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「な、なんで?」年金月9万円と月収19万円でしめやかに暮らしていた62歳・タクシー運転手…収入が少ないのに突然、年金が〈支給停止〉されたワケ【FPが解説】

2024年05月23日 06時34分30秒 | 年金対策

年金が支給停止されるケースで最も多いのが、働きながら年金を受け取り、基準額を超えると年金が一部もしくは全部が支給停止する可能性がある「在職老齢年金制度」。法改正で60歳以上の人が同じ基準額となったため、給与が現役世代並み以上でないと、調整されなくなっています。しかし、それ以外にも年金が支給停止となるケースがあって……。本記事ではTさんの事例とともに、年金ルールの注意点について、社会保険労務士法人エニシアFP代表を務めるFP三藤桂子氏が詳しく解説します。

コロナが落ち着いても物価高…生活が苦しい

Tさんは長年タクシー会社に勤めていました。60歳定年後、継続雇用を希望し、働けるだけ働こうと考えていました。コロナの影響、さらには物価高により、タクシーを利用する人が激減し、歩合給の給与はほとんどなく、当時の手取り額は最低保障額程度である15万円(月収19万円)もなかったのです。

それでもいままで貯めた貯蓄を少しずつ取り崩しながら、乗り切ってきました。残高が減っていく通帳を眺めながら、このままでは老後破産に陥ってしまうと、悩んでいたところ、会社の同僚から、年金を早く受け取ったらどうかと言われ、同僚の60歳以上の人はすでに受け取っているよというのです。

 

「働きながら年金を受け取ると年金が止まってしまう制度があると聞いたことがある」とTさんは不安になりましたが、「自分達みたいに給与が少ない人は、その制度は気にすることもないから」と同僚からは苦笑いされます。コロナが落ち着いてもしばらくのあいだはタクシー利用者が減った状態が続き、Tさんは思うように収入が増えず、物価高に追い打ちをかけられ、不安が続きます。

やはり、同僚が言うように、年金を繰り上げるとずいぶん生活が楽になるかもしれない……

繰上げ請求の注意点

Tさんは年金の繰上げ請求をしようと年金事務所の相談窓口に行きました。その際、職員から繰上げ請求した場合の注意点の説明を受けました。主な注意点は次のとおりです。

・老齢年金を繰上げ請求すると、繰上げする期間に応じて年金額が減額されます。生涯にわたり減額された年金を受給することになります。

・老齢年金を繰上げ請求したあとは、繰上げ請求を取消しすることはできません。

・65歳になるまでの間、雇用保険の基本手当や高年齢雇用継続給付が支給される場合は、老齢厚生年金の一部または全部の年金額が支給停止となります。(老齢基礎年金は支給停止されません。)

・繰上げ請求した日以後は、事後重症などによる障害基礎(厚生)年金を請求することができません。(治療中の病気や持病がある方は注意してください。)

※日本年金機構:年金の繰上げ受給から一部抜粋

相談窓口の職員から年金の見込額を出してもらいました。

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「な、なんで?」年金月9万円と月収19万円でしめやかに暮らしていた62歳・タクシー運転手…収入が少ないのに突然、年金が〈支給停止〉されたワケ【FPが解説】© THE GOLD ONLINE

[図表]年金の見込額 出所:筆者作成

老齢基礎年金:2024年度満額

老齢厚生年金:20万円×5.481/1,000×420月で計算

減額率(最大24%)= 0.4%×繰上げ請求月から65歳に達する日の前月までの月数

今回は、14.4%(0.4×36月)で計算

65歳まで待った場合と比べて年間で18万円も減額されてしまうのか……非常に悩みましたが、それでも給与と年金をあわせて月約24万円あれば貯金を使わずに生活できると考えたTさんは繰上げ請求をすることに。

想定外の支給停止

世間ではコロナ前の生活に少しずつ戻っていき、タクシーを使う人も増えてきました。年金は減額しましたが、このまま長く働いて少しずつ貯蓄できれば、なんとか老後も生活できるだろうと前向きに考えていました。

