が増えないようにすべきなのだが、そういう議論にならない。

 

 ちなみに、富裕層が得る配当などの金融所得の税率は分離課税にすれば一律なので、配当が増えても税率は上がらないように手当されている。富裕層に有利な仕組みなのだ。

 

 次に消費要因である。

 ここで問題になるのは、庶民ほど消費に占める割合が高い食品やエネルギー価格が急激に上がったことで、やはり庶民直撃の消費増税の効果が生じていることだ。ここでも「インフレ税」がかかっているのだ。

 一方、法人税も13兆円台から14兆円台に増加する。企業の経常利益は製造業も非製造業も史上最高だった。物価高で苦しむ企業も多いが、資源高でボロ儲けした商社やエネルギー関連企業、円安でウハウハだったトヨタなどの輸出企業は、何もしないのに利益が出た。生活苦に喘ぐ庶民とは好対照である。

 海外では、こうした棚ぼた的利益を上げた企業に対して臨時の課税(「棚ぼた税」「ウィンドフォール課税」などと呼ばれる)を実施し、弱者対策の財源に充てることが普通に行われるが、日本では、そうした議論はほとんど出ない。

 アメリカで大富豪たちが、富裕層に増税をと自ら提言を出したことが話題になったが、地位の高いものにはそれに応じた社会的責任があるという「ノブレス・オブリージュ」の考え方があるからだろう。日本にも昔はそうした考え方はあったと思うが、安倍政権以降は、それとは正反対に、権力者は「自分のために」何でもできるという文化が定着し、経済人もそれに倣うようになってしまったようだ。

 ところで、そんな議論を嘲笑うかのように、岸田政権は、あれだけ儲かっているトヨタ向けに、1200億円もの巨額補助金を支払うことを発表した。しかも、その目的が、車載用電池の開発だというのだから2度驚いた。

 トヨタが水素自動車に固執して、それに媚びた経産省と自民党が電気自動車(EV)の普及を遅らせたのは周知の事実。世界中でEV化競争が激化し、各国では車載用電池への投資が進んだが、日本ではほとんどEV生産がされていないので、電池産業には需要がない。ダントツのシェアを誇ったパナソニックは、あっという間に中国と韓国勢に抜かれて、今やシェア一桁という惨状だが、トヨタはその責任を問われてもおかしくない。ましてや、円安でボロ儲けし、毎年2兆円を超える利益を出しているのだから、責任を感じて、補助金をくれると言われても辞退するのが筋だろう。

 政府も、トヨタにそんな金を出すくらいなら、その分を貧困対策に充てたらどうかと思うのだが、やはり、岸田政権には、そういうマインドは一切ないようだ。

 大赤字を垂れ流しながら、少し税収が上振れしたからといって、それを戦争準備に使おうとする自民党。その間も政府の借金は増え続け、泥沼の異次元金融緩和からの出口が見つけられず、ジリジリと進む円安を止めることもできない政府・日銀。

 前財務次官の矢野康治氏は、月刊「文藝春秋」(21年11月号)への寄稿の中で、今の日本の状況を喩えて、「タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものです」「日本は債務の山の存在にはずいぶん前から気づいています。ただ、霧に包まれているせいで、いつ目の前に現れるかがわからない。そのため衝突を回避しようとする緊張感が緩んでいるのです」と書いた。

 ここでいう「霧」とは、日本総研の河村小百合氏が言うとおり「黒田日銀が展開してきた異次元緩和のこと」(『日本銀行 我が国に迫る危機』講談社現代新書)かもしれないが、史上最高の税収は、さらにその霧を濃くしているようだ。不都合な真実がますます霞み、その先に待つのは……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

庶民は気づかず支払わされている「インフレ税」の悪質…国の税収大幅増で初の70兆円超え

2023年07月01日 08時33分32秒 | 行政
7月からも値上げが続々(C)日刊ゲンダイ
7月からも値上げが続々(C)日刊ゲンダイ© 日刊ゲンダイDIGITAL

