高齢化社会では、姿勢の保持や移動がままならなくなる老化現象に悩む人が急増しています。ここで重要になる骨や筋肉の老化は、心臓・血管・脳などの老化と同じで、40代からゆっくりと進行していくことが分かっています。前回の「骨」に続き、今回は「筋肉」のアンチエイジングの重要性とその方法を解説します。(北青山Dクリニック院長 阿保義久)
筋肉の減少は30代から始まる進行すると命に関わることもある
筋肉量の減少は30代から始まりますが、特に40代以降は顕著になります。健康な人でも80歳前後には30%程度の筋肉が減少します。老化によって筋肉量が減少し、握力や歩行機能の低下などの身体機能の悪化が見られる状態は「サルコペニア」と呼ばれています。
サルコペニアに陥ると、日常生活に支障をきたすだけではなく、転倒による骨折や、内臓機能の低下による生活習慣病から脳梗塞や心筋梗塞などの命に関わる疾患や認知症などが発症しやすくなると言われています。
デスクワークなど座りっぱなしの生活をしていたり、歩かずに車ばかり利用する、日常的に運動量が少ない、運動せずにカロリーの調整だけでダイエットしている人はサルコペニアになりやすい傾向があります。
筋肉は脳に直結している鍛えるには脳神経の興奮が必須
筋肉の老化を防ぐためには、アンチエイジングの知識を身に着け、生活習慣を整えることが大切です。まずは筋肉の仕組みを詳しく見ていきましょう。
筋肉は身体を動かす運動器という役割にとどまらず、生きた器官として全身の臓器と密接に関わっています。骨格筋として姿勢や動作を保つ役割は想像がつきますが、消化管や血管など内臓の動きにも関与していることは少し意外に思われるかもしれません。
体の中には発汗の際に働く汗線周囲の筋肉や、視力を調節するレンズ周囲の筋肉など小さな筋肉も含めると650種類もの筋肉があり、その全てが連動して生命活動を支えています。これら全ての筋肉には共通点があります。それは、筋肉は神経を介して脳とつながっているということです。
医学においても筋肉の理解は重要で、医学生は生理学(生命現象を機能の観点からアプローチする生物学の一つ)の授業の最初に筋肉の働きを学びます。筋肉は神経・脳と一連の構造体として内臓から体幹まで人の身体の大部分を覆っているため、生理学では極めて重視されるのです。
運動ばかりしている人のことを揶揄して「頭まで筋肉のよう」と言うことがありますが、面白いことにこれは筋肉と脳の関係を言い得ているように感じます。というのも、脳の中で運動を司る運動野と感覚を司る感覚野は、神経を介して筋肉と密接に結びついており、筋肉を動かすためには対応する運動野の脳神経が興奮する仕組みとなっています。逆に、脳神経が興奮するとその刺激が神経を通って筋肉に届き、初めて筋肉が動きます。
すなわち、脳がしたいことを表現しているのが筋肉ですので、脳と筋肉を切り離して捉えることはできません。
最近では、筋肉を鍛えるために電気刺激で筋肉を刺激するトレーニング器具を見かけますが、これは実用的な筋肉の動きの改善や筋力アップにはほとんど意味をなしません。こうした機器は自分の意志とは無関係に筋肉を動かすため、筋肉を大きくする効果しかありません。使える筋肉を鍛えるには、対応する脳神経の興奮が必須なのです。
筋肉を強化する栄養素タンパク質とビタミンDを意識しよう
さて、筋肉と脳の関係をご理解いただいたところで、筋肉の強化方法の説明に移ります。筋肉を強くするには食事と運動が欠かせません。
筋肉を作るために必要な栄養素としてまず挙げられるのは良質のタンパク質です。タンパク質は消化の際にアミノ酸に分解されて吸収されますが、このアミノ酸が筋肉を合成する原料になります。
タンパク質を構成しているアミノ酸は20種類ですがそのうち9種類は体内で合成できません。ですので、食事から摂り入れる必要があるのです。これら9種類の必須アミノ酸をバランスよく含んでいるのが良質のタンパク質になります。