そんなある日、Tさんは不注意で転倒し複雑骨折する大ケガをします。仕事はできずに、健康保険から傷病手当金を受けながら療養していました。3ヵ月仕事を休んだTさん。少し後遺症が残ったものの、やっと、復帰の日を迎えます。

しかし……会社に行くとTさんの車がなかったのです。

会社からは、やっと客足が戻って人手が足りなかったのに長期に休まれて困っていたため、新たに人を採用したとのこと。しばらく車の補充ができないという理由から、Tさんは退職勧奨されます。Tさんは驚きが隠せません。

確かに不注意でケガをした自分がいけないのだけれど、あまりにもひどすぎる対応だと、会社に訴えたところ、3ヵ月以上車を休ませると会社の経営が悪化するから仕方のないことだと告げられます。

ハローワークで求職の申し込み

働けるだけ続けようと決めていたTさんでしたが、突然の退職に生活費を心配し、失業手当を受給するためハローワークへ行き、求職の申し込みをしました。

しばらくはこれで凌げると安堵したのもつかの間、次の年金支給日に驚愕します。

「な、なんで?」年金が減額して振り込まれていたのです。急ぎ、年金事務所に確認すると、「雇用保険からの給付を受けると年金が支給停止になることを繰上げ請求時にご説明しています」とのこと。

「そういわれると確かにそんな説明を受けたような」と思い出しましたが、その当時は身体も元気で、まだまだ働き続ける気持ちでいっぱいだったのです。加えて突然の退職にTさんは動揺し、頭からすっかり抜けてしまっていました。

年金ルールには細心の注意を…

Tさんは減額してまで年金の繰上げをしたにもかかわらず、雇用保険の失業手当を受給したため、年金(老齢厚生年金)が全額支給停止される結果となってしまいました。

年金も失業手当も国の制度のため、両方を併給することはできません。Tさんは一日でも早く次の会社に就職するため、毎日ハローワークに通っています。

年金制度は複雑で、受け取り開始時期や国民年金保険料の支払い状況などによって、ケースバイケースです。わからないことや、イレギュラーが発生した際には年金事務所に確認しにいくなど、自身が損しないための対応を心がけておきましょう。

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP

代表

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GPIF、10-12月は5兆7287億円の黒字運用-外国株式がけん引

2024年02月05日 07時36分55秒 | 年金対策
The entrance of the Government Pension Investment Fund (GPIF) office in Tokyo, Japan, on Friday, July 1, 2022. Japan’s state pension fund, the world’s largest, posted its first quarterly loss in two years as declines in global stock and bond markets during the three months through March weighed down the value of its assets.
The entrance of the Government Pension Investment Fund (GPIF) office in Tokyo, Japan, on Friday, July 1, 2022. Japan’s state pension fund, the world’s largest, posted its first quarterly loss in two years as declines in global stock and bond markets during the three months through March weighed down the value of its assets. Photographer: Akio Kon/Bloomberg
 

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2023年10-12月期(第3四半期)の運用収益はプラス2.62%だった。黒字額は5兆7287億円。

  資産別の収益率は、国内債券がプラス0.95%、国内株式がプラス2.05%、外国債券がプラス2.55%、外国株式がプラス4.91%だった。4資産いずれもプラスを確保し、中でも外国株式がけん引した形となった。

GPIF President Masataka Miyazono Announces Earnings Results
GPIFのオフィス
Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  12月末時点の運用資産額は224兆7025億円と、9月末の219兆3177億円を上回った。市場運用を開始した01年度からの累積の収益率(年率)はプラス3.99%、収益額は132兆4113億円。

  GPIFは世界最大の年金基金で、特に金利や株価に動きがみられる足元のような市場環境では、その運用動向に市場関係者の注目が集まりやすい。国内金利は日本銀行が金融緩和政策の転換時期を探る中で今後の上昇が予想され、株式市場では日経平均株価がバブル崩壊後の最高値圏に回復している。