2022年度の国の一般会計税収が71兆円台になり、3年連続で過去最高を更新するという。29日の新聞各紙が報じた。

税収が70兆円を超えるのは初めてで、前年度の67兆379億円より約4兆円も増える見込みだ。消費税と所得税、法人税の「基幹3税」がいずれも増加。政府は22年度の税収を68.3兆円と想定していたが、大きく上振れする。

大幅な税収増の要因については、コロナ禍からの業績回復や個人消費の伸びなどと説明されているが、本当だろうか。株価が上昇しても、庶民には好景気の実感はまったくない。実質賃金が減り続け、この物価高で財布のヒモは固くなる一方だ。

「その物価高こそが税収増の大きな理由です。食料品の値段が20%上がれば、支払う消費税も自動的に20%増える。いわゆる“インフレ税”で、物価高によって家計の負担は二重に増えるのです。税率を上げれば国民の怒りを買いますが、インフレ税なら税率はそのままで、国民が気づかないうちに徴税額が増えている。円安による物価高とインフレ税で、個人の負担増はかなり大きくなっています」(経済評論家・斎藤満氏)

 

個人の資産を政府に移転

インフレ税は食料品や電気、ガソリンなどの生活必需品に漏れなくかかってくるため避けられない。所得が増えない中、見えない形の“ステルス増税”を強いられているようなものだ。

大企業で過去最高益が続出したことは法人税収の増加につながったが、これにも円安が大きく寄与している。

「円安によって、海外の所得や資産を日本国内に移す際に円ベースの利益が膨らみます。名目の収入が増えれば収める税金も多くなる。景気が良くなって税収が増えたのではなく、円安、物価高、インフレで水膨れしているのです。普通はインフレなら金利が上がりますが、今は日銀が金利を低く抑えてくれているわけで、財務当局にとっては最高の状況です。名目の税収増のために政府・日銀が円安を放置している疑いさえある。インフレ税は、個人の資産を企業や政府に移転する効果があるため、家計に厳しい重税と言えます」(斎藤満氏)

税収の上振れにより、自民党内ではさっそく「24年以降」としていた防衛費増額に伴う増税時期の先送りを求める声が高まっている。だが、国民はすでにインフレ税の形で負担増を強いられているわけで、見せかけの増税先送りは選挙目当てがミエミエ。子供だましもいいところだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

保険料「未払い」が続出し、日本の保険制度は崩壊へ…「マイナ保険証」の恐ろしすぎる悪影響 荻原 博子 によるストーリー

2023年05月01日 07時29分03秒 | 行政

政府が導入を進めている「マイナ保険証」。しかしあまりにも現実を無視したその仕組みに、医療・介護の現場から反対する声が上がっているのは前編記事『「マイナ保険証」が原因で、5年後に「無保険難民」が増えるかもしれない理由』でお伝えした通りです。

ところが、問題点はまだそれだけではありません。将来的に、日本の国民皆保険制度が崩壊してしまうかもしれないのです。

5年後に無保険者が急増!?

グラフを見ていただくとわかるように、「マイナンバーカード」の加入者が急激に増えて山となっているのは、2022年9月末、2022年12月末、2023年2月末の3回です。

デジタル庁の政策データダッシュボードより
デジタル庁の政策データダッシュボードより© 現代ビジネス

「マイナンバーカード」のポイント付与第二弾の締め切りは、当初は2022年9月末でしたが、これが2022年12月末に延期され、さらに2023年2月末に延期されました。そのたびに駆け込みで多くの方が申し込み、この山ができました。2月末の最終申し込みでは、大量の駆け込み申請が殺到し、自治体の窓口で5時間も待ったという人も出ました。

「マイナポイント第二弾」は、「マイナンバーカード」の作成で5000円、「マイナ保険証」作成で7500円、金融機関への紐付けで7500円分のポイントがつくキャンペーンだったので、ここで大勢の人が「マイナ保険証」も一緒に申し込んでいるのです。

