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プレジデントオンライン 横並びで放尿しながらの雑談で驚嘆…稲盛和夫さん「希代のカリスマ企業家」じゃないほうの意外な素顔

2022年09月03日 05時56分46秒 | 経済

京セラを世界的な企業に育て、日本航空を再建した“希代のカリスマ企業家”稲盛和夫さんが亡くなった。ご本人に複数回取材したジャーナリストの勝見明さんは「稲盛さんは3つの顔を持っていた。『数字に厳しい経営者』『徳のある賢人』、そして、自ら語るどこにでもいるオッチャンとしての愛すべき『普通の人』です」という――。

「トイレに行くと稲盛氏もいて2人で並んで用を足した」

希代のカリスマ企業家、稲盛和夫氏は3つの顔を持っていた。「数字に厳しい経営者」「徳のある賢人」、そして、「普通の人」だ。その中でも、私が取材を通して最も印象に残るのは「普通の人」の顔だった。

それは、経営破綻した日本航空(JAL)が、会長として着任した稲盛氏の経営手腕により、V字回復した2012年夏のことだった。JALの破綻と日本経済の衰退が二重写しに見え、危機感を覚えた稲盛氏が、日本再生に向けたメッセージを発信する本を出すため、長時間取材をしたときの一コマだ。

取材を終え、私がトイレに行くと稲盛氏もいて、2人で並んで用を足すことになった。黙っているのも気まずい。私から話しかけた。

【筆者】今も東京通いですか。

【稲盛】そうですわ。

【筆者】大変ですね。

【稲盛】もう慣れましたわ。

それから2~3分世間話を交わした。その日、稲盛氏が東京から京都に着いて、取材場所に来る途中、よく利用する町中華の店に寄って、好物の焼きそばと餃子を食べたことなど、たわいのない話だ。ちょっと前まで取材で見せた「徳のある賢人」の顔とはまったく対照的だった。

取材時はこんな具合だった。私が質問すると、目を閉じて俯き、2~3分間、黙って考え込む。おもむろに目を開け、論語などの中国思想に基づいた自らの哲学を噛んで含めるように語り始める。

「どこにでもいるオッチャンですわ」と自ら称した理由

稲盛氏は65歳のときに在家で得度しているが、その姿はまさに禅僧を思わせた。「聖」のオーラが強かった分、取材後の「俗」の姿が印象に残ったのかもしれない。

「普通の人」の顔を2度目に見たのは、2015年夏、同じ1932年生まれで、長年私的にも交友のあった鈴木敏文セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEO(当時、現・名誉顧問)との初めてのカリスマ対談の進行役を務めたときだ。

実は2人には共通点が多い。子供時代は人前で話すのが苦手。どちらも中学入試(旧制)に失敗。就職も思うに任せず、鈴木氏は父親のツテ、稲盛氏は大学教授の紹介で就職先を見つける。鈴木氏はセブン‐イレブンを、稲盛氏は京セラを起業。事業を軌道に乗せていくなかで、それぞれ「単品管理」「アメーバ経営」と独自の経営モデルを生み出した。

超ビッグ対談は挨拶がわりの健康法談義から。「土曜日は天気がよかったら、ゴルフに行く。普段運動をしないので歩くのが目的」と、ゴルフ健康法を披露する鈴木氏に対し、「私はずぼらなもんで、暇なときはちゃぶ台の前にどてっと座ったきり。あとは散歩がてら買い物に出かけたり」と、照れながら話す稲盛氏、と好対照だ。

対談は2時間半に及び、最後に雑談モードになったとき、相手が親しい鈴木氏だけにリラックスしたのか、こんなエピソードを披露した。そのときの録音をそのまま紹介しよう。

【稲盛】私、セブン‐イレブンというのは大変好きでして、おにぎりも買ってます。この前はうちの下に降りていきますと、駅の近所にセブン‐イレブンがあるんですが、お昼散歩がてらそこへ寄ったら、ちょうどスパゲティのミートソースのナポリタンが冷蔵庫みたいなのにあって、それを買って帰って、家内に、おい、セブン‐イレブンでこんなの買ってきたぞって言ったら、見て、これは電子レンジ専用と書いてありますよと。で、うちは電子レンジは昨日から故障してるんですって(笑)。近所の娘に電話して、お父さんこんなの買ってきたんで、あんたの電子レンジ貸してくれって(笑)。

自ら「どこにでもいるオッチャンですわ」と称していたが、そのオッチャンぶりに、現場にいたスタッフ全員が大爆笑した。

「人間として何が正しいのか、その一点で考える」

ただ、対談のしめくくりに、「お2人に一番共通するのは判断の基準が明確なことです。悩まず、迷わず、決断する秘訣をお聞かせください」とお願いすると、稲盛氏は一転、「徳のある賢人」の顔に戻った。

鈴木氏が「私は、1つのことをこう決めたら、次はまたこうしようと連続的に考えていくので、そんなに悩むことはありません」と実務家タイプの経営者らしい答えをしたのに対し、稲盛氏はこう答えたのだ。

【稲盛】私も同じで、さほど悩みません。損得ではなく、人間として何が正しいのか、その一点で考える。自社にとって不利でも、正しいと思うことを選択するのであまり迷いません。

そして、その例として、JAL再建過程でのある決断について語った。提携先のアライアンス(航空連合)を決めるときの話だ。

JALは従来、アメリカン航空を盟主とする「ワンワールド」に加盟していた。倒産後、行政を中心に政治家たちも含め、デルタ航空が盟主のスカイチームへの鞍替えの動きが出た。スカイチーム側からも多額の支援の申し入れがあり、社内でも「移るべき」という意見が大勢を占めた。

条件的には鞍替えのほうが有利だった。しかし、稲盛氏は両陣営のトップ級と会い、話を聞いた上でワンワールド残留を決めた。その理由をこう語ったのだ。

「何より、今までずっと一緒に組んできたアメリカン航空には何の落ち度もないのに簡単に鞍替えするのは、人間として正しいことなのか。幹部社員たちも最後は賛成してくれました」

「人間として何が正しいのかで判断する」。これは、稲盛氏が京セラを経営するなかで学んだものを折に触れてまとめた哲学、「京セラフィロソフィ」の中心概念だ。

稲盛氏がJAL再建のため、会長職として着任し、幹部社員を対象に行った「リーダー教育」もフィロソフィをもとにリーダーのあり方を説くものだった。稲盛氏は、幹部たちの意識改革を徹底するため、自ら講師となって強く訴えた。

企業経営は損得以前に、「人間として何が正しいのか」、善悪でものごとを判断すべきである。それには「無私の精神」が必要であり、それを支えるのが「利他の心」の精神性と倫理観である。

善悪の基準とは、「人をだましてはならない」「ウソをついてはいけない」「人に迷惑をかけてはいけない」といった、子供のころに両親や先生から教えられたようなプリミティブなことが原点にある。大企業の最高幹部であっても、それがおろそかになると経営判断を誤ることが多い。だから、人間としてのベーシックな精神のありようや倫理観を、もう一度取り戻そう、と。

「必要な数字は向こうから目に飛び込んでくる」

講義終了後は、毎回、飲み会だ。会費を出し合って、缶ビールと焼きそばや餃子などの簡単なつまみだ。稲盛氏を囲んで車座になり、膝をつき合わせながら、酒を酌み交わし、胸襟を開いて語り合う。幹部たちは、昼間、講義で目にした「徳のある賢人」の中に血の通う等身大の稲盛氏を感じたことだろう。

当初、学歴とプライドは高いが当事者意識に欠け、評論家的言動が目立った幹部の中には、稲盛氏の説くフィロソフィに違和感を覚え、あまり乗り気でなかった者もいた。それが、回を重ねるごとに、だんだんと幹部たちの目の色が変わり、フィロソフィへの理解を深めていった。やがて、「もっと早くこのような教育を受けていたら、JALは倒産することもなかった」と発言する人も出てきた。

リーダー教育は、幹部から管理職へと広げ、同時に稲盛氏は空港の現場を回り、社員たちにも直接語りかけ、意識改革を求めた。

「JALに搭乗されたお客様が、またJALに乗ってあげようと思っていただけるような仕事を心がけていただきたい。一線に立つみなさんが、新しいJALの象徴になるのです」

「あの人たちが働いてくれているなら、あの飛行機に乗ってみようとお客様に思っていただけるような接遇をしましょう」

80歳に達する年齢で、無給で陣頭指揮し、ホテル暮らしで、夜はコンビニのおにぎりを食べ、再建に全身全霊を傾ける姿そのものが社員たちにとって大きな範となった。

こうして意識改革が進むなかで、京セラフィロソフィをベースとして、再建に向けたJAL社員の行動規範として、「自ら燃える」「お客様視点を貫く」「一人ひとりがJAL」といった40項目からなる「JALフィロソフィ」がつくられるのだ。