タンパク質は動物性のものと植物性のものがあります。動物性タンパク質には9種類の必須アミノ酸が全てバランスよく含まれています。一方で植物性タンパク質は、含まれているアミノ酸にばらつきがあります。ただし、動物性タンパク質を摂り過ぎると悪玉の脂肪の摂取も過大になるリスクがあるので、動物性タンパクに偏らずに植物性タンパクも摂り入れてバランスを保つことが大切です。
タンパク質を摂り入れるに当たり、目安量があります。計算式を載せておきます。
タンパク質の摂取目安量(g)=自分の体重(kg)×1~1.5g
体重60kgの人であれば1日70g程度のタンパクの摂取が必要です。これは、ロース肉だと360g、鳥のササミ肉だと約300g、マグロ赤身だと265g、イワシでは350gに相当します。
また、骨の健康にも役立つビタミンDは筋肉の増強にも関わっていることが分かってきました。魚介、卵、きのこ類を食べるよう心掛けましょう。
「毎日20分、散歩しながら日光浴」ストレスなく運動を続けることが大切
筋肉や骨の健康を保つために運動が重要なのは言うまでもありません。適度な運動として最もお勧めなのは、毎日20分程度の散歩やウォーキングがてら日光浴することです。ポイントは、しっかり腕を振って少し速めに歩くことです。多少きつさを感じたら少し速度を落とし、回復したらまた歩行速度を上げるなど、無理のない程度に継続することが大切です。
ランニングや水泳などの有酸素運動と、腕立て伏せ・腹筋・スクワットなどのレジスタンス運動を週1~2回、1回当たり30~60分程度行うことができれば、さらに理想的です。
そのような時間がなかなか取れないという人は、
・室内で、踵の上げ下げ運動(下げる時はストンと地面に踵をぶつけた方が骨形成に役立ちます)を10回で1セット×1日2セット ・大きく腕を振ってその場足踏み運動(太ももを腹部にぶつけるくらい高く上げるが良いです)を3分間1セット×2セット ・深呼吸5回1セットを2セット ・ストレッチング10分程度
などを行うだけでも意味があります。
大切なのはストレスなく行える運動を毎日継続することです。楽しく日常生活に取り入れられる自分に合った運動を見つけて実践していきましょう。
ダイヤモンド・オンライン 阿保義久
筋肉の減少は30代から始まる進行すると命に関わることもある
筋肉量の減少は30代から始まりますが、特に40代以降は顕著になります。健康な人でも80歳前後には30%程度の筋肉が減少します。老化によって筋肉量が減少し、握力や歩行機能の低下などの身体機能の悪化が見られる状態は「サルコペニア」と呼ばれています。
サルコペニアに陥ると、日常生活に支障をきたすだけではなく、転倒による骨折や、内臓機能の低下による生活習慣病から脳梗塞や心筋梗塞などの命に関わる疾患や認知症などが発症しやすくなると言われています。
デスクワークなど座りっぱなしの生活をしていたり、歩かずに車ばかり利用する、日常的に運動量が少ない、運動せずにカロリーの調整だけでダイエットしている人はサルコペニアになりやすい傾向があります。
筋肉は脳に直結している鍛えるには脳神経の興奮が必須
筋肉の老化を防ぐためには、アンチエイジングの知識を身に着け、生活習慣を整えることが大切です。まずは筋肉の仕組みを詳しく見ていきましょう。
筋肉は身体を動かす運動器という役割にとどまらず、生きた器官として全身の臓器と密接に関わっています。骨格筋として姿勢や動作を保つ役割は想像がつきますが、消化管や血管など内臓の動きにも関与していることは少し意外に思われるかもしれません。
体の中には発汗の際に働く汗線周囲の筋肉や、視力を調節するレンズ周囲の筋肉など小さな筋肉も含めると650種類もの筋肉があり、その全てが連動して生命活動を支えています。これら全ての筋肉には共通点があります。それは、筋肉は神経を介して脳とつながっているということです。
医学においても筋肉の理解は重要で、医学生は生理学(生命現象を機能の観点からアプローチする生物学の一つ)の授業の最初に筋肉の働きを学びます。筋肉は神経・脳と一連の構造体として内臓から体幹まで人の身体の大部分を覆っているため、生理学では極めて重視されるのです。