この人たちが、5年後の同じ時期に一斉に「マイナ保険証」の更新期限を迎え、自治体の窓口に殺到するのですから、そこでどれほどの混雑状態になるかは、火を見るより明らかです。

しかも、駆け込みで申し込んだ人の中には、「マイナ保険証」の必要性や有用性を感じたというよりも、2万円のポイントにつられて申請している人も少なくないでしょう。中には、5年後に更新する必要があると知らなかったり、暗証番号を忘れてしまったりする人が出ることも考えられます。覚えていたとしても、何時間も役所の窓口で待たされた苦い経験を覚えている人が多いことが予想されます。

そうなると、各種暗証番号を忘れて更新できない人や、長時間並ぶのが面倒だから更新しないという人が少なからず出てくる可能性があるでしょう。

そうなると何が起こるのかと言えば、すでに「健康保険証」が廃止されていますから、「無保険」になる人が続出してしまうのです。

 

「公的保険離れ」が進むかもしれない

日本は国民皆保険なので、基本的には誰もが何らかの健康保険に加入しているはずですが、実は、無保険者も存在します。厚生労働省のデータでは、国民健康保険の保険料を払えずに滞納している世帯が約245万世帯、滞納率は13.7%です。このうち3割の世帯は、滞納を理由に保険証を取り上げられています。

滞納理由の一つは、国保の健康保険料が高すぎること。国保の保険料は、単身者で年収200万円なら年間約17万円、年収300万円なら約25万円、年収400万円なら約34万円。しかも、自分から納めなくてはいけない仕組みになっています。

現在は、健康保険組合などに「健康保険証」の発行・送付が義務付けられているので、保険証を手元で受け取るために、保険料が高くても保険料を支払わなくてはならないと考えている人も多いはず。

 
photo by gettyimages
photo by gettyimages© 現代ビジネス

ところが、「マイナ保険証」は、本人が申請しない限り交付されないものですから、面倒で保険証を更新しないままだと、わざわざ高い保険料を支払いに行く気もなくなるでしょう。

もちろん、そうなれば自動的に「保険」に入っていない状態になるのですが、収入が低い人の中には申請をしない人がかなり出ることが予想されます。特に若者層では、「病気になりそうもないから保険料は払わない」という人も出てくるかもしれません。

実際、若い人の中には何年も病院にかかったことがない人もいるでしょうから、結果的に保険が必要なかったと考える人が出ても不思議ではありません。問題は、こうした人が増えることで、「無保険でも大丈夫」という空気が拡散されていく恐れがあることです。

 

75歳以上が「保険難民」になる

国民皆保険制度から脱落していく可能性が高いのは、若者だけでなく高齢者も同じです。5年後の2028年には、日本は高齢化のピークを迎えます。1995年には、75歳以上が718万人でしたが、2025年には約3倍の2180万人になります。

75歳以上の多くは、介護施設に入居するということになるのでしょうが、全員が入所するのは難しいため、厚生労働省は自宅での介護を推奨しています。その場合、本人がマイナンバーカードを管理しなければいけません。

 

カードを紛失したり、各種暗証番号などがわからず更新できないと、再発行や、番号の再交付など手続きが必要であり、そうしたしわ寄せが来るのは同居している家族です。

さらに厄介なことに、家族がいない「おひとりさま」の高齢者も急増することが予想されています。東京都だけでも、現時点で75歳以上の単身高齢者が50万人以上いますが、こうした人たちがスムーズに「マイナンバーカード」を更新できるとは考えられません。無保険になる人が多数出てきても不思議ではないでしょう。

