タイムリミットとワークリミットのせめぎあい
子どもを育てる過程でも、「急いで」「速く」「遅れるな」「時は金なり」などなど、タイムリミットを強調する叱責や督励の決まり文句を、保護者や教師は頻発する。一定時間内に何かをしなくてはいけないとの規範感覚(タイムリミット感覚)、さらに、一定時間内にできるだけたくさんのことをこなせる能力(タイムリミット能力)を育てることは、子どもを社会化していく基盤の一つであるし、さらに、集団として動く教育現場における統制をとるためにも、絶対に必要である。
しかし、人の心や行動は、物理的な(時計的な)時間だけではなく、それとは別のオーダーで流れている心理的な時間にも従っている。(注2)しかも、セルフペース、マイペースという言葉があるように、心理的時間のオーダーには個人差もある。子どもでは、この点の個人差は極めて大きい。
そこに、タイムリミット感覚・能力を育てる難しさがある。 この難しさに拍車をかけるのが、「できたけれども納得がいかない」「もっとやりたい」「もうちょっとでできるから待って」といった言説に反映されるような、ワークリミット感覚である。つまり、時計時間に縛られないで納得のいくまで何かをやり抜きたいとの思いである。 かくして、タイムリミットとワークリミットのせめぎあいが教育現場の随所で、しばしば発生することになる。
教育現場では、圧倒的にタイムリミットが支配することになる。これは、能力の高い子どもには、「時間があればもっと高いところまで行けたのに」という不全感を、能力の低い子どもには「時間がないからできなかった」という逃げ場を提供することにもなりかねない。