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郵政事業守るため「票集めが最大の任務」政治活動強いられる局長

2021年11月29日 07時06分17秒 | 選挙

【ひずむ郵政】局長会 政治と特権㊤

 「票を集めることが局長の最大の任務です」

 東日本の郵便局長は5年ほど前、局長に就任して間もなく「新人研修」に参加した。地区役員の局長たちは口々に政治活動の重要性を力説した。その場で小規模局の局長でつくる「全国郵便局長会」(全特)への加入申込書に記入させられた。全特は任意団体だが、加入は実質的には強制だ。

 

 一緒に参加した妻も「選挙活動では奥さんの協力が欠かせません」と説明を受けた。「うわさには聞いていたが、ここまでとは」。夫婦で顔を見合わせた。

 3年に1度の参院選では「1人30票」が目標で、全特の組織内候補の支援者を常に100人確保するよう指示されている。

 選挙が近づけば勤務後や休日に支援者宅を回り、毎週のように支援者名簿の報告を求められた。役員局長から「本当に投票してくれる人は何人いるのか」と問い詰められ、支援者数が少ない同僚は会議の場で「何のために局長になったんだ」と叱責(しっせき)された。

 「お客さんの役に立ちたいと思って郵便局の仕事を選んだのに…」。局長はため息をつく。

組織内候補は党内トップ当選

 全特が選挙活動に力を入れるようになったのは2007年の郵政民営化がきっかけだ。公務員だった局長は民間人になり、政治活動の自由を手にした。「民営化で小規模局の統廃合が進められる」との危機感から、「政治力」で課題解決を目指すようになった。

 民営化に反対して自民党を離党した議員が結成した国民新党(当時)を支援しながら、与党の民主党(同)、野党の自民、公明両党にも働き掛け、12年4月、完全民営化路線を転換する改正郵政民営化法成立にこぎ着けた。自民党の政権復帰後は自民支援に回帰。その後、3度の参院選で自民公認の組織内候補を全国比例で擁立、党内トップで当選させた。

 元全特会長の柘植芳文氏が2期目の当選を果たした19年の参院選で、局長たちが集めた後援会員は200万人を超えたという。柘植氏は当選後の集会で、局長たちを前に「常に戦う、強い局長会でなければ、これからの郵政事業は守っていけない」と力を込めた。

「説明は意味が分からない」

 「今年もカレンダーの経費が認められた。土日を使って支援者に配ってください」

 昨年秋、九州のある地区で開かれた局長会の会合。地区会長が指示を出すと、出席者の1人が「会社の経費を使って、こんなことをしていいんですか」と声を上げた。だが会長は答えず、他の局長たちはうつむいたままだった。

 日本郵便は26日、全特が、会社の経費で購入されたカレンダーの政治流用を指示したと認定し、全特会長ら96人の処分を発表した。ただ会社側は配布の詳しい状況は「把握していない」と説明し、「支援者も広い意味で郵便局のお客さまだ」として政治活動への流用はなかったと言い張った。九州の局長は「問題を矮小(わいしょう)化したいのだろうが、会社の説明は意味が分からない」と、あきれたように語った。

 来夏の参院選には自民党公認候補として長谷川英晴氏の擁立が決まっている。長谷川氏は当時の全特副会長としてカレンダー配布を主導したとみられている。東海の局長は漏らした。「組織として反省して出直さないと選挙活動なんかできない」 (宮崎拓朗)

 全特によるカレンダー配布問題で、日本郵便の経費はなぜ政治活動に流用されたのか。その背景と企業統治のひずみを検証する。

 

 

 「会社としては、局長会の問題には関与できない」

 パワハラ被害を訴えた郵便局長たちは、会社の思わぬ回答に言葉を失った。

 

 加害者は、福岡県内の郵便局長だった。約70局を束ねる統括局長で、任意団体「全国郵便局長会」(全特)の幹部でもあった。2019年1月、日本郵便で働く息子の不祥事を内部通報したと疑い、部下の局長に通報を認めるよう脅したとして、強要未遂罪で在宅起訴され、今年6月に有罪判決を受けた。

