お役立ち情報ブログ

日々の生活やビジネスにおいて役に立ちそうな情報を収集、公開しています。

「虐待が娯楽になっている」介護施設の現場。薬物に手を染める職員も

2016年03月25日 07時58分32秒 | 社会福祉
 過酷な労働環境で慢性的な人手不足に陥って久しい介護業界。記憶に新しい川崎市の転落殺人事件をはじめ、介護サービスの劣化どころか、犯罪行為さえ相次いでいる。昨年の介護報酬の引き下げによりブラック化が加速する介護現場。その窮状と混乱をルポする。

◆過度な門戸開放で犯罪の温床となった介護現場の実態

 介護現場に問題のある職員が急増したのは、’08年のリーマンショックがきっかけだった。介護業界を大量の失業者の受け皿にする方針を政府が推し進めた結果、応募すれば誰でも採用される、事実上の「全入職」が、まかり通っている。

 北関東の小規模デイサービス施設の経営者は、こう明かした。

「デイサービスでは、食費など利用料の1割を現金で支払うのですが、そのお金を職員が着服していた。書類の数字をごまかしていたので気づくのが遅れ、発覚したときには40万円も横領されていた。職員の給料は決して多くないし、貧しい人の目の前に現金があれば、まぁ、なくなりますよね。利用者の金品がなくなることもよくある」

 介護職の平均賃金は月21万400円。ほかの全業種の平均より、実に9万円も低い。今国会では、野党5党が月6000~1万円の賃上げ費用を政府が助成する法案を提出したが、焼け石に水だろう。

◆日常茶飯事の虐待が職員の“娯楽”に

 虐待はもはや日常茶飯事。東北の特別養護老人ホームの施設長は、こう嘆いた。

「福祉大学や介護専門学校以外のルートで業界に入ってくる人材には、地域の底辺高校出身の不良くずれでイジメっ子タイプが多い。一方、マジメな職員にはおとなしくて優しいタイプが多く、不良くずれから、先輩なのに呼び捨てにされたり、『これ、やっておけ!』と仕事を押しつけられ、パシリにされたりときには、暴力を振るったりで、同僚への“虐待”が始まります。悪貨が良貨を駆逐するように、質の悪い職員が入ると、いい人たちが辞めてしまう。そしてその後、入居者への虐待に発展します。職員の人間関係の悪化は、虐待の予兆みたいなもの」

 東海地方の介護士は、虐待が娯楽化していると眉をひそめる。

「入居者の排泄にカテーテルを使う場合があるのですが、言うことを聞かなくてイラついた職員が引っこ抜いてしまった。ベッドは小便まみれですよ……。Sアミーユの虐待事件では、職員が入居者の食事をつまみ食いしてたけど、食事に雑巾の絞り汁を入れるお局OLのような男性職員もいた。それに、認知症の入居者がくわえ煙草で廊下を歩いていて驚いたことも。職員が面白がって、煙草を与えたようです。暴言や頭を叩く程度の虐待は、もはや日常。ストレス発散のための娯楽になっている」

 介護職は高いストレスに晒される重労働だ。中には、耐えかねて薬物に手を染める者もいる。首都圏のグループホーム経営者が語る。

「エース級の女性介護士が、突然、無断欠勤するようになり、ヤクザが、『○○さんはいるか?』と、施設に来るようになった。覚せい剤の代金を回収しに来たらしいのですが、彼女とは連絡が取れないので自宅に行ってみると、テーブルの上には注射器が転がり、部屋は荒れ放題……。その後、ヤクザに追い込みをかけられて夜逃げして、その後を追うように男性職員1人も消えた。どうやら、女性職員に薬物の味を教えられたシャブ友達だったらしい。放っておいたらウチの施設に薬物が蔓延していたかもしれず、ホッとしてます」

 耳を疑うような行状の数々。介護現場の崩壊は止まらない。

― ド底辺化する[介護現場]の闇 ―
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

福岡県人口は510万2871人 九州7県で唯一の増加 [福岡県]

