
【読み】
一本二十五
荒れたる家の蓬(よもぎ)ふかく
荒れたる家の蓬(よもぎ)深く、葎(むぐら)はひたる庭に、月の隈(くま)なく明(あ)かく、澄みのぼりて見ゆる。
また、さやうの荒れたる板間より洩り来る月。荒(あら)うはあらぬ風の音。
池ある所の、五月長雨(ごぐわちながあめ)の頃こそ、いとあはれなれ・菰(こも)など生ひ凝(こ)りて、水も緑なるに、庭も一つ色に見えわたりて、曇りたる空をつくづくと眺め暮らしたるは、いみじうこそあはれなれ。
いつも、すべて、池ある所は、あはれにをかし。冬も氷したる朝(あした)などは、言ふべきにもあらず。わざとつくろひたるよりも、うち捨てて、水草(みくさ)がちに荒れ青みたる、絶え間絶え間より、月影ばかりは、白々と映(うつ)りて見えたるなどよ。
すべて、月影はいかなる所にても、あはれなり。

いつも、すべて、~=百十四段(あはれなるもの)の断章か?
名文です。読むよりも、声に出して読みたいですね。
わざと=わざわざ。絶え間絶え間より=隙間隙間の(水面)。月影=月光。