創作日記&作品集

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小川洋子の陶酔短篇箱・小川洋子[編著]5

2014-03-17 10:03:10 | 読書
「雀」・色川武大
素晴らしい短篇である。最後の数行は、唸った。役に立たない男。世間にも家庭にも無用の父親。この描写が秀逸である。多分実体験だろう。戦時中、無職の父親は、青年団長とか町会長とかいう役に狩り出される。張り切って彼は、町民名簿みたいなものを作る。某という所帯が話題になると、そのページをあけて、全てのデータを一瞥する。
「見ろ、ここにちゃんと書いてある」
というが、それだけのことである。
太宰治も、青年団長とか町会長になって張り切っていたらしい。彼らの心の底には、戦争に行っていないという引け目と、自分も戦争(世間)に参加したいという気持が複雑に絡んでいたのだろう。
さて、そんな父親をもつ兄弟だが、兄(私)は電車の妄想にとらわれ、弟は、電車のマニアになっている。父親の血が兄弟に潜んでいる。
弟が、死んだ父親が「雀の戸籍」を作っていると言う。初めて、「雀」が出てきて、小説は閉じられる。
解説エッセイも面白い。「何の役にも立たないことをするのが、こんなにも困難とは意外だった」。そんなに困難なんかなあ。僕は小説を書いたり、ブログを書いたり、「何の役にも立たないこと」ばっかりしていますよ。