2016年02月27日 08時10分30秒 | 社会福祉
 総務省が26日公表した国勢調査速報値(2015年10月1日現在)で、福岡県の人口は510万2871人となり、10年の前回調査から3万903人増えた(0・61%増)。都道府県別で人口増は8都県にとどまり、九州7県では福岡だけ。また、人口増加率で新宮町は全国トップの22・93%に達した。

 県人口は402万7416人(確定数)だった1970年以降、一貫して増加。ただし増加率は05年に0・68%と初めて1%を割り込み、10年0・44%と鈍化傾向にある。今回の調査では県内60市町村の7割を超える44市町村で人口が減っており、九州各地から流入が続く福岡市を中心とする福岡都市圏との二極化が浮き彫りとなっている。

 県内で人口増加数が最も多いのは福岡市の7万4767人増。人口は153万8510人となり、全国の市では5位。北九州市は1万5031人減り、人口減少数は全国ワースト。新宮町は前回調査から5660人増えた。県内で人口減少率が最も高いのは東峰村の10・61%減。

 一方、住民基本台帳に基づく総務省の人口動態調査(昨年1月1日現在、7月発表)では、県人口(日本人)は71年以来、44年ぶりに減少に転じるなど「人口減時代を見据えた対策の強化が不可欠」(県幹部)。首都圏からの移住や定住を促すため新年度、都内に相談窓口を開設するほか、子育てや就職などの支援を通して、出生率上昇や首都圏への人材流出の阻止につなげたい考えだ。

=2016/02/26 西日本新聞=
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

<厚労省>介護福祉士や保育士の資格を統合

2015年04月11日 10時53分58秒 | 社会福祉
 ◇一本化検討入り 福祉人材の確保に向けて

 厚生労働省は少子高齢化と人口減で人手不足が懸念されている福祉人材の確保に向け、介護福祉士や保育士などの資格を一本化する検討に入った。戦後ベビーブームの「団塊の世代」が全員75歳以上になる2025年以降を見据えた動きで、介護施設と保育施設などを一つにまとめて運営できるようにすることも考えている。近く省内に検討チームを発足させ、利点や課題を整理する。【中島和哉】

【障害のある我が子、私が死んだら…】高齢の親任せ、介護の危機

 厚労省の推計によると、25年に必要とされる介護職員の数は約248万人で、このままでは約33万人不足し、保育士も17年度末には約7万人足りなくなる。

 人口減が進む40年には、地方の過疎化が一層深刻化する見通しで、厚労省は介護施設や児童福祉施設などがバラバラに点在している現状では、人手不足で存続できない施設が続出する可能性があるとみている。

 ただ、保育士の場合、今後の少子化で大幅に人員を増やせば将来過剰となる。このため、厚労省は介護施設、保育施設、障害者施設を1カ所にまとめられるよう規制を緩和したうえで、介護福祉士や保育士など専門職種で分かれている資格を統合し、1人の職員が子育てから介護サービスまで提供できるようにする仕組みを検討することにした。

 参考にするのが、フィンランドが導入している医療と社会福祉サービスの共通基礎資格(ラヒホイタヤ)だ。ホームヘルパーや准看護婦、保育士、リハビリ助手など計10の中学校卒業レベルの資格を一本化した資格で、福祉や介護に従事する職員を確保する必要性から生まれた。1人で複数の分野を掛け持ちできる職員を福祉の現場に配置し、柔軟に対応できるようにしているという。

 この資格を持っていると、子育てから介護まで幅広い分野で働くことができ、求人も多いため、生涯仕事を続けることができるという。厚労省は同様の仕組みを日本で導入すれば、雇用対策にもつながるとみている。

 問題になるのは、乳幼児の世話と認知症患者も含めた高齢者のケアでは、求められる技術や知識が大きく異なる点だ。すべて1人でこなすには高い能力が求められ、資格の一本化には、人材をどう育成し確保するかという課題が横たわる。介護、福祉の現場からは、資格統合に対する反発もあり、同省は時間をかけて検討することにしている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高齢の親任せ、介護の危機 障害のある我が子を80歳の母が殺害、現場を歩く

