創作日記&作品集

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「わたしなりの枕草子」#385

2012-04-23 07:26:18 | 読書
【読み】
 跋(ばつ)文(ぶん)
 この草子、目に見え、心に思ふことを
 この草子、目に見え、心に思ふことを、「人やは見むとする」と思ひて、つれづれなる里(さと)居(ゐ)のほどに、書き集めたるを、あいなう、人のために便なき言ひ過ぐしもしつべき所々もあれば、「よう隠し置きたり」と思ひしを、心よりほかにこそ、漏り出でにけれ。
 宮の御前(おまへ)に、内の大臣(おとど)の奉り給へりけるを、「これに何を書かまし。上の御前には、『史記』といふ書(ふみ)をなむ書かせ給へる」
などのたまはせしを、
「まくらにこそは侍らめ」
と申ししかば、
「さは、得てよ」
とて賜はせたりしを、あやしきを、「こよや」「なにや」と、尽きせず多かる紙を書き尽くさむとせしに、いとものおぼえぬ言(こと)ぞ多かるや。
 おほかた、これは、世の中にをかしきこと、人のめでたしなど思ふべき名を選り出でて、歌などをも、木・草・鳥・虫をも、言ひ出だしたらばこそ、「思ふほどよりはわろし。心見えなり」と、譏(そし)られめ。
 ただ、心一つにおのづから思ふ言(こと)を戯(たはぶ)れに書きつけたれば、「ものに立ち交じり、人なみなみなるべき耳をも聞くべきものかは」と思ひしに、「恥づかしき」なんどもぞ、見る人はし給ふなれば、いとあやしうぞあるや。 げに、そもことわり、人の憎むを「善し」と言ひ、褒むるをも「悪(あ)し」と言ふ人は、心のほどこそ推し量らるれ。ただ、人に見えけむぞねたき。
 左中将、まだ「伊勢守(いせのかみ)」と聞こえし時、里におはしたりしに、端の方なりし畳をさし出でしものは、この草子(さうし)載(の)りて出でにけり。惑ひ取り入れしかど、やがて持ておはして、いと久しくありてぞ、返りたりし。それより、歩(あり)き初(そ)めたるなめり。
             とぞ、本(ほん)に。

【読書ノート】
 いよいよ終わりです。長く、苦闘の連続でしたが、楽しかった。
 跋(ばつ)文(ぶん)=あとがき。
 人やは見むとする=見るかもしれない。
 あいなう=あいにく。便なき=不都合な。よう=よく。心よりほか=思いがけない。奉り給へりける=献上なさった(紙)。
 まくら=枕草子の名の由来です。諸説紛紛です。『史記』に掛けたものとするが有力なようですが、貴重な紙をそんなものにという気もします。→枕草子・上坂信男著。やはり、随筆のようなものを指していたのではないでしょうか。続く文は「随筆」そのものですものね。尽きせず=限りなく。下の「多かる紙」にかかる。また、ここで切る。切った方が流れはスムーズですね。
 ものおぼえぬ言(こと)=わけの分からないこと。
 おほかた=大体。心=考えの底。
 心一つに=私の心の中だけで。もの=他の書物。耳をも聞く=評判を耳ににする。「恥づかしき」=こちらが恥ずかしくなるほど立派だ。言ふ人=天の邪鬼な人。作者とも作品を褒める人ともとれます。
 左中将=源経房(つねふさ)。→七十九段、百三十六段。やがて=そのまま。歩(あり)き=流布する。
 本(ほん)=原本。奥(おく)書(がき)の決まり文句。

 私の跋(ばつ)文(ぶん)は何れ。