一方、「数字に厳しい経営者」の顔に徹したのが経営会議や業績報告会の場面だった。フィロソフィには「売上を最大に、経費を最少に」の項目もある。配布されるA3サイズの資料にはおびただしい数の数字が並ぶが、稲盛氏は細かな数字も見逃さない。

機長出身で稲盛氏に社長に抜擢された現会長の植木義晴氏によると、稲盛氏はよく「必要な数字は向こうから目に飛び込んでくる」と語ったという。

資料上の数字についての突っ込んだ質問に対し、明快に答えられないと、「これ以上は時間のムダだ」とものの5分で退席させられた役員もいた。

口癖は「数字を躍らせるな」。経営上の数字には必ず意味や背景があるから、常に敏感に反応し、必要な対応策を俊敏にとる。経営破綻前、月次実績が出るのは3カ月後だったが、稲盛氏が「翌月」を求めて実現させると、報告会の情景が変わっていった。前は数字に疎く、「八百屋も経営できない」と稲盛氏に酷評された役員たちが、機器一つひとつの値段まで調べるようになったのだ。

「そのころから、全社をあげて経費節減が始まりました。チリも積もれば山となるで、数字が毎回よくなっていく。自分たちにもできるんだ。数字を見るのが楽しくなっていきました」と前出の植木氏は振り返る。

「悩んで、悩んで、でも続けろ。必ずどこかでわかる」

やがて、フィロソフィと並んで稲盛経営学の両輪をなす「アメーバ経営」が導入される。組織を小集団に分け、それぞれが独立採算制により運営し、社員一人ひとりの当事者意識を持たせ、全員経営を実現する手段だ。これが全社あげての経費削減活動を促進し、一人ひとりの採算意識を高めていった。

筆者は空港の現場でその経費削減ぶりを取材したことがある。キャビンアテンダントは機内に持ちこむ自分たちの荷物について「1日1人500グラム減」に取り組む。整備現場では備品ごとにスーパーの店頭のように値札を張り、コスト意識を高める。ウェス(機械の清掃用布)は社内で集めた古着を使う。地上スタッフも、故障した拡声器が2台あったら、片方から部品を取り、もう一方の部品と交換して2つを1つにして使った。

アメーバ経営により、一人ひとりが自律的に判断し、行動する。フィロソフィが判断基準となり、行動規範となる。JALの復活は会社更生手続きにおける措置も寄与しているのはいうまでもない。ただ、全社員の自主的な経営削減に取り組みにより、再建2年目には計画より800億円近く経費を削減し、目標を大幅に超える営業利益を残すことができた。ついには世界のエアラインの中でもトップクラスの収益力を誇るまでにV字回復を果たすのだ。

あるグランドスタッフにJALフィロソフィの中でどの言葉が好きか聞いてみたことがある。

「『美しい心を持つ』。私はこの言葉が好きです。私たちの心がすさんでしまったら、お客様に最高のサービスが提供できなくなってしまうからです」

「美しい心」。それはまさに稲盛氏が強く求め続けたものだろう。

植木氏は一時期、「人間にとって何が正しいか」の判断で迷ったことがあり、稲盛氏に相談すると、こんな答えが返ってきたという。

「いいんだ、悩め。お前は今まで人間として何が正しいか判断したことはないだろう。それを今学んでいるんだ。悩んで、悩んで、でも続けろ。必ずどこかでわかってくる」

稲盛氏の予言「3年後の2025年に日本は“衰”のどん底」

稲盛氏は歴史を俯瞰する目も持ち、「日本は40年ごとに“盛”と“衰”を繰り返す」が持論だった。

・幕末・明治維新(1868年)=「衰」

 

・日露戦争勝利(1905)=「盛」

・太平洋戦争敗戦(1945年)=「衰」

・プラザ合意(1885年)=「盛」

――のように、「盛」の頂点と「衰」のどん底が40年ごとに到来する。

この法則にしたがえば、3年後の2025年に、日本はまた「衰」のどん底を迎えることになる。その可能性は否定できない。冒頭で紹介した本も、その危機意識から発案されたものだった。書名の『燃える闘魂』はフィロソフィにある言葉だ。

日本をいかに再生するか。稲盛氏の遺志を継いで、われわれも悩んで、悩んで、答えを探さなければならない。

---------- 勝見 明(かつみ・あきら) ジャーナリスト 1952年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退後、フリージャーナリストとして、経済・経営分野を中心に執筆を続ける。著書に『鈴木敏文の統計心理学』『選ばれる営業、捨てられる営業』ほか多数。最新刊に『全員経営』(野中郁次郎氏との共著)。 ----------

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