 被害を受けた局長たちは、こうしたパワハラを同社のコンプライアンス部門に繰り返し相談していた。脅された際の音声データも提出したが、会社はかたくなに介入しようとはしなかった。捜査当局が動くまで被害は続き、体調を崩して休職する局長も出た。

 「俺ぐらいになると、(日本郵便の)本社がものすごく気を使います」

 統括局長は被害者に、こう言い放った。そして「そのうち、誰が(内部通報した)犯人か情報が入ってくる」とも語った。

 実際、その後の同社の調査で、コンプライアンス担当の常務執行役員が、通報者に関する情報を統括局長に漏らしていたことが分かった。被害者側の弁護士は「事件では、会社が局長会の問題を避け、犯罪行為まで放置する深刻な実態が明らかになった」と話す。

「3本柱」強く要求

 なぜ日本郵便はこんなにも及び腰なのか。

 親会社の日本郵政の大株主は政府で、日本郵政グループは、政権から経営陣の人事などさまざまな面で介入を受ける。全特は参院選の度に自民党公認の組織内候補を党内トップ当選させて政治力を見せつけ、政府、自民党と太いパイプを維持している。その結果、任意団体ながら郵政グループに大きな影響力がある。

 あるグループ会社幹部は「局長会からにらまれれば、面倒なことになる」と漏らす。全特役員を務めた経験のある局長は「会社も政治との交渉で全特を利用し、持ちつ持たれつの面がある」と明かした。

 全特が会社に対し、強く要求してきたのが「3本柱」と呼ばれる仕組みだ。

 それは、局長採用の際、局長会が事前に人選をする▽原則転勤がない▽局長が局舎を所有することができ、会社から賃料を受け取る-の三つだ。

 全特は「地域に密着するため」と強調するが、九州のある郵便局員は「地域との密接な関係を選挙活動に利用したいだけじゃないか」と批判する。「既得権益」と問題視されても、会社は3本柱を容認してきた。

「これまでになく踏み込んだ」指示文書

 日本郵便がカレンダー配布問題で全特会長ら96人の処分を発表した26日、同社は全国の局長に1通の指示文書を出した。

 文書では、職務上の上下関係を背景に、政治活動などを強要すればパワハラに該当すると周知し、有給休暇を取得して政治活動を行う場合は郵便局の運営に支障が出ないよう配慮を求めた。現場では「これまでになく踏み込んだ内容」と受け止められている。

 日本郵政の増田寛也社長は10月末の記者会見で、選挙活動に参加する人物でなければ局長になれない仕組みについて「見直さなければならない」と明言した。東京の局員は「局長会の行き過ぎた活動で、郵政グループの信用が損なわれていると、危機感を持ち始めたのではないか」と話す。

 東京国際大の田尻嗣夫名誉教授(金融論)は「社員がつくる任意団体に、経営が振り回される実態は異常で、企業の統制が取れるはずがない。経営陣は、局長会との向き合い方を全面的に見直すべきだ」と指摘する。

 (宮崎拓朗)

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会社をつぶす経営者と、会社を伸ばす経営者の「決定的な差」

2021年11月28日 05時57分49秒 | 起業

「見えっ張りな人」は

経営者として致命的

 会社をダメにする経営者には、四つの共通点があります。

 それは、「明るく、元気で、大ざっぱで、見えっ張り」というものです。

「明るく、元気で」の二つだけを取り上げれば、悪いことではありません。明るく、元気でなければ、何かと苦労の多い中小企業の社長は務まらないし、社員だって陰気で、覇気のないトップの下ではモチベーションが上がりにくいはずです。

 ただ、「大ざっぱで、見えっ張り」なのは問題です。

 大ざっぱな経営者は、細部まで注意が行き届かず、細かい配慮もできず、経営が雑になりがちです。特に数字に大ざっぱな経営者は、ビジネスで求められる「物事をできる限り具体化・数値化すること」が苦手です。自社の売り上げや利益の数字をかなり違って記憶している人もいます。また、経理をごまかされていても手遅れになるまで気付かないこともあり得ます。