高齢者への影響を調査した全国保険医団体連合会の住江憲勇会長は「いざというときには直ちに医療を受けなければならない。申請漏れなどで無保険者をつくってしまうことは、皆保険制度のもとであってはならない」と訴えます。しかし、こうした現場の声を無視したまま、自民党の数の力で法案が通れば、国民皆保険から脱落して行く高齢者は、どんどん増えて行くことでしょう。

 
photo by gettyimages
photo by gettyimages© 現代ビジネス

しかも、こうして無保険者が増えてしまうことは、無保険になる本人だけではなく、きちんと保険料を納めている人にとっても、困った事態を引き起こすのです。

若者から老人まで、多くの人が国民皆保険から脱落していけば、残った人で保険を支えていかなくてはなりません。支え手の減少が保険料のさらなる値上げを招くことは明らか。しかも、こうして保険料が上がれば、「保険料が高い」→「保険から脱落する人が増加」→「さらに保険料が上がる」という負の連鎖が続き、最終的に待っているのは、保険制度自体の崩壊なのです。

 

シンガポールで首相の医療情報がハッキングされた

こうした手続き上の不安に加えて、さらに危惧されるのは、情報のハッキングの問題です。

日本のように、医療情報を一元化して国が管理しようとする国は多くありますが、こうしたところほどハッカーに狙われる恐れがあると言われています。

なぜなら、個人の医療データは、闇市場では高値で売買されるからです。

2018年、医療大国のシンガポールが大規模なサイバー攻撃を受け、リー・シェンロン首相をはじめ約150万人の医療情報が流出。首相がどんな薬を飲んでいるかという情報まで、ハッカーに盗まれたことがありました。首相の健康状態がもれることは安全保障上の大問題です。

 
シンガポールのリー・シェンロン首相[Photo by gettyimages]
シンガポールのリー・シェンロン首相[Photo by gettyimages]© 現代ビジネス

シンガポールは、2014年から、情報通信技術(ICT)を活用し保健省管轄下で公営医療グループ・シングヘルスが医療情報基盤を構築してきましたが、医療情報が中央集権化されていたために、これが裏目に出たのです

 

日本にもハッキングの脅威が

日本も下記のような構想で、将来的には「医療情報の中央集権化」を進めていますが、もしこれがハッキングされたら、事態はシンガポールよりも深刻になりそうです。

 
保険料「未払い」が続出し、日本の保険制度は崩壊へ…「マイナ保険証」の恐ろしすぎる悪影響
保険料「未払い」が続出し、日本の保険制度は崩壊へ…「マイナ保険証」の恐ろしすぎる悪影響© 現代ビジネス

なぜなら、日本は医療情報に限らず、印鑑証明や運転免許証の情報まで「マイナンバーカード」で管理し、その全ての情報を「マイナポータル」を通じてWeb上で見られるように進めているからです。

こうした意見に対し、「マイナンバー」は、「一ヶ所にまとめて保管されておらず、民間活用も禁じられているので、情報漏れの心配はない」と反論されるかもしれません。国もそう言っています。

確かに、「マイナンバー」は分散管理されていますが、「マイナンバーカード」は、これとは別物と考えたほうがいいでしょう。

 

民間利用が可能な理由

「マイナンバー」と「マイナンバーカード」は別物だということは、デジタル庁の下記のQ&Aを見ると、よくわかると思います(https://www.digital.go.jp/policies/mynumber_faq_07/)。

Q7-3 マイナンバーの民間活用は法律改正が必要ですが、なぜ、マイナンバーカードは民間利用が可能なのですか。

A7-3

マイナンバーカードの有効活用の手段として、ICチップに標準搭載される電子証明書の活用と、ICチップの空き領域のアプリの活用がありますが、いずれもマイナンバーそのものを使わない方法であることから、法律改正は不要です。マイナンバーカードについては、マイナンバーそのものは使わずに、例えば、

1.オンラインバンキングをはじめ、各種の民間オンライン取り引での利用

2.医療保険のオンライン資格確認を行うことによる健康保険証としての機能

3.クレジットカード、キャッシュカードとしての利用についても検討

以上のような民間活用策が検討されています。(2016年2月回答)

具体的には、厚生労働省の下記の図を見るとわかります。

 
令和5年2月24日「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」中間とりまとめ資料より
令和5年2月24日「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」中間とりまとめ資料より© 現代ビジネス

「マイナンバーカード」の裏面には、数字のマイナンバーだけでなく、ICチップ内のAP(アクセスポイント)があり、「電子証明書」「空き領域」「その他(券面情報等)」につながるようになっています。

 

ハッカーの標的になりうる!