2015年04月11日 10時51分56秒 | 社会福祉
 「疲れた。私が死んだら息子は生きていけない。今のうちに天国へ連れて行ってあげたい」。知的障害がある長男(54)の首を絞めて死なせたとして逮捕された80歳の母は、警察の調べにこう述べたという。先月、大阪市旭区で起きた事件。最悪の事態を防ぐことはできなかったのだろうか。現場を歩いた。

 ◇私が死んだら息子は生きていけない…

 大阪府警旭署が発表した概要はこうだ。3月15日未明、自宅2階で寝ていた長男の首をタオルで絞めたり、口を塞いだりして窒息死させたとして、母の栢森敞子(かやもりしょうこ)容疑者を殺人容疑で逮捕した。同署によると、長男には生まれつき知的障害があり、トイレや食事、入浴がひとりでできなかった。栢森容疑者の夫は認知症で施設に入っており、長男の世話は栢森容疑者がほとんど1人で抱えていた。調べに対して「息子のことが苦になり、手が止まらずに殺してしまった」と述べたという。

 事件があった旭区は、大阪市北東部に位置する。地下鉄の出口からしばらく歩くと、市営住宅や木造の民家が建ち並び庶民的な雰囲気が漂う。その一方で、真新しいマンションがあちこちにそびえ立っている。

 2階建てのその自宅は、入りくんだ狭い路地に面していた。引き戸の玄関の斜め前に、銀色の雨よけシートをかぶった自転車がぽつんと置いてあった。

 「その自転車は栢森さんのやで」と近所の男性(73)が教えてくれた。20年来の親交があるという。

 男性によると、長男は電車に乗って作業所に通っていた。「栢森さんはいつも自宅の前で見送るんだけど、5分くらいすると自転車で追いかけていくんや。心配になるんやろうね」。長男を見送る小柄な栢森容疑者の姿は、近所の住民の朝のひとコマになっていたようだ。

 また男性は「栢森さんは認知症の夫が入所する施設にも、月2回ほどこの自転車で面会に行ってたよ。片道40分もかけて。大きな道路を通らんとあかんのにね。施設の利用料金を引き落としにすれば手間が省けるんだけど、『手渡しにせんと、足が遠のいてしまうから』と通ってたんやで」と話す。80歳の高齢で交通量の多い道路を自転車で走るのはさぞ大変だっただろう。

 ここでどんな生活を送っていたのか。男性は時々自宅に様子を見に行っていたが、いつもほこりがほとんどなく、きれいに掃除されていた。しかし2、3年前から、長男の状態が悪化した。夜尿症がひどくなり、栢森容疑者は「自分も年だし、体力の限界。どうしよう」と訴えていた。

 知的障害者は外出時の付き添いや、数泊程度のショートステイなどの福祉サービスを受けられるが、男性は「利用しているところはほとんど見たことがない」と証言する。

 「以前に息子さんを施設に入所させようとしたんだけど、息子さんが嫌がったらしい。でも最近は、決意して入所の手続きを進めようとしていたみたいだ」。そして「これを殺人事件だとは考えたくない。息子にあんなに深く愛情を注いではったんやから」とうなだれた。

 事件発生から3日で約3週間。大阪地検は今日にも起訴するとみられる。

 高齢の母親が将来を悲観するあまり知的障害のある子をあやめてしまう−−こんな悲しい事件は、今回だけではない。

 大阪市では昨年11月にも、浪速区のマンションで母親(73)が知的障害のある次男(44)の首を絞めて死なせたとして逮捕されている。次男には重度の身体障害もあり、ひとりでは歩けない状態で、母親と長男が介護していた。

 母親は調べに対して「また今日も介護が始まるかと思った。この生活から抜け出すために殺しました」と供述している。

 事件が続いた大阪市の障がい福祉課の担当者は「個人情報が含まれるため何も話せない。完全な防止策は難しいだろうが、区と情報を共有し、相談業務などの場で感度を上げて異変やサインに気付くような努力を続けたい」と語る。旭区の保健福祉課は「(相談支援センターなど地域の関係者から成る)自立支援協議会で検討していきます」。その協議会のメンバーは「今回の件に大きなショックを受けています。相談員や施設の間でもっと連携を密にして、障害者の状況把握に努めなければならないと痛感しています」と打ち明けた。対応に問題はなかったか、施策として何が足りなかったのか……。検証やその公開がないままで、再発防止はできるのか。