 それでも、「大ざっぱ」は、数字を見て考える訓練をすることである程度矯正することができます。経理や財務担当者に補佐してもらうことも可能です。財務の数字の扱いに、財務担当者よりも詳しくなる必要はありません。社長は会社の業績に最も責任を負う立場なのだから、大事な数字は何かを理解して、その大事な数字をきちんと把握していることが大切なのです。

 一方で、見えっ張りな人は経営者としては致命的です。

 少し経営が軌道に乗っただけで本分を忘れて外部団体の肩書・地位を欲しがったり、社長室を豪華に飾ったり、会社の金で高級車を買ってプライベートでも乗り回したり、飲み歩いて散財したり、時には借金をしてでも経営者仲間や取り巻きにいい格好をしたがる経営者は、ほぼ確実に会社をダメにします。多くの経営者と接してきた私は、そうした例をいくつも見てきました。会社を倒産させた見えっ張りな社長も何人も知っています。

メンタルが強くなければ

会社を伸ばす経営者になれない

 大ざっぱで、見えっ張りは論外として、明るく、元気なことが、会社を生かす経営者の条件になるのかといえば、そうとも言い切れません。

 経営者のメンタルは意外に弱く、普段は明るく、元気な経営者なのに、業績が悪化すると耐えられなくなって経営意欲を失って放り出したり、精神的に参ってしまって経営が続けられなくなったりした人も何人か見てきました。

 つまり、メンタルが強くなければ、会社を伸ばす経営者にはなれないのです。

 メンタルは鍛えることができます。私の経験上最良の方法は、この連載で何度もお話ししているように、『論語』『老子』などの中国の古典や、『聖書』『仏教聖典』のような何千年もの間、多くの人が正しいと信じて読み継がれてきた本を読むこと、立派な方のお話を聞いて勉強することで、生きる根本の信念を身に付けることです。そうすると強く生きられます。

 そうした本や立派な方のお話には、人が正しく生きていく上での真理が含まれており、理解が深まるにつれて「正しい信念」が身に付き、いろんなことが起こっても精神的な安定が得やすくなります。

 ただ、メンタルを鍛えて「正しい信念を持つ」だけでは不十分です。経営上の工夫も必要です。

会社を伸ばす経営者になるために

実行すべきこと

 景気には好況・不況の波があります。経営者は景気の波にあらがうことはできないので、波に対応した経営をしなければなりません。それには、(1) 自己資本を厚くし、自分たちが自由に使える手元資金を多く持つこと、(2)自社の強みを生かして変われる体制を普段から構築しておくこと、(3)景気の波に耐えられる事業構造が必要です。

 今も続くコロナ禍では、飲食業界、旅行業界と同じようにイベント業界も需要が消滅し、生き残れるかどうかの瀬戸際まで追い込まれました。そうした中で、以前この連載の『ピンチをチャンスに変える経営者と、ピンチで没落する経営者の明確な違い』の回で紹介したワン・ステップという会社は、イベントで使うエア遊具(空気で膨らませた滑り台など)の技術を生かして医療用テントをつくったり、子どもたちが他人との接触を避けて遊べるよう一人で遊べる遊具をつくったりして会社を存続させました。自社の強みを生かして、変化に対応した好例です。

 景気の波に耐える事業構造という意味では、20人ほどの人員の当社の場合、景気の良いときには研修のご依頼が増え、景気が悪くなるとコンサルティングのご依頼が増える傾向があります。また、経営計画策定やM&Aなどの仕事は景気にかかわらず、コンスタントにあるものです。

 会社を伸ばす経営者になるためには、正しい信念を持つことで自身のメンタルを鍛え、事業構造を考えた上で自社の強みを生かしてどんどん環境の変化に対応して変われる体質を普段から持っておく、自己資本比率、手元流動性を高めに持つ、これらを常に意識し、実行してください。