つまり、「マイナンバー」があるだけでは単なる顔つき証明書にしかなりませんが、ICチップを搭載していることで、様々なところにアクセできるようになっているということ。しかも、「マイナンバー」は民間利用を法律で禁じていますが、ICチップの部分は、「マイナンバー」そのものを使わないので「民間も含めて幅広い利用が可能」なのです。

そして、この民間利用を誰が許可するかといえば、行政機関のほか、内閣総理大臣及び総務大臣。空き領域についても同じです。

つまり、「マイナンバーカード」は医療情報に限らず、あらゆる個人情報を集めることができ、政府が管理する「情報の中央集権化」が可能なツールに他ならないのです。

ですから、これをハッキングされたら、ひとたまりもありません。

そうならないことを願うのみですが、日本の数歩先をいっていると言われるIT大国のシンガポールでさえ、先述の通りハッカーの餌食になっているというのが現状。最も情報流出を起こしてはいけないデジタル庁から情報が漏れるようなガードの甘いこの国のシステムを考えると、ハッカーに狙われないはずはないでしょう。

いかがでしょうか。無保険者があふれ、個人情報がダダ漏れになるなどということは、あってはならない未来です。そうした悪夢のような未来を子供たちに残さないためにも、拙速な「マイナ保険証」の義務化、「健康保険証」の廃止は、踏みとどまるべきでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2万円分の「マイナポイント」に釣られて「マイナ保険証」を作った人が抱えている「恐ろしいリスク」

2023年04月26日 06時36分22秒 | 行政

患者の情報がダダ漏れに…?

「マイナンバーカード」を持つことは、法律上は「任意」ですが、将来的に健康保険証が廃止され「マイナ保険証」に一本化されるので、実質的には全員が持たなくてはいけない「強制」となっているという話は、前回『8割の日本人が気づいていない「マイナ保険証」の恐ろしすぎる「落とし穴」』で書きました。

しかも政府は、2023年3月末までには「ほぼ全国民がマイナンバーカードを取得する」という目標を掲げ、「マイナポイント」をばら巻いてきました。言葉では「取得する」としていますが、現実には「取得させる」と言った方が適切かも知れません。

しかも、そのために使われた税金は、これまでに約3兆円。国民1人あたり3万円、4人家族なら12万円ですから、ポイントを2万円分もらったからといってまったく喜べません。

ただ、こんな税金の大盤振る舞いをしたにもかかわらず、いまだに「マイナンバーカード」を作っていない人が4人に1人もいるのが現実です。

これは、なぜなのでしょうか?

図は、デジタル庁が「マイナンバーカード」を取得していない人に対して、その理由を聞いたものです。カードを取得しない最も大きな理由は「情報流出が怖いから」で、「申請方法が面倒だから」「メリットを感じないから」がこれに続きます。

 
2万円分の「マイナポイント」に釣られて「マイナ保険証」を作った人が抱えている「恐ろしいリスク」
2万円分の「マイナポイント」に釣られて「マイナ保険証」を作った人が抱えている「恐ろしいリスク」© 現代ビジネス

カード未取得の人を対象に行った他のアンケート結果を見ても、ほぼ毎回この3つが主な持たない理由で、中でも最も多いのが「情報流出が怖いから」でした。

「情報流出が怖いから」と感じる背景には、2つ側面があると考えられます。

1つは、政府の情報管理に対する不安感。そしてもう1つは、預けた情報が、どう使われるかわからないという不信感です。

政府の情報管理に対する不安感は、2007年に5000万件もの年金情報が持ち主不明になっていると発覚した「年金記録問題」で決定的になっています。当時首相だった故安倍晋三氏は、事件発覚後に「最後のお一人に至るまですべての記録をチェックする」と断言しましたが、調査を途中で打ち切り、総理を辞めてからは一言もこの話には触れず、いまだ2000万件の年金が持ち主不明のままになっています。