 「残念ですが、このようなケースがまた起きる可能性は高いと思います」と語るのは、佛教大准教授(障害者福祉論)の田中智子さんだ。田中さんは知的障害者を抱えている家族の家計調査などをしてきた。親が子を手にかけても大きなニュースにならず、埋もれている事例をいくつも耳にした。背景には、親子ともに高齢化して親の負担が増え、親の死後への不安も強まる実情がある、と指摘する。

 市民団体「大阪障害児・者を守る会」(大阪市)が2013年に府内の重度障害者1620人を対象にした調査では、主に母親が介護をしている割合は95%以上。うち母親が60歳以上なのは28・6%だった。「高齢になるほど回答率が低かったので、実際の比率はもっと高いと考えられます」(播本裕子会長)

 障害のある人たちが働く小規模作業所や授産施設などの全国組織「きょうされん」(東京都新宿区)が10年に行った調査では、主な介護者である母親の年代はもっと高い。50歳代37%▽60歳代32%▽70歳代14%▽40歳代13%−−だった。中には94歳の父親が58歳の娘(精神障害)を、93歳の母が72歳の息子(知的・身体障害)を介護している例もあった。

 ◇「地域移行」で施設は減少

 現在国は、障害者の「地域移行」を進めている。施設に“隔離”するのではなく、地域での生活を支援することを趣旨とした「障害者総合支援法」は13年に施行された。現在、障害者個人ごとに生活環境や障害の程度に合った福祉サービスを盛り込んだ「サービス等利用計画」の作成が進められている。

 だが大阪障害児・者を守る会の播本会長は「『利用計画』ができても、親の不安はなくなりません」と打ち明ける。「例えばショートステイを利用したくても、施設のスタッフ不足が恒常化しているために、なかなか予約が取れず、利用しづらい状況に変わりはありません。障害者を支える社会的な基盤が整っていないのです」と訴える。

 知的障害者が関わった事件を多く担当してきた大阪弁護士会の辻川圭乃(たまの)弁護士は、「『地域で障害者を受け入れる』という方向性自体は間違いではない。ただ、それと引き換えに、グループホームなど入所できる施設の数は減少し、かなり重度の障害者しか入れなくなっている。家庭の事情で入所を希望しても、入れない人たちが出ていることに配慮が必要です」と訴える。

 また播本さんは「子どもを施設に預けたいと希望するのは50代の親の比率が最も高い。それ以上年を取ると『一緒にいたい』親が増えてくる。苦労はあっても相互依存的な関係が固定化されてしまっている」と実情を語る。

 田中さんも「幼少期から家族以外から支援を受けることに慣れていないと、親が高齢になったからといって急には使えないようです」と解説する。「長い間にわたってケアをしていると、『あー』と言えば『水が欲しい』と分かるとか、親子の間でしか分からないあうんの呼吸で意思疎通がされている。そのような状態で福祉サービスを利用しましょうとアドバイスされても、他の人に子供を理解してもらえないのでは、とためらってしまう」

 田中さんによると、障害者を抱えた親の間では「子どもをみとった翌日に死ぬのが最も幸せ」とまでいわれている。

 「『地域移行』が進んでいますが、経済面を含めた家族の負担は大きいままです。障害者を第一に支えるのは家族だ、との意識が今も社会に根強いからです。この意識を変え、社会全体で障害者を支えるという考えを定着させていくことが、親の安心につながる第一歩だと思います」

 取材の最後、もう一度現場を訪れた。前日、郵便受けに無造作に突っ込まれていた宅配ピザのチラシはきちんと抜き取られていた。一見して留守宅と悟られないための配慮のようだ。

 「近所の誰かがやってくれてるのとちゃうかな」と前出の男性。温かい人情を感じただけに、よけいにやるせなさが募った。【江畑佳明】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高齢の親任せ、介護の危機 障害のある我が子を80歳の母が殺害、現場を歩く