運動ばかりしている人のことを揶揄して「頭まで筋肉のよう」と言うことがありますが、面白いことにこれは筋肉と脳の関係を言い得ているように感じます。というのも、脳の中で運動を司る運動野と感覚を司る感覚野は、神経を介して筋肉と密接に結びついており、筋肉を動かすためには対応する運動野の脳神経が興奮する仕組みとなっています。逆に、脳神経が興奮するとその刺激が神経を通って筋肉に届き、初めて筋肉が動きます。
すなわち、脳がしたいことを表現しているのが筋肉ですので、脳と筋肉を切り離して捉えることはできません。
最近では、筋肉を鍛えるために電気刺激で筋肉を刺激するトレーニング器具を見かけますが、これは実用的な筋肉の動きの改善や筋力アップにはほとんど意味をなしません。こうした機器は自分の意志とは無関係に筋肉を動かすため、筋肉を大きくする効果しかありません。使える筋肉を鍛えるには、対応する脳神経の興奮が必須なのです。
筋肉を強化する栄養素タンパク質とビタミンDを意識しよう
さて、筋肉と脳の関係をご理解いただいたところで、筋肉の強化方法の説明に移ります。筋肉を強くするには食事と運動が欠かせません。
筋肉を作るために必要な栄養素としてまず挙げられるのは良質のタンパク質です。タンパク質は消化の際にアミノ酸に分解されて吸収されますが、このアミノ酸が筋肉を合成する原料になります。
タンパク質を構成しているアミノ酸は20種類ですがそのうち9種類は体内で合成できません。ですので、食事から摂り入れる必要があるのです。これら9種類の必須アミノ酸をバランスよく含んでいるのが良質のタンパク質になります。
タンパク質は動物性のものと植物性のものがあります。動物性タンパク質には9種類の必須アミノ酸が全てバランスよく含まれています。一方で植物性タンパク質は、含まれているアミノ酸にばらつきがあります。ただし、動物性タンパク質を摂り過ぎると悪玉の脂肪の摂取も過大になるリスクがあるので、動物性タンパクに偏らずに植物性タンパクも摂り入れてバランスを保つことが大切です。
タンパク質を摂り入れるに当たり、目安量があります。計算式を載せておきます。
タンパク質の摂取目安量(g)=自分の体重(kg)×1~1.5g
体重60kgの人であれば1日70g程度のタンパクの摂取が必要です。これは、ロース肉だと360g、鳥のササミ肉だと約300g、マグロ赤身だと265g、イワシでは350gに相当します。
また、骨の健康にも役立つビタミンDは筋肉の増強にも関わっていることが分かってきました。魚介、卵、きのこ類を食べるよう心掛けましょう。
「毎日20分、散歩しながら日光浴」ストレスなく運動を続けることが大切
筋肉や骨の健康を保つために運動が重要なのは言うまでもありません。適度な運動として最もお勧めなのは、毎日20分程度の散歩やウォーキングがてら日光浴することです。ポイントは、しっかり腕を振って少し速めに歩くことです。多少きつさを感じたら少し速度を落とし、回復したらまた歩行速度を上げるなど、無理のない程度に継続することが大切です。
ランニングや水泳などの有酸素運動と、腕立て伏せ・腹筋・スクワットなどのレジスタンス運動を週1~2回、1回当たり30~60分程度行うことができれば、さらに理想的です。
そのような時間がなかなか取れないという人は、
・室内で、踵の上げ下げ運動(下げる時はストンと地面に踵をぶつけた方が骨形成に役立ちます)を10回で1セット×1日2セット ・大きく腕を振ってその場足踏み運動(太ももを腹部にぶつけるくらい高く上げるが良いです)を3分間1セット×2セット ・深呼吸5回1セットを2セット ・ストレッチング10分程度
などを行うだけでも意味があります。
大切なのはストレスなく行える運動を毎日継続することです。楽しく日常生活に取り入れられる自分に合った運動を見つけて実践していきましょう。
ダイヤモンド・オンライン 阿保義久