2014年7月に発表された総務省のデータによると、日本の空き家数は実に820万戸にのぼる。日本の総住宅数6063万戸に占める割合は13.5%になり、ほぼ7軒に1軒は空き家ということになる。
「空き家が増えているのは、過疎化の激しい地方だけではありません。東京でもすでに住宅の11%が空き家になっています」
そう語るのは、扶桑社新書より『不動産業界の人だけが知っている新築マンションは買わないほうがいいワケ』を上梓した不動産コンサルタントの城戸輝哉氏。東京オリンピックを目前に控え「住宅が足りてない」と叫ばれる一方、なぜ空き家が増え続けるのか、そのカラクリを聞いてみた。
◆近い将来、3軒に1軒が空き家になる
現状こそ、空き家の割合は7軒に1軒だが、野村総合研究所が2015年6月15日に発表した予測データによると、住宅の解体や除去などが進まない場合、2033年には日本の総住宅数が7100万戸、そのうち2150万戸が空き家になるとされている。空室率はなんと30.2%。3軒に1軒が空き家になるという。衝撃的な数字ではあるが、空き家は今後ますます増えるというワケだ。
しかし、空き家が増えると予測されるにもかかわらず、なぜ新築住宅を購入したいと考える人が後を絶たないのだろうか。そのワケは、戦後、行政と業界のプロパガンダにより形成された「持ち家」意識が深く関係しているという。
「サラリーマンでも一国一城の主になれるという意識と、行政と業界のプロパガンダにより、幸せの象徴のように考えられていた『持ち家』という意識が、日本人にいまだに根付いているからでしょう。戦後からバブル期にかけては、それを手に入れることが、まさに夢の実現だったわけで、経済成長の過程で売る側も買う側もみんながWin-Winだったのです」
しかし、終戦から23年後の1968年。住宅のストックが2559万戸となり、世帯数2532万戸を上回ると状況は一変。この頃から、空き家が出始める。さらに1975年以降、人口の減少と少子高齢化が進み、空き家は増加の一途をたどることとなる。
「現在の少子高齢化と人口減少は、40年前から予見できていたはずです。にもかかわらず、将来の空き家問題への対策より、新築住宅の購入支援が優先され、結果としてどんどん空き家が増えていきました。新築が市場に供給されればされるほど、住宅の資産価値が毀損されることは明らかなのに、日本は相変わらず新築至上主義のまま。新築が最も価値がある住宅と信じて疑わない消費者がいて……そして、このまま世の中が変化してほしくない既得権益者がいて……という状況に陥っているのです」
◆一時的な景気対策として利用されている建設ラッシュ
この新築至上主義を継続することで潤うのは、当然ながら不動産業界と建築業界であり、住宅ローンを扱っている金融機関だ。しかし、ここには政治も深くかかわっていると城戸氏は指摘する。
「住宅建築1000戸の経済効果は、持ち家の購入の場合、投資額250億円に対し、最終需要に対する生産誘発額は517億円にもなるといわれています。付随する雇用誘発や税収効果も大きく、自分の任期中という短期間で、景気刺激策の効果を数字的な結果としてみせたい政治家にとっても、なかなかやめられない流れだといえます。つまり、不動産業界、建築業界、金融機関のみならず、政治家までもが既得権益者となっているのです。彼らにとっては、空き家問題を棚上げにしてでも、短期的に効果のある景気刺激策を狙いたいのが本音なのでしょう」
2011年の東日本大震災からの資材不足と、2020年の東京オリンピック開催に向けての開発ラッシュが重なり、建築資材が値上がり、結果、都市部の新築マンションの価格はまるでバブル期のように高騰。家が余っているはずなのにまだまだ建てる、しかも値段がなぜか上がっている。そんな歪な現状は深刻な事態を招く。
「一部のタワーマンションではバブルの様相を呈していますが、本来、どんな市場でも商品の流通量が増えればそのモノの価値は下がるはず。つまり、不動産市場に新築を次々と流し込めば、住宅を所有している人の資産はどんどん目減りしていってしまいます。日本中の持ち家の資産価値が下がり、売ることも貸すこともできず、維持するにもコストがかかるし、壊すにもコストがかかる……。もうすでに危険領域に達している『空き家問題』は他人事ではなく、実は我々の資産の蝕んでいく切実な問題だと認識する必要があります」 <文/HBO編集部>