2015年04月11日 10時51分56秒 | 社会福祉
 「疲れた。私が死んだら息子は生きていけない。今のうちに天国へ連れて行ってあげたい」。知的障害がある長男(54)の首を絞めて死なせたとして逮捕された80歳の母は、警察の調べにこう述べたという。先月、大阪市旭区で起きた事件。最悪の事態を防ぐことはできなかったのだろうか。現場を歩いた。

 ◇私が死んだら息子は生きていけない…

 大阪府警旭署が発表した概要はこうだ。3月15日未明、自宅2階で寝ていた長男の首をタオルで絞めたり、口を塞いだりして窒息死させたとして、母の栢森敞子(かやもりしょうこ)容疑者を殺人容疑で逮捕した。同署によると、長男には生まれつき知的障害があり、トイレや食事、入浴がひとりでできなかった。栢森容疑者の夫は認知症で施設に入っており、長男の世話は栢森容疑者がほとんど1人で抱えていた。調べに対して「息子のことが苦になり、手が止まらずに殺してしまった」と述べたという。

 事件があった旭区は、大阪市北東部に位置する。地下鉄の出口からしばらく歩くと、市営住宅や木造の民家が建ち並び庶民的な雰囲気が漂う。その一方で、真新しいマンションがあちこちにそびえ立っている。

 2階建てのその自宅は、入りくんだ狭い路地に面していた。引き戸の玄関の斜め前に、銀色の雨よけシートをかぶった自転車がぽつんと置いてあった。

 「その自転車は栢森さんのやで」と近所の男性(73)が教えてくれた。20年来の親交があるという。

 男性によると、長男は電車に乗って作業所に通っていた。「栢森さんはいつも自宅の前で見送るんだけど、5分くらいすると自転車で追いかけていくんや。心配になるんやろうね」。長男を見送る小柄な栢森容疑者の姿は、近所の住民の朝のひとコマになっていたようだ。

 また男性は「栢森さんは認知症の夫が入所する施設にも、月2回ほどこの自転車で面会に行ってたよ。片道40分もかけて。大きな道路を通らんとあかんのにね。施設の利用料金を引き落としにすれば手間が省けるんだけど、『手渡しにせんと、足が遠のいてしまうから』と通ってたんやで」と話す。80歳の高齢で交通量の多い道路を自転車で走るのはさぞ大変だっただろう。

 ここでどんな生活を送っていたのか。男性は時々自宅に様子を見に行っていたが、いつもほこりがほとんどなく、きれいに掃除されていた。しかし2、3年前から、長男の状態が悪化した。夜尿症がひどくなり、栢森容疑者は「自分も年だし、体力の限界。どうしよう」と訴えていた。

 知的障害者は外出時の付き添いや、数泊程度のショートステイなどの福祉サービスを受けられるが、男性は「利用しているところはほとんど見たことがない」と証言する。

 「以前に息子さんを施設に入所させようとしたんだけど、息子さんが嫌がったらしい。でも最近は、決意して入所の手続きを進めようとしていたみたいだ」。そして「これを殺人事件だとは考えたくない。息子にあんなに深く愛情を注いではったんやから」とうなだれた。

 事件発生から3日で約3週間。大阪地検は今日にも起訴するとみられる。

 高齢の母親が将来を悲観するあまり知的障害のある子をあやめてしまう−−こんな悲しい事件は、今回だけではない。

 大阪市では昨年11月にも、浪速区のマンションで母親(73)が知的障害のある次男(44)の首を絞めて死なせたとして逮捕されている。次男には重度の身体障害もあり、ひとりでは歩けない状態で、母親と長男が介護していた。

 母親は調べに対して「また今日も介護が始まるかと思った。この生活から抜け出すために殺しました」と供述している。

 事件が続いた大阪市の障がい福祉課の担当者は「個人情報が含まれるため何も話せない。完全な防止策は難しいだろうが、区と情報を共有し、相談業務などの場で感度を上げて異変やサインに気付くような努力を続けたい」と語る。旭区の保健福祉課は「(相談支援センターなど地域の関係者から成る)自立支援協議会で検討していきます」。その協議会のメンバーは「今回の件に大きなショックを受けています。相談員や施設の間でもっと連携を密にして、障害者の状況把握に努めなければならないと痛感しています」と打ち明けた。対応に問題はなかったか、施策として何が足りなかったのか……。検証やその公開がないままで、再発防止はできるのか。