 
 

しかも、年金に限らずそこかしこで政府の情報はダダ漏れ。徹底的な情報管理がなされなくてはならない河野太郎大臣のお膝元のデジタル庁が運用する企業向けサービス「GビズID」でさえ、2022年に個人情報漏れを起こしている始末です。

これでは、大切な個人情報を政府に預けるのが怖いと思うのは当然でしょう。

 
河野太郎デジタル担当大臣[Photo by gettyimages]
河野太郎デジタル担当大臣[Photo by gettyimages]© 現代ビジネス

日弁連も異議を唱えた

さらに、預けた情報がどう使われるかわからないという不信感は、特に「マイナンバーカード」や「マイナ保険証」では顕著になっています。

加えて3月7日の閣議では、国民の不安感を煽るような決定が行われました。それまで法律で社会保障・税・災害対策の三分野に限定されていたマイナンバーの利用範囲を、国家資格の手続きや自動車に関する登録など法律の規定に「準ずる事務」まで広げると閣議決定し、政府の解釈次第でマイナンバーの利用範囲が拡大できる道筋を開いたのです。

これに対して日本弁護士連合会(日弁連)が、「利用分野・事務を拡大すれば、より広範な個人情報が番号にひも付けられた上、漏れなく・他人の情報と紛れることなく名寄せされデータマッチング(プロファイリング)されてしまう危険性が高まる」として、マイナンバー利用促進の法改正の再検討を求める会長声明を出しました。

さらに日弁連は、「法改正に対する事前のプライバシー影響評価(PIA)手続すら行わないまま、利便性や効率性のみを追求して法改正を急げば、2021年5月に成立したいわゆるデジタル改革関連法で「自己情報コントロール権」の保障が実現されていないことともあいまって、プライバシー保障上の危険性が極めて高まるものといわなければならない」と、その危険性を指摘しています。

 

声を上げなければ「同意」

同日の閣議では、もう1つ、私たちにとって恐ろしいことが決められました。

日本年金機構が年金受給者に、年金の振込先を「マイナンバーカード」に登録するかどうかを確認する文書を郵送で送り、登録したくない人は「不同意」というところにチェックして送り返さなければ、自動的に「同意」したということになり、「マイナンバーカード」に自分の年金受け取り口座が紐付けられてしまうのです。

現在、「マイナンバーカード」を持っている人でも、その約3割は、預貯金口座への紐付けを行なっていません。政府は、「紐付ければ、7500円分のポイントをあげます」と大々的に宣伝しましたが、自分の銀行口座を国に知られたくないという人が多いのでしょう。特に日本の高齢者は、各世代の中で一番お金持ちですから、自分の口座を他人には教えたくないと考えているようです。

 
Photo by iStock
Photo by iStock© 現代ビジネス

ところが、高齢で老眼だったり認知症を患っていたりすると、書類を隅々まで読まないことも珍しくありません。そうなれば、勝手に口座を「マイナンバーカード」に紐付けられてしまうのです。一般的に契約とは、双方の合意のもとに成り立つものなので、拒否しないなら合意と見なすなどというのは、詐欺にも等しいでしょう。

しかも今後は、児童手当、生活保護などへと対象を広げ、NOと言わない人、気づかない人の預貯金口座は、次々と「マイナンバーカード」に紐付けていく方針なのです。

これに対しても日弁連は前出の声明内で、「公金受取口座とマイナンバー(カード)のひも付け登録には、名義人の積極的な同意を求めるべきであり、名義人が知らないうちにひも付けされてしまうような方法をとるべきではない」と抗議しています。

このように、知らぬ間に自分の情報と紐付いているかもしれないのが、「マイナンバーカード」の怖いところ。さらにそうやって紐付いた個人情報が、期せずして外部に流出してしまうことも考えられます。

引き続き後編記事『あなたの「マイナ保険証」から個人情報が漏れていく…これから起こりうる「ヤバすぎる事態」』では、マイナンバーに関する情報漏えいリスクの可能性について検討しましょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする