事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

ヘアーの不毛 その11「松ヶ根乱射事件」

2021-10-09 | 邦画

その10 シェイプ・オブ・ウォーターはこちら

久しぶりに再見。確か最初に見たのは山形市で封切りのときだったか。

山下敦弘監督作品。前作「リンダリンダリンダ」に感動した客が怒りだすような作品にしたかったのだそうだ。その意図は十分に達成されています(笑)。

多少の装飾はあるが現実にあった話をもとにしている、的なスーパーがオープニングに。どうも信用できないけれども。

雪原に倒れている若い女性。ランドセルを背負った小学生が彼女の身体をまさぐるが微動だにしない。

1990年代初めの寒い田舎の出来事(車はすべて長野ナンバー。「ロード」や「夏の日の1993」が流れる)。警察官の光太郎(新井浩文)が現場に赴き、検死がはじまる。観客はまずここで驚く。その女性は完全なヘアヌードで検視台にのせられているのだ。しかもこの女性を演じているのは川越美和だったのである。あの清純派女優が……ここからドラマは次第にねじれていく。

「センセイ、この人……生きてます」

女性の情夫として木村祐一が登場し、光太郎の双子の兄である山中崇をゆする。ひき逃げしたのはお前だろうと。そのため、兄は犯罪に加担させられ、切れていく。双子の父親の三浦友和は、家を出て理容師(烏丸せつこ)と同居し、その娘(安藤玉恵)をはらませて……

光太郎のまわりが次第次第に狂気をはらんでいく過程が(山下敦弘の本領である)オフビートに描かれる。観客は常にどんな乱射事件が起こるのか、緊張しながら見続ける。そして。

過激な描写(PG-12指定)、嘘っぽい実話という設定、寒い田舎町……これはどう考えてもコーエン兄弟の「ファーゴ」を意識した作品だろう。お好きな人にはたまらないが、激しく憎悪する客もいたはずだ。わたしは大喜びしてしまいましたが。

ただし、この映画は呪われていて、川越美和は2008年に孤独死、新井浩文はご存じの事件のために服役中なのである。

その12「王妃マルゴ 無修正版」につづく


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