「空き家が増えているのは、過疎化の激しい地方だけではありません。東京でもすでに住宅の11%が空き家になっています」
そう語るのは、扶桑社新書より『不動産業界の人だけが知っている新築マンションは買わないほうがいいワケ』を上梓した不動産コンサルタントの城戸輝哉氏。東京オリンピックを目前に控え「住宅が足りてない」と叫ばれる一方、なぜ空き家が増え続けるのか、そのカラクリを聞いてみた。
◆近い将来、3軒に1軒が空き家になる
現状こそ、空き家の割合は7軒に1軒だが、野村総合研究所が2015年6月15日に発表した予測データによると、住宅の解体や除去などが進まない場合、2033年には日本の総住宅数が7100万戸、そのうち2150万戸が空き家になるとされている。空室率はなんと30.2%。3軒に1軒が空き家になるという。衝撃的な数字ではあるが、空き家は今後ますます増えるというワケだ。
しかし、空き家が増えると予測されるにもかかわらず、なぜ新築住宅を購入したいと考える人が後を絶たないのだろうか。そのワケは、戦後、行政と業界のプロパガンダにより形成された「持ち家」意識が深く関係しているという。
「サラリーマンでも一国一城の主になれるという意識と、行政と業界のプロパガンダにより、幸せの象徴のように考えられていた『持ち家』という意識が、日本人にいまだに根付いているからでしょう。戦後からバブル期にかけては、それを手に入れることが、まさに夢の実現だったわけで、経済成長の過程で売る側も買う側もみんながWin-Winだったのです」
しかし、終戦から23年後の1968年。住宅のストックが2559万戸となり、世帯数2532万戸を上回ると状況は一変。この頃から、空き家が出始める。さらに1975年以降、人口の減少と少子高齢化が進み、空き家は増加の一途をたどることとなる。
「現在の少子高齢化と人口減少は、40年前から予見できていたはずです。にもかかわらず、将来の空き家問題への対策より、新築住宅の購入支援が優先され、結果としてどんどん空き家が増えていきました。新築が市場に供給されればされるほど、住宅の資産価値が毀損されることは明らかなのに、日本は相変わらず新築至上主義のまま。新築が最も価値がある住宅と信じて疑わない消費者がいて……そして、このまま世の中が変化してほしくない既得権益者がいて……という状況に陥っているのです」
◆一時的な景気対策として利用されている建設ラッシュ
この新築至上主義を継続することで潤うのは、当然ながら不動産業界と建築業界であり、住宅ローンを扱っている金融機関だ。しかし、ここには政治も深くかかわっていると城戸氏は指摘する。
「住宅建築1000戸の経済効果は、持ち家の購入の場合、投資額250億円に対し、最終需要に対する生産誘発額は517億円にもなるといわれています。付随する雇用誘発や税収効果も大きく、自分の任期中という短期間で、景気刺激策の効果を数字的な結果としてみせたい政治家にとっても、なかなかやめられない流れだといえます。つまり、不動産業界、建築業界、金融機関のみならず、政治家までもが既得権益者となっているのです。彼らにとっては、空き家問題を棚上げにしてでも、短期的に効果のある景気刺激策を狙いたいのが本音なのでしょう」
2011年の東日本大震災からの資材不足と、2020年の東京オリンピック開催に向けての開発ラッシュが重なり、建築資材が値上がり、結果、都市部の新築マンションの価格はまるでバブル期のように高騰。家が余っているはずなのにまだまだ建てる、しかも値段がなぜか上がっている。そんな歪な現状は深刻な事態を招く。
「一部のタワーマンションではバブルの様相を呈していますが、本来、どんな市場でも商品の流通量が増えればそのモノの価値は下がるはず。つまり、不動産市場に新築を次々と流し込めば、住宅を所有している人の資産はどんどん目減りしていってしまいます。日本中の持ち家の資産価値が下がり、売ることも貸すこともできず、維持するにもコストがかかるし、壊すにもコストがかかる……。もうすでに危険領域に達している『空き家問題』は他人事ではなく、実は我々の資産の蝕んでいく切実な問題だと認識する必要があります」 <文/HBO編集部>