  10ー12月は国内外の株式が上昇した。東証株価指数(TOPIX)が1.9%高、米国のS&P500種株価指数は11.2%高だった。先進国と新興国の株式で構成されるMSCIオールカントリーワールド指数も10.7%上昇した。

  同四半期の長期金利は一時0.9%台まで上昇したが、12月に0.5%台まで低下する場面があった。

資産構成割合 23年12月末 9月末 6月末 3月末 22年12月末
国内債券 25.77% 26.56% 24.47% 26.79% 26.07%
国内株式 24.66% 24.52% 25.14% 24.49% 25.07%
外国債券 24.44% 24.19% 24.29% 24.39% 24.59%
外国株式 25.14% 24.72% 26.10% 24.32% 24.27%
オルタナティブ資産 1.53% 1.54% 1.47% 1.38% 1.43%
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GPIF、24年度に外債先物と為替フォワード取引開始へ-理事長

2024年01月22日 08時12分36秒 | 年金対策

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の宮園雅敬理事長は19日午後、年頭の記者会見で、運用の高度化に向けた施策として、2024年度から新たに外国債券先物と為替フォワード取引を始める計画を明らかにした。

  宮園氏は、運用高度化の一環としてリバランス精緻化の取り組みについて紹介。現物に加えヘッジ手段として先物取引も活用することで、GPIFが保有資産をリバランスする際に市場への影響を抑えながら取引量を増やすことができるようになる。すでに株価指数先物の取引は開始している。

  また、自社運用では発注や取引処理を統合化したシステム上で行うことにより、業務リスクを削減しているなどと説明した。データマネジメントなどの専門人材を増強する方針も示した。

  GPIFは23年9月末時点の運用資産額が約220兆円に上る世界最大の年金基金だ。日本銀行が金融緩和政策の転換時期を探り、日経平均株価がバブル崩壊後の最高値圏に回復する中、巨額資金の運用動向が注目されている。

  GPIFでは日本株のアクティブファンドの選定を進めている。宮園氏は採用規模について「どのくらいの数になるかは分からないが相応の数になる」と言及。ただ、採用数の目標は定めないとした。北米株と先進国株(除く日本)では、22年秋以降にそれぞれ19本と14本のアクティブファンドを採用している。

  一方、国内金利が上昇傾向にあるなど市場環境が変化する中、宮園氏は20年度から採用している現行の基本ポートフォリオについて、「現段階では見直す必要はない」と述べた。現在は資産配分を国内外の債券と株式に25%ずつ等分に振り向けている。

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年金6万円で暮らす日本人がかわいそう…海外メディアが報じる「死ぬまで働かされる国・ニッポン」の現実【2023上半期BEST5】

2023年08月27日 07時25分33秒 | 年金対策

2023年上半期(1月~6月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。老後部門の第4位は――。(初公開日:2023年4月11日)

NYタイムズ紙が報じた「ニッポンの高齢契約社員」

会社を定年退職して、大切な余生を満喫するかつての生き方は、日本では夢物語となってしまったのだろうか。

一昔前であれば、定年退職は60歳の還暦が一般的だった。いまや一部企業では65歳まで引き上げられ、2025年4月からすべての企業に「65歳定年制」が義務付けられる。さらに政府は68歳までの延長を検討している。

年を重ねても意欲的に働きたい気持ちがある人々には、頼りがいのある施策だ。だが、好むと好まざるとにかかわらず、全員が「働かざるを得ない」国へと日本は突き進んでいる。例えば、ニューヨーク・タイムズ紙は、契約社員として長年働いてきた男性の暮らしぶりを紹介している。年金は国民年金の月6万円のみだ。住む場所によっては、家賃にも満たないだろう。