(小宮コンサルタンツ代表 小宮一慶)

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フジテレビだけじゃなかった「希望退職」JT 2590人、ホンダ2000人、パナソニック1000人…40代以上の地獄が始まる

2021年11月27日 07時47分46秒 | 経済

希望退職を募集したフジテレビ

11月25日、フジテレビが希望退職者を募ることを発表した。勤続10年以上、満50歳以上の社員が対象で、退職金には特別優遇加算金が支給される。希望者には再就職支援もおこなわれる。フジテレビが希望退職者の募集をかけるのは、2017年以来だという。

しかし、希望退職者を募集している企業はフジテレビだけではない。東京商工リサーチによれば、2021年1~10月、上場企業で実施したのは72社。

そのうち、1000人以上となるのは、「日本たばこ産業」2950人、「本田技研工業」約2000人、「KNT-CTホールディングス(近鉄グループの旅行企業)」1376人、「LIXIL(トイレや建材を販売)」1200人、「パナソニック」約1000人の5社にのぼる。これは、金融危機が起きた2001年の6社以来の高い数字だ。

詳細が公表されていない企業も多いが、たとえばLIXILでは、40歳以上かつ勤続10年以上の正社員が対象になっている。オリンパスでは、40歳以上かつ勤続3年以上の正社員など950人が対象。調査を見る限り、40歳以上が対象となるケースが多い。

今後、募集が増える傾向は続くのだろうか。東京商工リサーチの担当者に話を聞いた。

「『増える』と断言はできないものの、現在、大企業が大型募集をかけやすい状況にあるのは事実です。コロナが少し落ち着き、人々の外出も増えて、世間の空気が上向きになりつつありますから。

去年のように、飲食や小売り、観光などの雇用がコロナ禍で失われるなか、名の知れた企業があまり大きな募集をかけるのは悪目立ちしてしまう。実際、2020年の大型募集は2社のみでした。

もともと経営計画に盛り込んでいたような企業も、コロナの影響が深刻な状況下では、なかなか予定どおりの実施もむずかしかったはず。日常が戻りつつある今、先送りしていた企業も、そろそろ動き出すタイミングです」

「大企業だから」と安心していられない現実もある。中小企業による300人以下の募集は「業績悪化」が理由であることが多いが、大企業の大型募集はそうとも限らない。

「大型募集をかけた5社のうち、4社は黒字です。今回募集をかけているLIXILも、過去に赤字・黒字両方の年で実施していました。大型募集になると、業績に関係なく、『業務の効率化』や『中長期での経営見直し』として、全社的におこなわれるパターンが多いんです」(前出・担当者)

加速傾向にある企業の人切りで、「終身雇用」の時代は終わりつつある。40代以上の会社員にとっての地獄は、もうすでに始まっている。

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韓国メディアが「日本がデジタル後進国に墜落した理由」を紹介=韓国ネット「匠の精神は幻想」

2021年11月25日 04時35分36秒 | 経済

2021年11月21日、韓国メディア・韓国経済は「世界最高の技術を誇った日本がデジタル後進国に墜落した理由」と題した記事を掲載した。

日本経済新聞は先ごろ、約20年前に米グーグルに入社した「日本最高の頭脳を誇る人材たち」のコメントを紹介し、日本がなぜデジタル競争に負けたのかを分析。詳しく紹介している。

記事によると、スイスのビジネススクール、国際経営開発研究所(IMD)が先月に公表した2021年の「世界デジタル競争力ランキング」で、日本は64カ国・地域のうち28位と評価された。13年には20位だった。一方、13年に38位だった中国は15位に浮上し、米国は18年以来、不動の1位を守っている。

一時は米国と世界一の座を争った日本の競争力がなぜここれほど落ちたのか、IMDは「高付加価値を生産する人材が不足し、時代に対応するスピードに欠ける。その結果、世界で勝負できる事業を育てられていない」「こうした弱点が米国などとの差を生んだ」と分析している。また、「技術力は依然、世界最高」を自負する日本が、デジタルとITで世界最低水準に落ちた原因は「投資不足」だとも伝えている。グーグルが本格的に成長を始めた頃に入社した日本人たちは共通して、人材、会社の風土、スピード、スケール感を日本の敗因として指摘したという。

記事は「デジタル技術が急激に発展するニューノーマル時代が求めるビジネスモデルの中核は、誰がより速く正確にトランスフォーメーション(事業転換)に成功するか」だとし、「日本企業の長所とは正反対の特質」だと指摘している。日本が世界最強の競争力を誇る部品・素材産業の根幹は「匠(たくみ)の精神」だが、これが日本企業のトランスフォーメーションを困難にし、日本経済の足を引っ張っているとしている。また、「匠の精神が根強い日本の製造業は、未完成の製品を世に出すことを恥だと考えており、毎日トレンドが変わる現代の事業モデルには合わないやり方だ」とも述べている。

最後に記事は、「韓国もおごっていてはいけない」と警鐘を鳴らしている。多くの韓国人が世界最高水準のスマートフォン普及率とインターネット速度を掲げ「韓国は今もデジタル最強国だ」と錯覚しているが、現代はもはやハードウェアインフラの重要性が低下している上、IMDのランキングでも韓国は昨年の8位から12位に転落していると伝えている。日本よりは上だが、11位から8位に順位を上げた台湾に逆転を許し、2位香港、5位シンガポールなどアジアの競合国にも後れを取っている。「日本がデジタル競争で敗北した要因を、韓国もかみしめなければならない」と伝えている。

この記事に、韓国のネットユーザーからは「原因は『匠の精神』?。笑わせてもらった」「匠の精神は日本が作り出した幻想にすぎない。日本はウォークマンやブラウン管テレビのようなアナログ時代の惰性に浸ってデジタルへの転換に消極的だったから、デジタル後進国になったんだ」「日本が後進国になったのは自民党のせいでしょ。長期執権により日本を過去にとどめてしまった。未来へのビジョンもなく、今の権力だけを求めようとして、国家システムの変革に失敗した」「原因はいろいろあるだろうけど、最大の問題点は政治だと思う」「2000年代までは先進国だったと認めるが、今は後進国だ。過去の中に生きているFAX JAPAN」「21世紀に印鑑を押す機械がある国だよ(笑)」などのコメントが寄せられている。

また、「韓国もネット強国だと錯覚してはいけない。この国にはソフトウェアをまともに作る会社が一つもない」「デジタル競争力は中国がアジアのワントップでしょ。韓国は比較にもならない。最後のとりでが半導体だな」「環境への適応が少し遅れたからといって、本質はどこにも行かない。自分たちの心配をしなければいけない」「この世に永遠なんてないんだよ」などの声も上がっている。(翻訳・編集/麻江)

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アベノミクスの7年半で日本は「米国並み」から「韓国並み」になった

2021年11月18日 07時18分27秒 | 行政

 日本の賃金や1人当たりGDP(国内総生産)は、アメリカの6割程度と低い水準だ。表面的に見ると、アメリカの成長率が高かったのに対し日本が成長しなかったことが原因だ。しかし、本来は為替レートが円高になって、この差を調整したはずだ。

“円安政策”を取ったことが日本を貧しくした基本原因だ。

日本の1人当たりGDPは

アメリカの63%でしかない

 日本の賃金が安いことが問題になっている。OECDの賃金データで見ると、2020年に日本が3万8514ドル。これはアメリカの6万9391ドルの55.5%だ(注)。

 その他の類似指標でも同様の傾向が見られる。

(注)OECDの賃金データは、実質賃金の購買力平価評価だ。このため、過去の時点での国際比較はできない。しかし、2020年基準であるので、20年の値は名目値を市場為替レートで換算したのと同じ値になるはずだ。

 20年の1人当たりGDPは、日本では4万146ドルであり、アメリカの6万3415ドルの63.3%だ。

 ビッグマックの価格で見ると、21年6月で日本の価格は390円。当時の市場為替レート(1ドル=109.94円)で換算すると3.55ドルで、アメリカの5.65ドルの63%だ。

 このようにさまざまな指標で見て、日本はアメリカのほぼ6割程度の水準だ。これが「安い日本」と言われる現象だ。これは大きな問題だ。

 とくに賃金が低水準なのは由々しき問題だ。

 岸田文雄政権は「成長と分配の好循環」を掲げ、近くまとめる経済対策でも賃金を増やした企業の税を軽減するなどの「賃金引き上げ策」を盛り込むという。だがそれで効果があがるのかどうか。

 まずはなぜこうなったのかを明らかにする必要がある。

アベノミクスの期間に、

日本の地位が急低下

 賃金やGDPの問題でよくいわれるのは、過去20年以上にわたって日本がほとんど成長しなかったことだ。それに対して、世界の多くの国で経済が成長した。「このため、日本が取り残された」と言われる。

 以下では、このことが正しいのかどうか検討を進めよう。

 まず、1人当たりGDPについて考えよう。

 1人当たりGDPは賃金とほぼ同じ動向を示す指標であり、各国の賃金データよりも1人当たりGDPのほうが国際比較データを入手しやすい。

 これについての時間的な推移を見ると、図表1に示す通りだ。

 2000年に、市場為替レートで換算した1人当たり名目GDPは、アメリカが3万6317ドル、日本が3万9172ドルであり日本が8%ほど高かった。

 ところが、その後の成長に大きな差があった。00年から20年の間に、自国通貨建て1人当たり名目GDPは、日本では422万円から428万円へと1.4%しか増えなかったのに対して、アメリカでは3万6317ドルから6万3358ドルへと74.5%も増えた。

 他方、市場為替レートは、00年も20年もほぼ105円~110円程度であまり変わらなかった。

 このために、市場為替レートで換算すれば20年に日本はアメリカの63%になったということになる。

円高に向かう調整を抑制

円安で購買力が低下したことが問題

 以上で見る限り、日本が貧しくなった原因は日本の成長率の低さだということになる。

 確かに、表面的に言えばそうだ。しかしここで止まらずに、さらに検討を続ける必要がある。

 なぜなら、アメリカで物価が上がり日本で上がらなければ、あるいはアメリカで名目賃金が上がり日本で上がらなければ、本来なら為替レートが円高になって調整するはずだからだ。

 このことは、「実質為替レート指数」という概念によって表される。これは、実際の為替レートと購買力平価との比率で、ある国の通貨の購買力がどのように変化したかを、基準年次を100として示すものだ。

 2010年を100とする実質実効為替レート指数は、00年で130程度だったが、20年では70台に低下している。

 こうなったのは、日本で金利を低くして、円高になる調整を抑圧しているからだ。

 購買力が00年と同じくなるには、円の価値が130÷70=1.9倍になる必要がある。つまり1ドル=105円でなく、計算上は1ドル=105÷1.9=55円になる必要がある(注2)。

 このレートで換算すれば、日本の1人当たりGDPは7万7826ドルとなり、アメリカの6万3358ドルより高くなる。

 これは、「非現実的な見方だ」と思われるかもしれない。

 ポイントは、「1ドル=55円になるべきだ」というのが非現実的なのではなく、円の購買力が「非現実的なほどに低下した」ことだ。

 もう少し現実的に、アベノミクス以前と購買力を同じにすることを考えよう。

 13年の実質レートは100だった。20年に70だったから、100÷70=1.43倍にする必要がある。つまり、1ドル=105円でなく、1ドル=105÷1.43=73円にする必要がある。

 このレートで換算すれば、日本の1人当たりGDPは5万8636万ドルとなる。アメリカより7.5%ほど低いが、「ほぼ同程度」と言ってもよいだろう。

(注2)実効レートは、ドルだけでなく、さまざまな通貨に対する平均値だ。ここではドルに対しても同じ値だと仮定している。

 つまり、アベノミクス以前と同じ購買力を維持できていれば、日本の賃金はいまでもアメリカ並みであったはずだ。

 ところがアベノミックスの期間に急激な円安が生じ、現在のような状況になったのだ。

 したがって、現在の日本の低い賃金や「安い日本」を問題とするのであれば、その責任はアベノミクスにあるということになる。

 シャーロック・ホームズ・シリーズの『銀星号事件』で、ホームズは、犯人が侵入した時間に「犬がほえなかった」ことが不思議だと言う。あって当然なのになければ、それが問題を解くカギだ。異常な円安に対して、番犬がほえなかったのが日本の問題なのだ。

ビッグマックのデータで見ても、

為替レートが物価の差を調整せず

 以上で指摘したことは、ビッグマックのデータでも確かめられる。

 この指標で、日本はいま調査国中の最下位グループにある。

 アベノミクス前の2012年6月に、日本のビッグマック価格は320円だった。このときの為替レートは1ドル=78.22円。これで換算すると4.09ドルとなり、アメリカの4.33ドルとあまり変わらなかった。

 21年6月では、日本のビッグマック価格は390円、市場為替レート(1ドル=109.94円)で換算すると3.55ドルで、アメリカの5.65ドルの63%だ。

 ところが、為替レートが12年6月と変わらないとすれば、21年6月の日本のビッグマックは4.99ドルになったはずだ。これはアメリカのビッグマック5.65ドルの88.3%だ。アメリカより安いとはいえ、問題にするような差とはいえない。

 ここから得られる結論も前と同じだ。為替レートが物価上昇率の差を調整していないことが問題なのだ。

円安は労働者に還元されず

生産性高めることにもつながらず

 以上のような見方に対して、次のような意見があるだろう。

 アベノミクス以前の円高は異常なものであり、企業(とくに製造業の輸出企業)が立ち行かなくなっていた。それを金融緩和で円安にしたから日本が立ち直ったのだと。

 しかし、本来であれば、為替レートが円安になっても企業の利益が増えるはずはない。なぜなら、円安によって輸出物価は高くなるが、同時に輸入物価も同率だけ上がるからだ。

 企業の利益が増えたのは、輸入物価の値上がりを消費者価格に転嫁する一方で、輸出物価の値上がりを労働者に還元しなかったからだ。

 このようなメカニズムが企業利益を増加させたのだ。

 本来であれば、円高に対して、技術革新で生産性を向上させて対応すべきだった。低成長をもたらしたのは、技術開発が行なわれなかったからであり、それは円安によって企業が安易に利益を増加できたからだ。

 このことは本コラム(2021年10月7日付)「日本は『技術進捗率』マイナスの異常事態に陥っている」、同(2021年9月16日付)「円安の『麻薬』に頼りつづけ日本の購買力は70年代に逆戻り」でも指摘したので、参照してほしい。

 だから、円安政策こそが日本を貧しくした根本的な原因だということになる。

「韓国並み」から

地位がさらに低下する懸念

 こうして、日本の地位は、円安政策を取り続けたアベノミクスの期間に急激に低下した。

 それに対して韓国では、2000年から20年にかけて自国通貨建て1人当たり名目GDPが1386万2167ウォンから3733万3541ウォンへと2.69倍にもなった。13年から20年だけをとっても、25.4%増加した。

 これによって、韓国は世界経済における地位を高めたのだ。韓国の1人当たりGDPは 直近では世界で29位(日本は第24位)だ。

 こうして「日本がアメリカ並みから韓国並みへ」という変化が起きた。

「韓国並み」が続けばよい。しかし、これまでのトレンドが続けば、韓国と日本の差は拡大していくだろう。

 日本は近い将来に台湾並みになり、マレーシア並みになる。そこで止まらず、インドネシア並み、ベトナム並みになるのもそう遠い将来のことではないかもしれない。

(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)

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