 「残念ですが、このようなケースがまた起きる可能性は高いと思います」と語るのは、佛教大准教授(障害者福祉論)の田中智子さんだ。田中さんは知的障害者を抱えている家族の家計調査などをしてきた。親が子を手にかけても大きなニュースにならず、埋もれている事例をいくつも耳にした。背景には、親子ともに高齢化して親の負担が増え、親の死後への不安も強まる実情がある、と指摘する。

 市民団体「大阪障害児・者を守る会」(大阪市)が2013年に府内の重度障害者1620人を対象にした調査では、主に母親が介護をしている割合は95%以上。うち母親が60歳以上なのは28・6%だった。「高齢になるほど回答率が低かったので、実際の比率はもっと高いと考えられます」(播本裕子会長)

 障害のある人たちが働く小規模作業所や授産施設などの全国組織「きょうされん」(東京都新宿区)が10年に行った調査では、主な介護者である母親の年代はもっと高い。50歳代37%▽60歳代32%▽70歳代14%▽40歳代13%−−だった。中には94歳の父親が58歳の娘(精神障害)を、93歳の母が72歳の息子(知的・身体障害)を介護している例もあった。

 ◇「地域移行」で施設は減少

 現在国は、障害者の「地域移行」を進めている。施設に“隔離”するのではなく、地域での生活を支援することを趣旨とした「障害者総合支援法」は13年に施行された。現在、障害者個人ごとに生活環境や障害の程度に合った福祉サービスを盛り込んだ「サービス等利用計画」の作成が進められている。

 だが大阪障害児・者を守る会の播本会長は「『利用計画』ができても、親の不安はなくなりません」と打ち明ける。「例えばショートステイを利用したくても、施設のスタッフ不足が恒常化しているために、なかなか予約が取れず、利用しづらい状況に変わりはありません。障害者を支える社会的な基盤が整っていないのです」と訴える。

 知的障害者が関わった事件を多く担当してきた大阪弁護士会の辻川圭乃(たまの)弁護士は、「『地域で障害者を受け入れる』という方向性自体は間違いではない。ただ、それと引き換えに、グループホームなど入所できる施設の数は減少し、かなり重度の障害者しか入れなくなっている。家庭の事情で入所を希望しても、入れない人たちが出ていることに配慮が必要です」と訴える。

 また播本さんは「子どもを施設に預けたいと希望するのは50代の親の比率が最も高い。それ以上年を取ると『一緒にいたい』親が増えてくる。苦労はあっても相互依存的な関係が固定化されてしまっている」と実情を語る。

 田中さんも「幼少期から家族以外から支援を受けることに慣れていないと、親が高齢になったからといって急には使えないようです」と解説する。「長い間にわたってケアをしていると、『あー』と言えば『水が欲しい』と分かるとか、親子の間でしか分からないあうんの呼吸で意思疎通がされている。そのような状態で福祉サービスを利用しましょうとアドバイスされても、他の人に子供を理解してもらえないのでは、とためらってしまう」

 田中さんによると、障害者を抱えた親の間では「子どもをみとった翌日に死ぬのが最も幸せ」とまでいわれている。

 「『地域移行』が進んでいますが、経済面を含めた家族の負担は大きいままです。障害者を第一に支えるのは家族だ、との意識が今も社会に根強いからです。この意識を変え、社会全体で障害者を支えるという考えを定着させていくことが、親の安心につながる第一歩だと思います」

 取材の最後、もう一度現場を訪れた。前日、郵便受けに無造作に突っ込まれていた宅配ピザのチラシはきちんと抜き取られていた。一見して留守宅と悟られないための配慮のようだ。

 「近所の誰かがやってくれてるのとちゃうかな」と前出の男性。温かい人情を感じただけに、よけいにやるせなさが募った。【江畑佳明】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする