Q1・11「TVや雑誌などで心理テストが大はやりのようですが、あれで心が本当にわかるのですか」---心理テスト
テスト理論と呼ぶ心理学の研究領域があります。その理論に従って作成された心理テストなら、ある程度まで、心を「本当に」測ることができます。
テスト理論では、心理テストがその名に値するためには、その検査が使いやすいか(実用性)はもちろんですが、さらに次の2つの条件を満たしていることを要求します。
●測りたいものと測るもの(検査)との間に、心理学的に妥当な関係を想定できること(妥当性)
「心の実験室」に示したのは、Y-G性格検査で「抑うつ傾向」を計るための検査項目です。抑うつ傾向とは、陰気、悲観的気分、罪悪感の強さを感じる傾向性です。
それぞれの質問で問うている内容は、「抑うつ傾向の高い人ならこんな項目に’はい’と答えるであろう」という「心理学的な常識や仮定」に基づいて決められたものです。この常識や仮定がどこまで妥当であるかどうかを問うのが、検査の妥当性です。別の言い方をするなら、妥当性とは、その検査が測ろうとしたものを本当に測っているかどうかということです。
心は目に見えません。性格にしても学力にしても、「これが性格です」「これが学力です」といって見せられるものはありません。「もしこんな性格なら、こんな場面ではこんなふうにふるまうはず、答えるはず」という仮定をおいて、それを計り、そこから性格を推測するしかありません。こういう測定を間接測定と呼びます。
心理検査を作るときに、妥当性は一番やっかいな問題です。テスト理論では、検査の妥当性を保証するためにチェックすべきことがいくつか提案されています。
たとえば、検査による診断と専門家の診断が一致するか、あるいは、検査から将来こうなると予測したことがその通りになるかどうかなどをチェクすることで、検査の妥当性を吟味します。
TVや雑誌などでやられている「心理検査」では、妥当性チェックはまず行なわれていませんから、「えー!こんな検査で心がわかるの?」という疑問は正しいと言えます。
●結果が安定していること(信頼性)
温度計などの物理的な計測でも同じことですが、測定器具を使って何かを測るときには、いつ測っても同じ値が出ることが必要です。これが検査の信頼性です。心理検査でも信頼性が求められます。テスト理論では、心理検査に独特の方法で信頼性が保証されているかどうかをチェックするようになっています。
たとえば、似たような項目をたくさん用意する(反復測定に対応)、同じ検査を十分に時間をおいて測っても同じ結果になるか、あるいは、検査を半分ずつに分割して実施しても同じ結果が得られるかなどです。
妥当性と信頼性が保証されている検査なら、その検査がねらいとしている「心」がそれなりにわかることになります。
テレビや雑誌で遊び心で行なわれる心理検査の多くは、なんといっても、妥当性に問題ありです。したがって、心理検査というより「心理クイズ」の範ちゅうに入るものと考えておいたほうが無難です。
それが人々の興味・関心を引くのは、自分ではなかなかわからない心の世界への洞察を深めるきっかけになるからではないかと思います。そのように考えれば、それなりに意味のあるクイズと言えます。大いに楽しんで、ついでに、それをきっかけにして自分の心を見つめてみてください。
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心の実験室「心理検査を受けてみる」
次の項目のそれぞれについて、自分にあたはまるときには「2」、あてはまらないときは「0」、わからないときは「1」と答えてみてください。
抑鬱傾向尺度
別添
「解説」
得点を合計した値が、あなたの抑うつ傾向得点となります。これをあらかじめ定められている集団の基準(ノルム)と比較して、診断結果---といっても、他の人と比較して高いか低いか程度ですが---を出します。なお、ここでは、著作権保護のため表現を一部変更してありますので、妥当性にも信頼性にも問題がありますので、診断はしません。
抑うつ傾向は、Y-G性格検査の12個の性格尺度のうちの一つです。
こうした項目について自分で内省して答えさせるのが、質問紙による性格検査の特徴です。
したがって、十分な内省のできない小学校低学年などでは、こうした検査は無理です。逆に、十分に鋭い内省力があれば、こんな検査をするまでもなく、自分の性格特性は知ることができるということにもなります。
なお、性格検査には、これ以外にも、単純作業をさせてそこでの結果から性格の意志的な側面を調べる作業検査法と、あいまいな図形を解釈させて、そこから性格の深層を探る投影法とがあります。