なにか食べられる物を買うために、高齢になって体調を崩しても働かざるを得ない。そんな時代への入り口を、日本はゆっくりとくぐりつつあるのだろうか。

高齢者に労働を迫る日本の実態は、海外でも報じられるようになった。

月6万円の年金では暮らしていけない…米紙が報じた日本の実情

ニューヨーク・タイムズ紙は今年1月、日本の高齢化と退職年齢の延長に迫る記事を掲載している。「アジア社会で高齢化が進み、『退職』はさらに働くことを意味するようになった」との見出しだ。

記事は、東京の青果卸売会社で働く73歳の男性の日常に迫る。この男性は重い積み荷を運ぶ業務を日々こなしているが、経済的事情で当面引退できそうにないという。

男性は毎日1時半に起床し、車で1時間かけて湾岸エリアにある青果市場に通う。野菜が詰まったずっしりと重たい箱を都内の飲食店に配達して回っている。医師からは、重量のある荷物を運び続けたせいで、背骨の軟骨がすり減っていると告げられた。

それでも配送の仕事を休むことはできない。男性はこれまで、契約社員などとして各社を転々としてきた。もらえる年金は国民年金の基礎年金分に限られる。同紙に対し、月6万円だけでは生活を維持できないと打ち明けている。

「体が許す限り、働き続けなければならないんです」。忙しく人参の箱を引っかき回しながら、男性は続ける。「楽しくはない。それでも、生きるためにやっているんです」。

寿司職人から庭師になった高齢男性

高齢化の進む地方都市に着目した海外メディアもある。ドイツ国営の国際放送局であるドイチェ・ヴェレは2021年、「日本では70歳から人生が(また)始まる」との動画を公開している。

ドイチェ・ヴェレは、日本の高知県に住む当時70歳の元寿司職人の暮らしを追い、高齢になっても働き続ける日本人の姿を描いている。この男性は、以前は自身の店を持ち、付け場(調理場)で寿司を握る日々を送っていたという。

男性は10年前に店を畳むことにした。すでに高齢であり、これを機に引退後の自由な余生を歩み始めてもおかしくはないタイミングだ。

ところが男性は、再び働く道を選んだ。シルバー人材センターの扉を叩くと、それまで握っていた包丁を剪定(せんてい)ばさみに持ち替えた。現在は、各戸を回り庭の手入れをする植木職人として奮闘している。

男性はドイチェ・ヴェレの取材に明るく応じ、剪定の仕事は自身に合っているし運動にもなる、と笑顔を見せる。たが、働き続けた理由については「年金が少ないので……」と答えた。

数十年前から予見されていたのに…

高齢化は止まらない。総務省統計局によると昨年9月時点で、日本の65歳以上の高齢者人口は、過去最多の3627万人に達した。総人口に占める割合は29.1%と、こちらも過去最高を記録している。

このうち75歳以上の人々に焦点を絞ると、総人口に占める割合は初めて15%を超えた。団塊の世代が75歳を迎え始めたためだ、と統計局は分析している。

人口ピラミッドの異変は数十年前から予見されていたが、歯止めはかからなかった。東京在住のジャーナリストであるティサンカ・シリパラ氏は、政治外交専門誌の米ディプロマットへの寄稿を通じ、「日本では世界中のどの国よりも速く高齢化が進んでいる」と現状を報じている。

 

彼女は論じる。高齢者人口の比率が高まり、年金制度と医療制度に限界が来ていることで、高齢でも働き続けなければならない社会が到来した。そして、「日本では老後を生き抜くことが難しくなっている」と。

生き残るために低賃金の仕事を引き受ける

もっともシリパラ氏は、高齢者を一方的な弱者と見ているわけではない。アメリカでは9月の敬老の日(祖父母の日)が必ずしも定着していないなか、日本では国民の祝日になっており、高齢者に十分な敬意が払われているとの喜ばしい側面を紹介している。

だが、「しかし同時に、高齢者たちは『永遠に』働くための準備をしており、職場に戻ったり、生き残るために低賃金の仕事を引き受けたりしている」とも述べ、日本社会の現状に懸念を表明している。

厚生労働省が昨年7月に発表した「令和3年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は、女性が87.57歳、男性が81.47歳だった。ドイチェ・ヴェレは「医療の進歩により、多くの日本人がこれまで以上に長生きできるようになっている」と指摘する。だが、社会制度がこれに追いついていない側面があることも確かだ。

高齢者人口が拡大する一方、昨年11月までの過去1年間の出生数は、厚労省の速報値によると80万4000人台にまで落ち込んだ。第2次大戦以降、最低の水準だ。ドイチェ・ヴェレは、寿命向上と出生率低下の両輪により、日本の医療・年金制度は変革を迫られていると指摘する。

妻は「働きながら死ぬなんて、とても悲しい」と語った

シリパラ氏はディプロマット誌への寄稿のなかで、高齢社会白書のデータを引いている。各国の60歳以上の人に、今後、収入を伴う仕事をしたいか尋ねた結果、「収入の伴う仕事をしたい(続けたい)」と答えた人の割合が40.2%に上っている。アメリカの29.9%、ドイツの28.1%と比較し、日本人の労働意欲は高い。

ただし見方を変えれば、高齢になっても働きたいというデータは、働かなければ暮らせないという事実の裏返しでもある。年金だけでは生活を維持できないという、過酷な現実がそこにはある。

前掲のガス会社男性の妻は、働きに出る夫への謝意を示しつつ、ニューヨーク・タイムズ紙に対して胸中の迷いを打ち明けている。「働きながら死ぬなんて、とても悲しいことです。そんなふうに最期まで働いてはいけないんです」

だが、働かなければ収入は途絶える。財務省の財政制度等審議会は、68歳への定年引き上げにあわせ、年金の受給開始年齢も同年齢からとする案を検討している。

現在は65歳から受給可能だが、引き上げられた場合、退職から受給開始までに空白の3年間が生じる。手持ちの預金を切り崩しながら耐えられる人ばかりではないだろう。

もっとも海外の報道は、悲壮な日本の未来ばかりを語っているわけではない。ニューヨーク・タイムズ紙はガス管会社の男性について、働きがいが伴っているとも報じている。

男性は定年後に、同じ会社に再雇用された。現在は工事の事前説明など、人と話す仕事を多くこなしている。新しい人と出会うのが好きだというこの男性は、今の仕事に喜びを感じているという。毎日ゴルフをしているよりもずっといい、と語っている。

高齢者が働き手として求められている一面も

仕事を続けたおかげで、夫婦仲も良好だ。この男性の妻は、「(働くということは)私たちの両方が『自分時間』を持てるということです」とニューヨーク・タイムズ紙に語り、適度な距離感が円満に一役買っていると明かした。

また、高齢になっても従来とまったく同じ労働をこなすことを求められるわけではない。

同じ会社に継続雇用される場合でも、異なる会社に再就職する場合でも、肉体的な負担に配慮した業務が割り当てられることがある。

ガス管会社に再雇用された前掲の69歳男性は、以前のような施工業務を離れ、いまは同社による工事の事前説明を担当している。現場付近の住宅を訪問してチラシを配り、住民の理解を得るのが仕事だ。雇用形態は契約社員となり、実入りも減ったが、以前のように肉体労働をこなす必要はなくなった。

日本のある派遣会社の社長はニューヨーク・タイムズ紙に対し、労働市場において高齢者への需要が高い分野が存在すると説明している。例えば、電気やガスなどの工事会社が顧客宅で修理作業を行っているあいだ、社用車の運転席で待機している人材が求められているのだという。

運転席に人がいることで、必要なときにいつでも車を動かせる状態となり、駐車違反を避けることができるのだと同社長は説明している。

自治体によるお見合いパーティーに冷たい視線を送る米メディア

とはいえ、60歳や70歳を過ぎても働かざるを得ない社会は、決して人間らしい老後を安心して送れる社会ではない。年金改革や少子化対策に期待したいところではあるが、国や地方自治体の施策がどこまで当てにできるかは不明だ。

少なくとも一部の施策は、迷走気味だ。東京、宮城、愛知などでは、政府や公的機関が少子化対策を兼ね、お見合いパーティーの支援に乗り出している。

若者にロマンスの場を与え、長期的には若年人口の増加に寄与したい考えだが、米CBSニュースは冷めた視線を送る。同記事は、「この国の長老政治の指導者たちは、結婚を増やすことが解決策になると信じ込んでいるのだ」と厳しい。

同紙の指摘によると、根本的には若者の経済力を底上げするような政策が提示されない限り、結婚し子供を育てようという意思は生まれにくい。

中央大学の山田昌弘教授(社会学)は同局の取材に応じ、少子化はお見合いイベントで解決できる問題ではないと明言している。収入が不安定な男性が増えており、こうした人々が結婚よりも親との同居を選んでいることが課題なのだと教授は指摘する。

老後生活は自助努力に委ねられている

こうした海外報道は、日本の年金制度の問題を的確に突いている。それは、厚生年金の加入者がいる元会社員世帯と国民年金のみ加入の個人事業主世帯では、受け取れる年金月額には大きな差が生じている点だ。

厚生労働省の2019(令和元)年財政検証結果レポートによると、国民年金(基礎年金)の第1号被保険者は約1500万人に上る。そのうち老後も継続収入が見込める自営業者は2割弱にすぎず、大半が短時間労働者や無職なのが現状だ。

ニューヨーク・タイムズ紙が指摘するように、アメリカで401Kと呼ばれる個人型確定拠出年金(個人で積み立てる私的年金)は日本では広く普及しておらず、公的年金だけでは生活費をカバーできないまま、自助努力に委ねられているのだ。

いつになっても労働を求められる日本の老後のあり方は、海外でも注目されるほどの大きな問題となっている。

---------- 青葉 やまと(あおば・やまと) フリーライター・翻訳者 1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。 ----------

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国民の年金積立金17兆円が失われた…「過去最大」巨額赤字の原因

2023年07月03日 08時02分21秒 | 年金対策
国民の年金積立金17兆円が失われた…「過去最大」巨額赤字の原因
国民の年金積立金17兆円が失われた…「過去最大」巨額赤字の原因© Finasee

・たった1人に国家が負ける? 先進国も敗北した「市場」の恐ろしさ

年金として支給に回らなかったお金を「年金積立金」といい、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)によって運用されています。残高は2022年末時点でおよそ190兆円、運用収益は98.1兆円にも上りました。

おおむね順調な運用ですが、四半期ベースでは損失となることも多く、メディアでセンセーショナルに報道される傾向にあります。特に2020年7月3日に発表された過去最大の赤字は大きな話題を集めました。

コロナショックで17.7兆円の損失を計上

GPIFは2020年1~3月期に10%以上のマイナスに陥り、17兆7072億円もの損失となりました。これは過去最悪の損失で、第3四半期までに稼いだ収益も全て吹き飛び、通期でも8兆円を超えるマイナスとなっています。

【GPIFの期間収益(2019年度)】

・2019年4~6月:+2569億円(+0.16%)

・2019年7~9月:+1兆8058億円(+1.14%)

・2019年10~12月:+7兆3613億円(+4.61%)

・2020年1~3月:-17兆7072億円(-10.71%)

・通期:-8兆2831億円(-5.20%)

出所:GPIF 2019年度業務概況書

原因はコロナショックでした。原因不明の肺炎が2019年末に中国の武漢市で報告され、のちに新型コロナウイルスによる感染症であることが判明します。WHOは2020年1月に緊急事態を宣言するに至りました。

株式市場の反応はやや遅く、しかし強烈に起こりました。世界の株式市場は2月中ごろから示し合わせたように一斉に下落し、同時株安の様相を呈します。高値からの下落率は、TOPIX(東証株価指数)やS&P500では約30%にも達しました。

【2020年度のTOPIXとS&P500の推移(日足終値、2019年3月末=100)】

 
 
国民の年金積立金17兆円が失われた…「過去最大」巨額赤字の原因
国民の年金積立金17兆円が失われた…「過去最大」巨額赤字の原因© Finasee

Investing.comより著者作成

GPIFは国内外の株式と債券におおむね4分の1ずつ投資するポートフォリオであり、運用資産のおよそ半分は株式で構成されることになります。このためコロナショックの影響を受け、大きな損失となってしまいました。

 

新しい分散投資「リスク・パリティ戦略」とは

GPIFのように複数の資産に分けて投資する方法を分散投資といい、基本的にリスクを低減させる効果が期待できます。では、なぜ分散投資でリスクが小さくなっていたはずのGPIFはコロナショックで巨額の損失を計上したのでしょうか。

ポイントは、値動きの大きさの違いです。一般に債券よりも株式の方が大きな値動きが生じるため、均等に投資しただけではどうしても株式の影響が強く生じます。コロナショック時もGPIFは株式と債券におよそ半分ずつ投資していましたが、全体の損益が株式に引っ張られている様子が確認できます。

【GPIFのポートフォリオと期間収益】

 
 
国民の年金積立金17兆円が失われた…「過去最大」巨額赤字の原因
国民の年金積立金17兆円が失われた…「過去最大」巨額赤字の原因© Finasee

※為替ヘッジなし:18.1%、為替ヘッジあり:1.11%

出所:GPIF 2019年度業務概況書

そこで、値動きの大きさを均等にするために考えられたのが「リスク・パリティ戦略」です。世界最大級のヘッジファンド「ブリッジウォーター」が採用することで有名なこの戦略は、単に投資額を均等にして分散投資するのではなく、値動きの大きさが均等になるよう投資額を逆算して分散投資します。

つまり、リスク・パリティ戦略では値動きが小さい債券の割合が高く、反対に値動きが大きい株式の割合が低く設定される傾向にあります。こうすることで、株式がポートフォリオ全体に与えるインパクトが均等になることが期待できます。

最近はリスク・パリティ戦略を採用する投資信託も増えてきました。自身で同様の戦略を行うことは難しいので、安定的に運用したい人はリスク・パリティ型の投資信託を選んでみてはいかがでしょうか。

 

年金収支はどれくらい赤字なの?

話を年金に戻しましょう。公的年金は赤字が問題になっており、将来は年金がなくなると言う人もいます。年金はどれくらいの赤字なのでしょうか。

保険料収入と給付費だけのシンプルな収支で考えると、公的年金は毎年14兆円前後の赤字になっていることが分かります。約190兆円もの年金積立金を取り崩したとしても、約13年半で枯渇してしまう計算です。赤字は主に国庫の負担で埋められており、年金制度単体では維持することができていません。

【公的年金の収支状況】

 
 
国民の年金積立金17兆円が失われた…「過去最大」巨額赤字の原因
国民の年金積立金17兆円が失われた…「過去最大」巨額赤字の原因© Finasee

出所:厚生労働省 公的年金各制度の財政収支状況

この収支から考えると、確かに年金制度の持続性には疑問符が付きます。少子高齢化で現役世代が減りリタイア世代が増えれば、収支はさらに逼迫するでしょう。

年金制度だけで収支を均衡させるためには、保険料収入を引き上げるか、年金給付を引き下げるかのどちらかが必要です。国庫からの補填でカバーする場合は増税も視野に入ります。あるいは現行の賦課方式から積立方式への転換といった抜本的な改革もあり得るでしょう。

いずれの方法もデメリットが強く、国民の反発を招くことが予想されます。それが現在まで年金問題が放置された原因なのかもしれません。

執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。

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